第31話 「妖精の国アヴァロンにて③」
アヴァロンの王宮へ入ってからは……
王都セントヘレナのヴァレンタイン王家王宮とほぼ同じ勝手だった。
ティナ父ベリザリオに先導されながら……
護衛を務める
俺は勿論だが、タバサももう慣れたものである。
堂々と振る舞い、ティナを
そして……
王の間らしき場所へ……
いよいよ謁見である。
ボヌール村ではフレンドリーに付き合えたオベロン様夫妻も、
妖精の王国アヴァロンにおいては、頂点に位置するやんごとなき方々である。
俺とタバサ、そしてティナが跪く場所から……
遥か前方に並んだ一対の玉座にふたりはお座りになっていた。
あくまでも謁見の型式を取っているので、
俺達は臣下と同じように対応しなければならない。
念話は失礼にあたると思ったので、肉声を使う。
「ご機嫌麗しゅう、オベロン様、ティターニア様」
と、俺が挨拶すれば、
オベロン様達も、そこは良く分かっている。
調子を合わせてくれ、厳かに言い放つ。
「うむ、久しいな、ケン・ユウキ、その一子、タバサよ。それによくぞ無事で戻った、アルベルティーナよ」
「皆の者、
ゆっくりと顔をあげた俺達。
オベロン様は以前、ご尊顔を拝見しているが……
ティターニア様は人間の少女テレーズに擬態した姿しか知らない。
『本当の姿』を見るのは初めてである。
ティターニア様はやはりというか、子供ではなく、妙齢の女性である。
イメージは何となくだが……
俺が容姿を変えた変身前のグレース、
つまり、かつての伯爵令嬢ヴァネッサに似た金髪碧眼の美しい女性だ。
「ケン、まずは礼を言おう。この度は我が同胞アルベルティーナを救って貰い、感謝する」
「王の仰る通りですよ。私も感謝しております」
と、オベロン様達からは御礼の言葉を告げられた。
だが、褒められたからといって、けして
ここでは謙虚な態度に徹するのが『吉』である。
まあ、威張るつもりはまったくないので俺には楽勝だ。
「いえ、当然です。窮地に陥った者を助けるのが我が役目、常々そう考えております」
と控えめに返せば、お約束のセリフが……
「うむ、ケンよ。いつもながら殊勝な態度、あっぱれである」
「ええ、後ほど褒美を取らせましょう」
ふたりは言い、続いて命令を下す。
「侍従長、急ぎ人払いせよ。ケン、タバサを残し、他の者達は別室に下がれ」
「但し、アルベルティーナだけは残って構いません」
オベロン様から『侍従長』と呼ばれたのは、見た目が老齢の妖精である。
「はは!」
侍従長は大きな声で了解の返事をし、護衛の兵士達を引き連れ部屋を出て行った。
また渋々という表情で、ティナ父ベリザリオも退出して行った。
暫しインターバルを取り、完全に人払いが完了したと知るや……
オベロン様達の態度は一変した。
親しみ深さがにじみ出て、ふたりとも、満面の笑みを浮かべている。
「ははは、ケン。本当に久しぶりだ! 再び会えて嬉しいぞ! 今夜は存分に飲もう! 良きワインを用意した」
「お父様! テレーズはまた会えて嬉しいですっ!」
「はい、おふたりとも本当に久しぶりですね」と俺。
「テレーズ……お姉ちゃん!」とタバサ。
何という砕けたやりとり。
フレンドリーさ、満開である。
その場でただひとり、呆気に取られているティナを見て、
俺とタバサは顔を見合わせ、微笑んだのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その夜……
感謝と歓迎の宴が開かれた。
たくさんの料理、飲み物が出され、
不思議な音色の音楽が室内に流れ、美しい妖精の踊り子が舞う。
妖精に囲まれ、歓待されるなんて、とても不思議な気分である。
まあ全員、俺とタバサに合わせて人間の姿に擬態している可能性は大なのだが……
宴の終了後、俺とタバサはそれぞれ別室へ。
俺はオベロン様と『さし』で、
一方、タバサはティターニア様の居間へ、ティナと3人で語り合う事に。
旧交を温めるのは勿論だが……
今回は伝えなければならない、大事な案件もある。
タバサの方は、俺の話をする事を含め、3人で楽しく盛り上がるだろう。
閑話休題。
オベロン様の居間に案内され、ふたりきりになると……
かつてボヌール村で語り合った夜を思い出す。
「ケン、改めて礼を言わせてくれ。今回は……いや今回も! だな。本当にありがとう」
「いえいえ、ティナを助けるのは当然です。オベロン様にはご迷惑かもしれませんが、俺は勝手に思っている事がありますから」
「ふむ、勝手に思うか? 実は私もそうだ」
「え?」
「先に言っておくぞ、ケン。私はな、お前が親友であると同時に、実の弟だと思っている」
あ、ああ……
言われてしまった。
先に、はっきりと言われてしまった。
俺も!
俺だって……
オベロン様を親友、そして実の兄のように感じている。
初恋の相手クミカと巡り会っただけではない。
愛する嫁ズ、大切な家族だけではない。
目の前のオベロン様、そして先日再会したレイモン様も。
ひとりっ子だった俺は、この異世界へ来て、
敬愛する素晴らしき『兄』達と邂逅する事が出来た。
そう、実感しているから……
「相変わらず、頑張っているな、ケンよ」
「きょ、恐縮です」
「はは、そう他人行儀になるな」
と、オベロン様は笑い、
「ひとりで頑張り過ぎるな。もっと私を頼れ。お前が魂の絆を結んだ仲間達を頼れ」
そう熱く告げてくれた。
俺は……
胸がいっぱいになる。
歓びの気持ちがあふれて来る。
「オ、オベロン様」
「私には分かる、はっきりとな!」
「…………」
「ケンよ、心しておけ。転生し、たったひとり、この世界へ来たお前は……」
「…………」
「今や、けしてひとりきりではない! 家族は勿論だろうが、妖精の私達を始め、お前を守り、助けようとする大勢の仲間達が居るのだ」
も、もう駄目だ!
限界だ!
俺は……
優しい
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