第20話 「リハビリ提案」

 いろいろ紆余曲折うよきょくせつはあったが……

 完全に打ち解けた俺達と妖精アルベルティーナ。

 俺は既に、今後の計画を立ててある。 


『じゃあ、これからの予定を言おう』


『予定?』


 俺の話が見えていないのだろう。

 アルベルティーナはきょとんとしている。

 俺は頷き、説明を続ける。


『ああ、そうさ。ずっとホテルに居るのも飽きるだろう』


『ま、まあ……そうですね』


『だから、アルベルティーナのリハビリテーションも兼ね、王都観光を行おうと思う』


『リハビリテーション?』


『ああ、リハビリテーションという言葉はね、再び、適した、というふたつの意味が合わさっているんだ』


『再び? 適した?』


『うん! つまり、本来あるべき状態への回復という事さ』


 ここでアルベルティーナが大きく頷く。

 どうやら理解してくれたらしい。


『あるべき状態への回復? つまり私が元通り元気になるって事ですか?』


『まあそんなところさ。アルベルティーナ、お前はあの特殊な魔法檻に閉じ込められ、だいぶ魔力を吸収されていたもの』


『ええ、あと少しで死ぬところでした……よ』


『良かったな、もう大丈夫だ。身体をいたわって休めば、すぐ元気になるぞ』


『うん! 私が助かったのは……ケンとタバサのお陰だね……ありがとう!』


 お気付きだろうか……

 最初は固い命令口調でやけに高圧的だったアルベルティーナの話し方が、とても柔らかくフレンドリーになって来ている。


 それどころか言葉の端々に温かみが感じられ、終いには礼まで言ってくれた。

 はっきり分かる。

 俺達とアルベルティーナの心の距離は確実に縮まっている。


 傍らのタバサも念話でずっと話を聞いていて、にこにこしている。

 アルベルティーナを助けるように、質問を投げかけて来る。


『ねぇ、パパ、王都観光って何をするの? まだタバサが行っていない所?』


『ああ、詳しい事はサプライズって事で』


 うん、まだ内容は明かさない。

 タバサとアルベルティーナ両名を驚かせて、その上で喜んで貰いたいから。


『サプライズ?』


『細工は流流りゅうりゅう、仕上げを御覧ごらんじろってね』


 と言えば、タバサはポカンとした。


『は? パパ、何それ?』


 う~ん。

 8歳の女子に「細工は~」の意味説明は困難かも。


『ええっと、難しいから説明は省くけど、ようは明日のお楽しみって事』


『ふ~ん、パパってたまに変な事言うね。タバサ、分からない』


 とタバサが首を傾げれば、アルベルティーナも追随する。


『うふふ、タバサも? アルベルティーナだって全然分からないよ』 


 ああ、ふたりは何か姉妹みたいに思えて来て微笑ましい。


『まあ、良いじゃないか。とりあえずルームサービスで夕食を頼もう。メニューは俺に任せてくれよ』


『うん! ルームサービスってお部屋に持って来てくれるんだよね! じゃあパパにお任せ!』

『ああ、私もケンに任せるっ!』


 『ふたりの小さなお姫様』から、

 「ぜひに!」と食事の手配を頼まれ、


『まあ、任せろ!』


 と、俺は力強く答えていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 やがてルームサービスで夕食が運ばれて来た。

 

 ケータリングとはいえ、超が付く豪勢な食事である。

 見やれば、オーダーしていない料理やフルーツ、デザート菓子が多々ある。

 念の為、運んで来たホテルスタッフへ聞いてみると……

 やはりキングスレー商会から依頼されているという。


 マルコさんは、徹底している。

 では、ありがたく好意に甘えよう。


 アルベルティーナは一番奥の部屋に隠れて待機していたが……

 ホテルスタッフが引き上げると、すぐに姿を現した。


 早速テーブルの上に並べられた、数多の料理をチェック。

 目をキラキラ輝かせる。

 

 タバサと並び、料理にうっとりしている様は本当に可愛い。

 ちなみにタバサとアルベルティーナの好物は、オーダー時に俺が頼んであり、しっかりと鎮座していた。


 そんなこんなで、スペシャルな夕食を摂った後……

 再び3人で色々と話をした。


 だけど……

 死にかけたアルベルティーナは、心身共にひどく疲れていたのだろう。

 「ひとりでのびのび寝たい」という要望に応じ、個室を用意してやると……

 すぐベッドへ潜り込み、即座に寝てしまった。


 一方、俺とタバサはといえば、いつものようにトリプルベッドにふたりっきりで寝る。

 部屋の照明を落とし、枕もとの魔導灯だけにしてから、俺は話し始める。

 タバサへ、少し補足説明をしておいた方が良いだろうと思ったのだ。


「なぁ、タバサ。ジャン以外の妖精を見てどうだった?」


「うん、とっても不思議な感じ。でも凄く良い子だよ、アルベルティーナは」


「ああ、良い子だな」


「で、でも……パパは妖精の王様オベロン様と女王様のティターニア様に会っているんだよね?」


「ああ、会っている。それにタバサ、お前だってふたりには会っているんだ」


「え?」


「わけが分からないよな、内緒の事が多くてごめんよ」


「…………」


「以前、ウチにテレーズお姉ちゃんが来た時があっただろう?」


「うん、憶えてる。タバサ、お姉ちゃんが大好きだった。お姉ちゃんのパパと一緒に帰ったけど……今頃どうしているのかな?」


「タバサ、落ち着いて聞いてくれよ」


「何、パパ」


「実は、テレーズお姉ちゃんがティターニア様なんだ」


「え?」


「そしてお姉ちゃんを迎えに来た彼女のパパが、オベロン様なんだよ」


「えええっ」


「ほらほら、静かに。アルベルティーナが起きちゃうぞ」


「う、うん……でもどうしてウチへ来たの?」


 タバサが尋ねて来たので、俺は経緯いきさつを話してやった。


 テレーズことティターニア様が夫のオベロン様と大喧嘩して家出した事。

 俺と従士達が森でテレーズと出会い、管理神様に頼まれ、ボヌール村へ連れて帰った事。

 やがてオベロン様が現れ、俺と男ふたりきりで話し合った事。

 そして反省したオベロン様がテレーズに謝り、ふたりは仲良く妖精の国アヴァロンへ帰った事など……


「へぇ……テレーズお姉ちゃん、今はどうなのかなぁ、オベロン様と喧嘩してない?」


 と、タバサが心配そうに聞くので、


「さっき、アルベルティーナが言っていた。ボヌール村から帰って以降、ふたりはとても仲が良いって。凄く熱々なんだってさ」


「うわぁ、凄く熱々? 良かったぁ、嬉しいっ!」


 ああ、タバサだけじゃない。

 俺だって嬉しい。

 何故ならば、タバサは他人の事でさえ、自身のように喜び、悲しむ。

 とっても思い遣りがあって、心根が優しい子だと実感したから。


「パパ、タバサが知らない事って、まだまだいっぱいあるんでしょ?」


「ああ、まあな」


「これからもいろいろ教えてね、指切りげんまん」


 薄明りの中で交わされた約束は……

 けして破らない!

 という俺とタバサの強い決意がこもっていたのだった。

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