第8話「命名」
今朝の朝食はレベッカ父ガストンさんも同席する事になっていた。
そう、この席において、家族全員の前でいよいよ生まれた双子に命名がされるのだ。
当事者の母レベッカと双子達は大広間に居らず、別室で寝ているのだが、これは致し方あるまい。
家族に発表する前に、命名したオディルさん、ガストンさん、父親の俺がレベッカが寝ている部屋へ行く。
そして真っ先にレベッカへ子供の名前を告げる。
本当は5人でそのまま食事をしながら語り合いたいが、レベッカへ負担がかかってはいけない。
産後の女性のお世話は同性の身内に任せた方が良いし、まさかオディルさんにお願いするわけにもいかない。
先の3人はすぐに引き上げ、後はクーガーとミシェルに任せる。
まあ俺は頃合いを見て、念話で話そうと思う。
レベッカが疲れているようであれば、今夜は俺が彼女と夢で逢う。
オディルさんと話した事も伝えてやろう。
昨夜ふたりきりで散々話したに違いないが、それはそれ。
レベッカはとても喜ぶに違いない。
父のガストンさんは、体調が戻ってから存分に話せるしね。
そんなこんなで俺と子供達が配膳を終えたところで、ガストンさんがやって来た。
顔を見れば満面の笑み、どうやら機嫌は最高に良いらしい。
「おはよう村長……いや、婿殿」
「おはようございます。どうでした? 名前の方は?」
俺が尋ねるとガストンさんは苦笑した。
「いやー、簡単に決まるかと思ったんだが……」
「決まらなかったんですか?」
「ああ! 悩んだ、悩んだ。実はレベッカのお腹が大きくなってから名前はいくつもいくつも考えたのだがね。何故か納得するものが浮かんで来ない」
「へぇ、イーサンの時はすぐ決めたのに……意外ですね」
「おお、でも何とか決まった。ところで婿殿、オディルさんの方はちゃんと考えてあるんだよな?」
「はい! ばっちりだと思います」
「おお、そうか! 楽しみだ」
「あはは、俺も楽しみですよ」
俺がそう言うと、ガストンさんはすまなそうな顔をする。
「イーサンの時といい、いつも父親のお前を差し置いて申し訳ないな」
「いえいえ、俺も孫の命名しますから。気にしないでください」
「おお、そうか! お前の孫というと俺のひ孫か! うん! 楽しみだ! となると、俺ももっともっと長生きしなきゃな……」
「そうですよ。まもなく朝食が始まりますから、その前にレベッカへ名前を伝えに行きましょう」
ガストンさんへそう言ってから、見やれば、オディルさんは「いつでもOK!」という感じで俺達を見ていた。
「じゃあオディルさん行きましょうか?」
「はい!」
俺が声をかければ、オディルさんは気合の入った声で返事をし、すっくと立ち上がったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして……俺達はレベッカの部屋へ。
「レベッカ、名前が決まったぞ」
俺が言うと、レベッカは目を輝かせた。
じゃあ早速、オディルさんから。
「レベッカさん、女の子はアンジュよ」
「はい、アンジュですね」
アンジュ……天使という意味か。
我がユウキ家に舞い降りた可愛い天使。
素晴らしい名前だ。
多分オディルさんは事前に、レベッカへは伝えてはいるだろう。
昨夜夢の中で、レベッカとふたりであれがいい、これがいいと相談し、名前を決めた姿が浮かんで来て……俺は思わず微笑んでしまう。
ガストンさんもアンジュという名を気に入ったようである。
「おお、これは、これは。アンジュとは可愛い名前だ。オディル様、ありがとうございます」
と礼を言い、あっさり男の子の名を告げる。
「男の子はローランだ」
「ローラン!? パパ、凄く勇ましい名前ね」
さすがに男の子の名前は全く知らなかっただろうから、こっちはレベッカにとって本当のサプライズだ。
レベッカが驚くのも無理はない。
ヴァレンタイン王国では枢機卿の先祖にあたる英雄の名前だから。
ガストンさん、凄い名前をつけたな~。
だが、強者好きなレベッカのツボにはまる名前かもしれない。
俺も当然異存はない。
「アンジュ……ローラン……」
レベッカは感極まっているようだ。
またまた目に大粒の涙があふれていた。
「ありがとう、どちらも素晴らしい名前よ。オディルさん、パパ、ダーリン、本当にありがとう」
何とか礼を言ったレベッカは、涙まみれの顔で爽やかに微笑んだ。
これで良し!
後はレベッカへ段取りを伝えておこう。
「レベッカ、もうすぐ朝食が始まる。朝食前に家族全員へ名前を発表する事になっているから俺達はもう行くよ」
「分かった。早く皆へ名前を教えてあげて。きっと楽しみにしている筈だから」
「了解、じゃあまた後で。すぐにクーガーとミシェルがお前の食事を持って来るからな」
「うん、後でね」
だいぶ慌ただしかったが、俺達は大広間へ戻ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺達が大広間へ戻ると、家族全員が席に着いていた。
嫁ズもお子様軍団達も新たな妹と弟の名前に注目しているようだ。
俺達は一旦席に着いた。
改めて、
「先ほど、レベッカへ子供の名前を伝えて来ました。ここで皆にも発表します。ではオディルさん恐縮ですが、ご起立頂き、女の子の名前を発表して貰えますか?」
先ほどレベッカへ伝えた時と違い、大人数の視線が自分に集中する。
立ち上がったオディルさんは少し緊張しているようだ。
「わ、分かりました。では発表致します」
一瞬、静まり返った大広間。
「お、女の子の名前は……アンジュです」
オディルさんの発表を受け、一転、大広間は大騒ぎ。
「お~、良い名前だ」
「アンジュ!」
「わぁ、可愛い名前ね」
「素敵!」
「おっし、皆、腹も減っているだろう。俺も男の子の名を発表するぞ」
気を利かせたガストンさんが手を挙げて立ち上がると、大きく息を吐いた。
「男の子の名前はな、ローランだ」
「素敵です!」
「ローラン! かっこい~~!!」
「強そう!」
「伝説の騎士様の名前ね!」
これまた大盛り上がり。
ここでリゼットの凛とした声が大広間に響く。
「皆! レベッカの子の名はアンジュに、ローランです。ふたりはこれからユウキ家の新たな家族となります……では、朝食を頂きましょう」
「「「「「「「「「「「頂きます!!!」」」」」」」」」」」
これで家族全員へ双子の名前が発表され、朝食開始。
双子の名前の話題もあってか結構な喧噪だ。
俺がふと見やれば……
着席したオディルさん、嫁ズや子供達に話しかけられ、名前の意味や理由などいろいろ聞かれているようだ。
身振り手振りを交え、一生懸命説明するオディルさんを見て、俺は心がとても温かくなったのである。
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