第7話「大勢の娘と孫」

 オディルさんがボヌール村へ来てあっという間に初日が過ぎた。

 まあ実質半日ではあるが、結構盛りだくさんのスケジュールにしたので、彼女にとって初めて見る聞く体験する驚きと共にウチの家族の温かさを感じてくれたら良いなと思う。


 そう、オディルさんは今は亡き旦那さんとずっとふたり暮らし。

 愛し愛され共に助け合い素晴らしい生活だったと思う。

 だが愛する旦那様に先立たれ、現在はひとりで暮らすオディルさんに大家族の一員として暮らして貰うのも「あり」だと思い連れて来たのだ。


 彼女の生まれ故郷王都の思い出だけじゃない。

 このボヌール村でも素敵な思い出を作り、いつかどこかで再会する旦那様と楽しく語り合って欲しいと俺は切に願ったのだ。


 そして、カミングアウトする俺のこれまでの人生も、限られた時間の女子会では全てを知りえなくとも、就寝後夢の中でレベッカと語り合い、オディルさんは全て(一部除く)を知っただろう。

 死んで生まれ変わり、愛する人に巡り会った俺の第二の人生に何かを感じてくれたに違いない。


 さてさて……

 農村は朝が早いが、俺は家族の中では一番早く起きる。

 大体午前3時30分から4時の間。


 水汲み、薪割り、草むしり、トイレ掃除等々、やるべき仕事がてんこ盛りのせいもあるが、俺自身、朝が気持ち良く好きなせいもある。


 そして、ひと通り仕事をこなした後は軽くストレッチ&トレーニング。

 このタイミングで大体クーガーが起きて来て、一緒に身体をほぐすという感じ。


 でも今朝は起きて来ない。

 ミシェルと共に深夜まで、レベッカ&双子の世話をしていたからだろう。


 代わりにというわけではないが、庭に現れたのはオディルさんの小柄な身体である。

 俺はストレッチをしながら挨拶をした。


「おはようございます、オディルさん。早いですね」


「あら、おはようございます。何か寝ているのが勿体なくて目が覚めてしまいました」


 笑顔で挨拶を返してくれたオディルさん。


「何となく分かります。俺も旅行先で同じく早起きした事があります」


 そんなこんなで雑談した後、 


「直接俺から聞きたい事もたくさんあったでしょうが、昨夜の女子会とレベッカの話で大体お分かりになったでしょう」


 と尋ねれば、


「はい、ケンさんの事、ユウキ家の事は大体分かりました。ケンさんは、レベッカさん始め、奥様全員の王子様だって事が」


「いえ、王子なんて大層な者じゃありませんが、嫁達とは全員運命の出会いをしました。俺は彼女達を分け隔てなく愛し、一生大切にしたいと思っています」


「……素敵ね、ケンさん、そして貴方はこことは違う遠い異世界から来た人。……随分辛い思いもして来た」


「いろいろありましたが……今はとても幸せです」


「ふふ、そして貴方は創世神様から素晴らしい力を与えられ、新たな家族や仲間の為に尽くして来た」


「まあやれる事をやっているだけです」


 うん、俺の『力』は自身で得たものじゃない。

 全て借り物。

 そう思ってる。


 オディルさんは軽く息を吐き、更に言う。


「……王都で生まれ王都で育ち、夫と出会い、平凡な職人として生きて来た私の人生と比べれば、波乱万丈よね」


「いやいやオディルさんは平凡な職人なんかじゃありません」


 と俺は言い、


「それに……俺だって両親が離婚しなければ、クミカと故郷で結婚し、ふたりで地道に生きていたかもしれません。この世界へ来る事もなかったでしょう」


「そうよね……人生って、どこでどうなるかわからないわ」


「全くです」


 俺とオディルさんは顔を見合わせ、思わず笑ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 今朝の朝食もハーブ料理。

 とはいっても昨夜の夕食に比べて当然規模は小さい。

 そして厨房にはオディルさんも入っていて、楽しそうな声が洩れて来る。


 俺は大広間に居て子供達とスタンバイ。


「ケンさんの奥様達って、タイプはそれぞれ違うけど、全員とても良い子ね。それに昨日、村を案内してくれた子供達も素直で優しいし、親切だった」


 今朝話した際、オディルさんはそう褒めてくれた。

 そして、


「ケンさん、貴方の家に居るととても楽しいわ。まるで大勢の娘と孫に囲まれているみたいなの」


 この言葉を聞いて、俺は心底嬉しかった。

 俺達家族が、オディルさんの思い出の1頁に加えて貰えたのだから。


 そういえば……

 俺はふと思い出した。

 昨夜レベッカとじっくり話す機会を作ったのは、俺の生い立ちを知って貰う為だけではない。


 生まれた赤ん坊の名前をふたりで相談して貰う為だ。

 今朝話した時、オディルさんは命名の事は全く口にしなかった。

 まあ大丈夫とは思うけどね。


 さあて、俺も朝食の支度を手伝おう。

 厨房からは相変わらずオディルさんと我が家族の楽しそうな声が聞こえて来る。

 うん、そろそろ料理も仕上がったようだ。


 俺は子供達に声をかけ、テーブルの上に皿を並べ始めたのである。

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