第6話「女子会には出れないけど……」
オディルさんの歓迎会も兼ねた夕食で盛り上がる、にぎやかな大広間を後にした俺はレベッカが寝ている部屋へ……
赤ん坊ふたりはぐっすり寝ていたが、レベッカは起きていた。
オディルさんの『接待役』であるだろう俺が来るとは思っていなかったらしい。
いっぱいに料理を盛った大皿を抱えているのを見て余計に驚いている。
「あ、ダーリン」
「おう、腹減ったんじゃないかと思って、メシ持って来た」
「それは? 凄いね」
「うん、今日作った料理を全種類少しずつ盛った。食べたいものを言ってくれたら俺が食べさせてあげるよ。食欲がなかったら無理しないで良いからな」
俺がそう言うと赤ん坊を起こさないよう注意しながら、レベッカはそっと半身を起こす。
「へぇ、面白いね、これ。可愛くお皿に盛ってあるし、見た目も良いわ」
「うん、実はさ、オディルさんの為に考えたアイディアなんだ。これなら全種類料理が少しずつ食べられて、もし好きなものがあればお代わり出来るって寸法」
「成る程。オディルさんはもうお年だし、この前のレイモン様みたいにいっぱい食べられないものね」
「ああ、その通りさ。でもさ、オディルさんもウチの料理をひと口食べただけで、やはり吃驚していたよ」
「うふふ、でしょうね。誰もが初めてこのハーブ料理を食べる時はカルチャーショックを受けるもの」
と、話をしているうちに水を持って来る事を忘れた俺は、念話でクーガーにお願いした。
クーガーはすぐに水を満たした大型のピッチャーに小さなマグカップを持ってやって来た。
「はい、お待たせ」
「おう、ありがとう」
俺がクーガーに礼を言い、水を受け取ると、
レベッカは改めてクーガーにオディルさんの様子を尋ねる。
「クーガー、オディルさんは?」
「大丈夫。皆と一緒にわいわい楽しく食事してるよ。タバサとイーサンがお世話係でね」
「本当? 良かった」
「だからレベッカも安心してご飯食べなきゃ」
「分かった、実はお腹減ってたんだ」
おお、良かった。
食欲はあるみたい。
じゃあ、早速食べて貰おう。
「おし、じゃあ、どうする?」
「ええっとね、これとあれ」
レベッカが甘えた声で料理を指したので、俺はスプーンに少量すくって
「よし、あ~ん」
「あ~ん」
レベッカの開けた口へそっと差し入れてやった。
「おいし~、お水も頂戴」
満面の笑みを浮かべるレベッカに水の入ったマグを渡し、飲み終わった後、再び違う料理を食べさせてやる。
「あはは、しあわせ~」
そんな俺達の様子を見て、苦笑したクーガーは、
「じゃあ、私は大広間へ戻るね」
「お、そうか?」
「あのさ……私も以前旦那様にやって貰った事があるから分かるけど、当人同士はふたりの世界へ入って良いけど傍から見てると辛いんだよね」
ああ、それは分かる。
さすがに第三者はこの甘い空気に溶け込めない。
手持ち無沙汰で見ているしかないってわけ。
はっきり言って苦痛、いや拷問だ。
俺が大いに納得して頷いたら、クーガーが尋ねて来る。
「旦那様、今夜の女子会でオディルさんへはカミングアウトして構わないんだよね?」
「ああ、レイモン様が知っているのと同じレベルで教えて構わない。但し先日の大事件の事は言わないでくれ」
「了解」
先日の大事件とは例のアルドワン侯爵事件の事である。
さすがに国家絡みの事件までオディルさんに言う必要はない。
「それと俺、2時間はレベッカの世話しているから」
「うん、2時間経ったら、ミシェルと一緒に抜けて来るよ」
そう、女子会に出るクーガーとミシェルだが、元々産後のレベッカのお世話係。
女子会開始から2時間後にフェードアウトするという申し合わせとなっていた。
え?
交代した俺はどうするのかって?
いやいや、俺は俺でいろいろ別に仕事がある。
……実は今夜は魔物を狩る日で、これからケルベロス達と出撃なのだ。
最近またも魔物が多いという話を聞いたから、少し掃討していかないといけない。
クーガーが去ってから、レベッカがぽつりと言う。
少し寂しそうだ。
「女子会……私も出たかったなぁ……オディルさんといろいろ話したかった。最初から無理なのは分かっているけど」
「ああ、その身体じゃ絶対無理はさせられない」
「…………」
そう産後の身体で無理はさせられないし、オディルさんと積もる話が出来ないレベッカが寂しがるのは分かっていた。
だから、もう対応済みだ。
「でも、大丈夫だぜ」
「え?」
「女子会には出れないけど、今夜はオディルさんと夢の中で会える」
「へ? な、何それ?」
ポカンとするレベッカへ、俺はウインクして答える。
「レベッカの夢とオディルさんの夢を繋げる特別な魔法を俺は使える」
「うわ、す、凄い……」
「ふたりが会う場所は
「ダーリン……あ、ありがとう」
ここまで俺が考えていたとは全く予想もしていなかったらしい。
俺を見つめるレベッカの目には……
また大粒の涙があふれていたのであった。
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