第36話「歓迎祝いはハーブ料理で」

 フレッカと運命の再会をし、結婚の約束を取り交わした俺は……

 今回の事件を完全に処理し、決着させる為、やるべき事を遂行する。


 まずフレッカとの事は家族の誰にも話していなかったから……

 嫁ズと情報共有しなければならない。

 

 何せ、夢の世界と繋がった異世界の話なのだ。

 当時まともに話しても、

 「ふ~ん、良い夢見たね」とか「アールヴと結婚? 単なる男の願望でしょ?」で終わっていたに違いないから……ヴァルヴァラ様の案件も含め、一切話していなかったのだ。


 しかし嫁ズを全員集合させて、話をするわけにはいかないので……

 まずはベアトリスの件で話が通りやすいリゼット、クッカを呼んで話をし、アマンダさんことフレッカ本人からも話をさせた。


 未知の異世界から俺を追って転生を繰り返し、数千年の時を経てようやく巡り会った。

 フレッカの人生は、ベアトリスの時同様、まるで神話のような途轍もないスケールの話である。

 

 大まかに話しただけでも大いに吃驚したリゼット、クッカだったが……

 異世界のフレッカとは面識なしでも、この世界のアマンダさんとはハーブを通じての『同志』ともいえる間柄。


 更に人間のアンジェリカという仮初の姿で一緒に暮らしてみて、全然違和感なく楽しく過ごしたのも後押しした。

 ふたりは他の嫁ズに上手く伝えて、話をまとめると約束してくれたのである。


 フレッカの件に関する家庭内調整はリゼット達にとりあえず任せ……

 一方の俺はといえば、王都に行って『最終仕上げ』をしなくてはならない。

 

 バスチアン一党に支配の魔法をかけ、北の砦行きに支障がないようにする。

 レイモン様に下準備完了の連絡を入れ、アルドワン侯爵の砦行きに着手して貰う。

 そして例の錬金術師にも支配の魔法をかけ、これまたレイモン様の管理下にある王国の施設で医療用の魔法薬を作って貰う。

 後は休業中である白鳥亭の様子も確認しなければ。


 こうして俺は……近場で狩りをするという口実で、ボヌール村を出発したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 夕方……

 俺は王都でやるべき事全てを終え、ボヌール村へと戻って来た。


 結論から言えば、万事が上手く処理出来た。


 まずバスチアンに支配魔法をかけ、配下200名を屋敷に参集させた。

 更に配下全員にも支配魔法をかけ、指示を出したから、問題なく『北の砦』へ行くだろう。


 奴が経営していた店はドーファン商会を含め全て閉店。

 当然まがい物である『真白鳥亭』も。

 屋敷を始め、売却可能なものは、全て金に換えた。


 蓄えた莫大な私財と合わせ、配下以外の従業員にはそこそこの退職金を、特に半ば奴隷とされていた女性達には慰謝料を兼ねた大金を渡す事となったのである。

 それでもバスチアンの財産はたっぷり残っていたから、後は砦に「寄付」して貰う。


 次にバスチアンお抱えの錬金術師にも、同じく支配魔法をかけ、例の魔法薬の記憶を消した。

 ちなみにバスチアンが懐柔策でつけていた『女』だが……

 一緒に暮らすうち、錬金術師を真剣に愛していたようなので彼女にも支配魔法をかけた。

 そして、これまで通り一緒に暮らせるようレイモン様に対応して貰った。

 彼女に例の魔法薬の記憶がなければ、支配魔法は必要なかったのだが、仕方がない。


 まあ支配魔法とは言っても……

 俺の指示がなければ、自身の意思はあり、普通に振る舞える。

 通常生活には支障がない。

 バスチアンの情婦にさせられていた彼女が、罪を償う錬金術師と共に、新たな人生を幸せに送って欲しいと切に願う。


 後は白鳥亭の様子確認。

 俺が施した、例の「火事だ!」と女性の声で叫ぶ魔法防犯装置のお陰なのか……

 休業中のままで建物の内も外も、何の異常もなかった。

 見張らせていたジャンの部下からもヤバイ報告は上がっていない。


 よし!

 これで全てOK!

 レイモン様に報告して終了。

 という事で、念話でレイモン様に連絡、簡単な打合せをし、俺の仕事は完全に終わったのである。


 さてさて……

 村に戻った俺が気になっていたのは、嫁ズの反応である。

 リゼットとクッカは理解してくれ、俺にも『口撃』はなかったけれど……

 他の嫁ズはどう反応するだろうか……


 自宅に戻った俺は、さくっと狩った鹿をお土産に嫁ズのご機嫌を伺ってみる事にした。


「ただいま~」


「旦那様、お帰りなさいっ!」

「お帰り、ダーリン!」


 笑顔で出迎えてくれたのは、末子ベルティーユを抱いたグレースとレベッカのふたり。

 

 一瞬緊張したが……

 ああ、大丈夫。

 波動で分かる。

 グレースもレベッカも、優しい笑顔の裏に怒りの刃は隠していない。


 ホッとした俺も笑顔で返すと、

 

 あれ?

 ふたりとも手招きしている。

 何だろう?


 俺が近寄ったら、ふたりとも小声で囁いて来る……


「旦那様、アマンダさんがウチの家族になるなんて最高です」

「本当よ、ダーリン。これで村のハーブ料理は最強ね。皆、大歓迎だって」


 良かった!

 アマンダさんが家族になるのは最高だし、皆、大歓迎か。

 どうやらリゼット達が上手く伝え、納得して貰ったらしい。

 

「そうか! ありがとう。じゃあ今夜はお祝いに、村のハーブを使った鹿肉の特製ステーキだ」


 俺の提案を聞き、グレースとレベッカは嬉しそうに頷いたのである。

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