第35話「終着点②」
俺が見守る中、フレッカの話は続いている……
「ケルトゥリ様はこうも仰られた。但し、ケンに再び会う為には条件がある。まずお前がこの世界でやるべき事を全うし、与えられた役目を果たせと」
「…………」
「だからケルトゥリ様の黄金剣を託された私は、お祖父様の跡を継ぎ、ソウェルとなった。お兄ちゃわんの教えを守り、懸命に修行したの」
「…………」
「そして、故国イエーラの為に身を奉げ、約2千年の人生を全うしたわ。当然結婚なんかしない……一生独身だった」
「…………」
「でもあちらの世界では……結局、お兄ちゃわんとは二度と会えなかった」
「…………」
「そんな私の想いをケルトゥリ様は汲んでくれたのでしょう」
「…………」
「私は死んだ後……数えきれないくらいの世界で全く違う名前、違う人格に転生したわ」
「…………」
「でも……お兄ちゃわんには出会えなかった……肝心のフレッカの記憶が転生する度に封印されていたからどうしようもなかった」
「…………」
「何度か記憶が甦ったけれど、いつも人生の最後ともいえる死の直前だったから意味がなかった……」
「…………」
「でも私はけして諦めなかった……お兄ちゃわんへの想いはどこの誰だろうと壊す事など出来ないもの」
「…………」
「数千年、いえそれ以上でも、いくら時間がかかっても必ず会うって、会えるって信じていたから……」
「…………」
「ふふ……だから私は何度転生しても、結婚なんかしなかった。フレッカの記憶がないのに不思議よね?」
「…………」
「私はお兄ちゃわんひと筋! ずっと独身だったよ。安心してねっ!」
「…………」
おいおい、フレッカ……
何ていじらしいんだ。
お前がそんな事言うなんて、また涙が出て来た……
「この世界に生まれて、アマンダとしての人生を送りながらも、フレッカの記憶は戻らなかったから、私はお兄ちゃわんの存在に全く気が付かなかった」
「…………」
「でもさっき言ったようにベアトリス様との邂逅が大きな転機となった」
「…………」
「記憶が戻る予感がしていた中……お兄ちゃわんがベアトリス様の行く末を報告に来てくれた。とても哀しい話だと思ったけれど……」
「…………」
「天に還るベアトリス様と結婚したお兄ちゃわんが、再会の約束を交わしたと聞いて……フレッカの記憶はほぼ甦ったの……」
「…………」
「再会の希望を胸に天へ旅立ったベアトリス様は、とても嬉しかったでしょう。私には彼女の気持ちが分かるの。いえ私だからこそ分かるのよっ!」
「…………」
「やっぱりお兄ちゃわんは優しい。困っている人が居たら絶対に見捨てない! 諦めずに、挫けずにと励まして、前を向ける希望を与えてくれるわ!」
「…………」
「そんなお兄ちゃわんが、私は大好きよ!」
「…………」
「そしてお兄ちゃわんは、大きな危機からフレッカを助けてくれた」
「…………」
「ようやくお兄ちゃわんに会えるという寸前まで来て、下手をすればまたすれ違いになるところだった」
「…………」
「すれ違いどころか……悪党にさらわれ、魔法薬で性奴隷にされ、地獄に落とされそうになるところを救ってくれた」
「…………」
「嬉しかった! 本当に嬉しかったよぉ!」
「…………」
「初めて出会った時、お兄ちゃわんはアールヴの姿だったけど……別れ際に、俺は人間だと言われてさすがに吃驚した」
「…………」
「フレッカの記憶が完全に甦ってから……人間のこの人が……ケン・ユウキさんが、改めてあの時のお兄ちゃわんだって確信したわ……」
「…………」
「アールヴと人間、容姿は違っても、中身は全く同じだったから」
「…………」
「そうそう、フレッカの記憶が戻っても、アマンダの記憶だって私の中にはあるわ」
「…………」
「お兄ちゃわんはやっぱり素敵よ。記憶が戻る前、何も知らなかった私は白鳥亭の女将として、ケン・ユウキさんをいつも好ましい男性だと思っていたもの」
「…………」
「何故なら、一緒に白鳥亭に泊まる奥様達は、全員が凄く幸せそうな愛の波動で満ち溢れていた」
「…………」
「いらっしゃる奥様はその都度違っても、誰もがお兄ちゃわんと心の全てで通じ合っているのは変わらなかった……私もあんな素敵な夫婦になりたいって何度も思った」
「…………」
「フレッカの記憶を取り戻し、ボヌール村に来て、その想いはますます強くなった。奥様達はとてもはつらつとしているし、子供達は天真爛漫で活き活きしている。このユウキ家は素晴らしい
ここまで言うと、フレッカは「やり遂げた!」とばかりに、大きく息を吐いた。
「ああ、ようやく私の旅が終わる……このボヌール村が終着点」
「フレッカ……」
「もうお兄ちゃわんとは絶対に離れない。私は一生この村で暮らして行く」
「…………」
「想い人であるお兄ちゃわんのお嫁さんになって、ユウキ家の一員になって、フレッカは本当の人生を踏み出すの」
フレッカの告白に圧倒されていた俺だったが……
突如、女神ケルトゥリ様の言葉がリフレインする。
『……最後に伝言だ。あの子は……フレデリカはお前を決して諦めないと言っていた』
『たとえ人間でも愛している! 決して諦めない! 必ずソウェルとなり、立派に務めを果たし終えたら……遥かなる次元と時間の隔たりを超えても……絶対、お前に会いに行く! ……とな』
『もしも運命が再びお前達を引き合わせたら……その時は……しっかりと、あの子を受け止めてやれ……』
そして俺はケルトゥリ様に約束した。
あの子と巡り会えたら……絶対、嫁にします!
約束します!
種族なんか、関係なしに結婚するって!
そう……
もし再会する事が出来たら、健気なフレッカを、俺は「必ず受け止める!」と約束したのだ。
ああ……もう迷ってなんかいられない。
時間と次元を越える長い長い旅をして、やっと俺に巡り会えた可愛い嫁が、一番喜ぶ言葉を告げてやらないと!
「ありがとう、フレッカ。俺の嫁になってくれ!」
シンプル且つはっきりしたプロポーズの言葉を聞き、フレッカはまたも涙ぐんでいる。
俺はそんなフレッカを優しく抱き締めると、そっとキスをしていたのである。
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