第17話「陽はまた昇る」
ベアトリスとアマンダさんが話し終わってから1時間後……
ボヌール村へ帰る俺達4人は、果てしない大空を飛んでいた。
俺は右手にリゼット、交代でベアトリスが憑依したクッカを左手にしっかり抱え、あまり速度を出さず比較的ゆったりと進んでいる。
ちなみに、そのままの姿ではとても目立ってしまうので、隠れ身の魔法を使い、全員が完全なステルス状態である。
ベアトリスと別れるのが、とても名残惜しそうなアマンダさんから……
大きく手を振って見送られ、白鳥亭を辞し、王都を出た俺達。
いつもの転移魔法一本槍ではなく、途中まで飛翔魔法を使い、村へ帰る選択肢を取ったのだ。
つまり、この後もう少し飛んで、空中で転移魔法を発動、ボヌール村の近くへ行く。
自由行動中のベイヤール達を呼び戻し、収納の魔道具から馬車を取り出す。
まるで近場から戻ったように見せ、帰還するといういつもの段取り。
それにしても……
白鳥亭の女将アマンダさんと、ベアトリスの意外な
いくら、ハーブという共通項があってもだ。
そもそも俺がベアトリスを白鳥亭へ連れて来たのは、単にアマンダさんの素晴らしいハーブ料理を存分に味わって欲しい……
ベアトリスが天へ還るまでに、とびきり素敵な思い出を作って欲しい。
そんな、シンプルな願いだけだった。
しかし!
まさに
思わぬ幸運である。
ベアトリスと邂逅したアマンダさんは、「運命だ!」と言い切り……
アマンダさんが生まれる前に亡くなった、会った事もない、記憶でしかない曾祖母の話と共に……
ベアトリスと熱くハーブについて語り合ったのだ。
何と、まるまるみっちり2時間も。
一方、ベアトリスもアールヴ流のハーブ料理を堪能し、新たな知識を得たのは勿論……
「この世界から、消え去ってしまった……」
と、大きなショックを受けていたガルドルドの『記憶』が……
そしてハーブオタクの王女と噂されていた自分の存在が……
アマンダさんへ、しっかり受け継がれているのを知り、大いに喜んだ。
「我が、ガルドルドは、けして忘れられてはいない!」
ハーブの話と共に、胸を張り、亡き故国の話もする事が出来たのである。
ちなみにハーブの話をしているふたりは、まさに超が付くオタク。
質問に、解答と、鋭い突っ込みをし合いながらも、けして喧嘩ではない。
滅茶苦茶気の合う、長年の親友同士という趣きであった。
もしベアトリスとアマンダさんの曾祖母が、遥か昔に出会っても、全く同じだったに違いない。
閑話休題。
クッカの魂に棲むベアトリスから、大きな感謝の気持ちが伝わって来る。
俺達3人全員へ……
『ケン、クッカ、リゼット、本当にありがとう』
『ちょっと、時間が短かったけど、いろいろ楽しかったな』
『うふふ、アールヴのハーブ料理って、最高でしたね!』
『私、ベアトリス様と、アマンダさんのハーブ談義が最高に面白かったです! 自分自身の勉強にもなりましたっ!』
と、俺、クッカ、リゼット3人が返すと、ベアトリスは気合を入れて言い放つ。
『ええ、本当に! 凄く楽しかったし、凄く美味しかった。凄く勉強にもなった。人、料理、ハーブの知識、全てに素敵な出会いがあったわ!』
ああ、良かった!
と思いつつ、ふと西の空を見やれば……
大きくて真っ赤な太陽が、地平線へ少しずつ近付いている……
空も赤く染まって来ている……
まもなく時刻は午後4時だ……
これからボヌール村へ帰る事を考えれば、あまり時間がない。
なので、もう少ししたら転移魔法を使うけど、余裕があれば、このまま見とれていたい風景だ。
ここで突如、ベアトリスが俺達へ呼び掛ける。
『ケン、みんな』
『ん?』
『何?』
『はい! ベアトリス様』
と俺達3人が返すと、ベアトリスは言う。
『私の気持ちがね、ガラリと変わったのを……聞いて欲しいの』
『ああ、良いぞ』
俺が3人を代表して了解すれば、早速ベアトリスは話し始める。
うきうき弾んだ、凄く嬉しそうな波動が伝わって来るから……
ここは彼女に、思い切り心の内を話して貰おう。
『これまでは私……魂が……私の存在自体が消えたら、一日の終わりを告げるあの夕陽のように消える……静かに沈むだけの人生だと思っていた……』
『…………』
『まもなく私の人生は確実に終わる……あの真っ赤な夕陽が沈むように……そして誰からも忘れ去られる……僅かな痕跡も残らない……』
『…………』
『まるで……あの博物館に何の展示物もない、歴史から完全消去された故国ガルドルドのように……そう、思っていた……』
『…………』
『ごめんなさい……ケン達には村で散々良くして貰って、夕陽を見ながら励まして貰ったけど……』
『…………』
『やっぱり私にとって、博物館での出来事は凄くショックだったの……』
『…………』
『だけど、思い直した。やっぱり、ケンやリゼットの言った通りよ』
『…………』
『明日にはまた陽が昇る! 明けない夜はないわっ!』
『…………』
『そう! 夜が明ければ……この世界を眩しく照らし、人々へ大いなる恵みを与える太陽は……再び、元気良く輝きながら、東の地平線からぐんぐん昇って来るのよ!』
『…………』
『きっと! 私だって同じ! 絶対にそうでしょう?』
『だな!』
『その通りです!』
『御意! ベアトリス様も、また朝の太陽みたいに華々しく昇るんですよ!』
ベアトリスの晴れやかな波動を受け、満ち足りた気分の俺達。
上げ上げの4人は遥か南へ……
愛する家族の待つボヌール村を目指し、一直線に夕焼けの中を飛んで行った。
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