第2話「幽霊美少女は王女様」

『お願いって? 君は誰?』


 美少女の身長は160㎝くらい。

 ほっそりした身体つきで、スタイルは良し。


 まとっている真っ白な服は、やはり見た事のないデザインだ。

 そもそも……

 全てが一緒ではないけれど、この異世界の文化は何となく地球の中世西洋風。

 

 美少女が着ている服は、敢えて比べると、もっと時代をさかのぼるという感じがする。

 それでいて、とてもモダンでお洒落という不思議な趣き。


 容貌はといえば、金髪碧眼で、小さな顔。

 鼻筋がぴしっと通って、端麗な顔立ち。

 そして幽霊だから、このような表現は微妙だが……

 肌の色が抜けるように白い。

 

 改めて見たって、とても素敵な美少女だ。

 

 でも俺と従士達の目の前に居るのは人間ではない。

 精神体アストラル、つまり幽霊なのである。


 もしも子供の頃の俺だったら……

 驚いて大声で叫び、ひっくり返り、その上おしっこを漏らしていたかもしれない。

 以前はそれほど、幽霊が怖かったから。

 

 でも、大丈夫!

 パトロールへ出掛ける際のお約束、『勇気のスキル』はとっくに発動させていたもの。

 

 それに、おどろおどろしい風貌ならいざ知らず……

 こんなに素晴らしい美少女だし、全然怖くない。

 レベル99とオールスキル? を授けられた今の俺であれば、幽霊など全然問題なし。


 一方、ケルベロス以下、3人の従士達は、さすがにびびったりなどしない。

 平然と幽霊美少女を見つめていた。

 また、相手が攻撃して来ない、殺気がないと、判断したのか……

 全然、身構えたりもしていない。


 俺が、つらつらと考えていたら、いきなり幽霊美少女が名乗って来た。


『私はガルドルド帝国王女、ベアトリス・ガルドルドよ』


 ガルドルド?

 う~ん……

 知らないな?

 俺の知識にはない。

 この異世界の、今の時代にはない国なのだろう。


 そんな事を含みつつ、俺は名乗る。

 ついでに従士の紹介もしておこう。


『ベアトリスか、俺はケン・ユウキ。この3人はケルベロス、ジャン、ベイヤール、俺の従士達だ』


『そう……ケンって……凄いわ。そこの3体を、召喚魔法で呼んだのね?』


『そうだけど……ベアトリス王女様が俺に何の用?』


 俺がストレートに聞くのは当然。

 人外の相手と会話が出来るのなら、現れた目的を聞いて、速攻で対処するしかないから。


 するとやはり幽霊=ベアトリスには現れた目的があった。


 俺を正面から堂々と見据え、ベアトリスは言う。

 淡々と、単刀直入に。


『お願いは、ふたつあるの』


『え? ふたつ?』


『ええ、実はね、この穴の奥、地下深くに、私のお墓があるのよ』


 ベアトリスは目の前にぽっかり開いた穴を指さした。


『私、5千年前に、病気で死んでここに葬られたの』


 え?

 俺が立つ、この森の地下にベアトリスのお墓が?

 うわ、そんな事、思いもよらなかった。


 驚く俺を尻目にし、ベアトリスの話は続いている。


『遺体は、もう跡形もないけど……私は魂だけの状態で、寝たり起きたりしていたのよ』


『…………』


『だけど……お墓の外には出られなかった。でもいきなり穴が開いた』


『…………』


『……地上がどうなっているのかなって……ちょっと気になって、外へ出てみたの』


『…………』


『久しぶりに出てみたら、すっかり様子が変わっていたけど……お気に入りの場所はしっかりあった。手入れも、ある程度してあるみたい、何故かしら?』


『…………』


『それで、嬉しくなって戻って来たら……私のお墓が変な奴らに占領されていたのよ』


『変な奴ら?』


『ええ、多分、この近辺に漂っていた人間や動物の浮遊霊ね。……私のお墓が居心地が良くて、乗っ取られちゃったみたい』


『みたいって……お墓をか?』


『ん、そう……でも私もいい加減、地下に居るのも飽きたわ。すっきりしたい……天へ送って欲しい』


『え、天へって?』


『何言ってるの? さっき容赦なく私を天へ送ろうとしたでしょ? ケンが葬送魔法で』


『ま、まあ……そうだけど』


 確かに俺は、ベアトリスを天に還そうとした。

 何故なら、姿が見えなかったし、どういう相手か分からなかったし、もしかしたら害意を向けられるとか……

 葬送魔法で対応するしか、打つ手がなかったから。


 自己弁護するようだが、葬送魔法は少なくとも、生者に害はない。

 このような精神体や不死者以外には効かない魔法だから、あの状況では使わざるを得ないのだ。


 つらつら考える俺を見ながら、ベアトリスは更に言う。


『だから、ケンにはふたつお願い。私を天に送るのがひとつ、もうひとつはお墓から邪魔者を追い出して、清めてから、元通りに封印して欲しいの』


『…………』


『私には分かるわ、ケンは結構な腕の術者じゃない。こんなお願いくらい、簡単な筈よ』


『う~~ん……話は、何となく見えてきたけど……』


『じゃあ、お願い!』


『でもさ、悪いけど、もう少し詳しい事情を聞きたい。最初から話してくれるかな?』


『話すけど……その代わり、私のお願いを聞いてね』


『とりあえず話次第だ。実は俺、ここら辺の守護者なんだよ。民の害になる事なら協力出来ない』


『安心して、この地に今、生きる者を害そうとなんてしない。ただ迷える魂をひとつ、天へ送って欲しいだけなの……』


『迷える魂……ベアトリスが、迷える魂なのか……』


『ええ、それに時間がない。……私にはケンに頼む以外、選択肢がないから』


『時間がないって……だいぶ、わけありみたいだな。全部、話してくれ』

 

『分かったわ……全部、話す……』


 こうして……

 ガルドルド帝国という、俺には聞き覚えのない国の王女ベアトリスは話を始めたのである。

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