第40話「思い出の授業②」

 開始から、あっという間に45分が過ぎ、国語の授業が終了した……

 楽しい授業は、時間が過ぎるのも凄く早い。

 

 俺も……そうだった。

 と、つい口元に笑みが浮かぶ。

  

 この記念すべき、一番最初の授業はとても盛り上がった。

 笑顔の子供達からは様々な質問が、い~っぱい出たもの。


 殆どが、授業……

 つまり読み書きに関する事であったが……

 

 中には、

 先生が、一番好きな食べ物は?

 犬と猫は、どっちが好き?

 ベルちゃんは、元気?

    

 なんて、授業には直接関係ない、子供らしくほのぼのとした質問もたくさんあった。

 

 でも、どんな質問にも、グレースは丁寧に根気よく答えていた。

 そんなグレースの対応が、子供達にはとても好ましく映ったようだ。

 元々、村の子供達に好かれているグレースママは、ますます人気者になるに違いない。

 

 そして……

 フィリップを含めた、村の子供達は生まれて初めて……

 仲の良い仲間達と一緒にわいわい言いながら、授業形式で『学ぶ楽しみ』を知ったと思う。


 そのグレースだが……

 別の仕事があるので、名残惜しくも退出する。

 

 本当は俺に『授業参観』に混ざりたいとか、『この後のイベント』に、ぜひ加わりたいと熱望していたけど。

 まあ、今度調整して、ぜひ実現させてあげよう。


 一時限目が終わり、小休憩を15分だけ取って、午前11時となる。

 第二時限目の授業、次の科目は算数。

 グレースと、入れ替わりに来た教師はミシェルである。


 実はリゼットやクラリス同様、ミシェルも超多忙だ。

 大空屋の経営全般を仕切り、最近はリゼットと共に、エモシオンのアンテナショップ経営の中枢を担っているから。

 税金面についての、俺やリゼットへのアドバイスも優秀。


 でも、店の経営云々じゃない。

 数字に強く、経済感覚に長けたミシェルが居るから……

 ボヌール村の、生活と経済は安定していると言っても過言ではないもの。


 そんなミシェルだが……

 「どうする?」と聞いたら、

 「ぜひ教師をやりたい!」と強く意思表示したのは、意外でもあった。


 聞けば、人に教えるという、新たな経験をしたいとの事。

 クラリスを筆頭に、続々と新境地を開く、他の嫁ズにも刺激されたのだろう。


 そんなミシェルの授業は、グレースとは全く違う。


 グレースが言葉で情景を説明し、様々なおとぎ話で、夢見がちな子供達を惹き込んだのと対照的。

 

 ミシェルの行った授業とは……

 子供達の貰うお小遣いで、おもちゃやお菓子を大空屋で買えば計算は?

 という、現実的な話で盛り上げたのだ。


 まるで……

 お芝居のように、身振り手振りで盛り上げるミシェルの授業。

 グレースとはまたタイプの違う、グラマラスで魅惑的な金髪碧眼の超美人教師。

 聞いている俺の方は、つい昔を思い出して、懐かしくなった。


 都会へ来る前、故郷に居た頃……

 母から貰った10円玉を握って、クミカと一緒に駄菓子を買った事がある。

 定番ともいえる、おばあさんが店主をする渋い駄菓子屋で。


 見ればクーガーも同じ事を考えていたらしく、目配せして来た。

 後で、クッカとサキにも、その話をしようと思う。

 

 ああ……

 でも改めて思う。

 強く思う。

 

 俺も、こんな素敵な先生達が担任なら……

 学校に行くのが、毎日楽しかっただろうなって。

 皆勤賞、間違いなしだとね。


 そんなこんなで、本日の授業が終わり、皆が待ちかねた?

 『給食』の時間となった。

 

 この給食は……

 大空屋で、ウチの嫁ズが調理して、届けてくれた。

 いわゆるケータリングである。

 

 メニューはシンプル。

 焼き立てのパンに甘い蜂蜜、熱い肉入り野菜スープ、そしてデザートはこれまた梨の蜂蜜漬け。

 授業参観していた俺達も、盛り付け等の準備を手伝い、全員で食事をする。


 俺の予想通り……

 これまたとんでもなく、盛り上がる『給食』となった。


 わいわい、がやがやと『教室』に子供達の声が満ちる。

 楽しそうに喋り、はしゃぐ。

 

 狭い村の子供同士だから、お互い皆知っている。

 当然、友達同士だったのに……

 また距離が「ぐん!」と縮まった。

 そんな感じで、微笑ましい。


 子供達の話題は、今受けた授業の話が殆ど。

 後はやっぱりというか……

 グレース先生同様、ミシェル先生の『プライベート』に関して質問が続出した。


 今迄は親としか『勉強』した事がない子供達が大半だったから、嬉しくて仕方がないという感じである。

 特にフィリップの、弾けんばかりの笑顔が目立つ……


 更にこの『給食』は、まだまだ改良の余地がある。

 とりあえず、教師と子供との懇親を兼ねた食事会だと考えていたけど……

 

 もし希望者があれば、今日の俺みたいに、子供の親にも授業参観と食事をさせれば良い。

 そうすれば、この食事会はより楽しくなる筈だ。


 子供達の、そして親達も、『良き思い出』となる授業。

 それこそ、ボヌール村の学校で行う授業だから。


 美味しそうに食事をする子供達を見ながら、俺もとびきりの幸福を感じていたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る