第41話「ボヌール村で旅気分①」

 フィリップが来て3週目の後半、ある日の晩の事……

 夕食後、大広間でくつろいでいた俺へ向かって、長男のレオが手招きしていた。


 ああ、これって……

 今迄に、「何度もある」から分かる。

 

 つまり、ママ達には『内緒』のお誘いなのである。

 レオ達の居る『男子部屋』へ、「こっそり来てくれ」

 そして、パパの俺へ何か「秘密の相談がある」って事なのだ。


 でも、別の視線も感じる。

 誰かと思ったら、レオの母クーガーだった。

 それも、ジト目で俺を見ていた。


 勘が鋭いクーガーは……

 自分の息子を見て、俺と内緒話するって「ピン!」と来たみたい。

 まあ彼女のアイコンタクトの意味は分かる。

 父子の会話に敢えて干渉はしないけれど、子供達に危ない事だけはさせないでっていう意味。


 何故ならば、数か月前……『事件』があったから。

 前回、男子組と内緒話の際は……

 蝶の幼虫、つまり家で芋虫を飼いたいという子供らしい相談だった。


 多分、以前飼ったカブトムシで味をしめたのだろう。

 最近、我が子達は、いろいろな虫を飼いたがるのだ。

 

 中には毒を持つヤバイものも居るので、やたらと手を出したりしないよう、厳命している。

 虫自体を、無害だと俺が確認してから、触らせるようにしている。


 だけど、相変わらず虫嫌いの嫁ズも居るから……

 母屋ではなく、離れの物置の片隅で目立たないよう、そして成虫の蝶になったら逃がしてあげるという条件で、俺はOKを出した。

 まあ特に問題はないだろうと。


 だが問題はこの俺自身だった。

 嫁ズへ伝えるのを、うっかり忘れていたのだ。


 悲劇は……数週間後に起こった。

 探し物の為に、状況を知らず物置へ入ったレベッカが……


「ぎゃああああっ!!!」


 中で乱舞していた数十匹もの蝶の大群を見て、凄まじい悲鳴をあげたのだ。


 たまたま飼育器の蓋が開いていた事。

 蝶が一斉に羽化していた事。

 そして虫大嫌いなレベッカが、たまたま『大当たり』を引いてしまった事。


 いろいろな悪い条件が重なったのである。


 悪いのは、嫁ズへ言わなかったこの俺。

 だから、責任を取った。

 1か月トイレ掃除をひとりでやった。

 肥料にする汲み取りも含め……

 ……まあ家族の為だし、そんなに嫌じゃなかったから、構わないけどね。


 それ以来……

 嫁ズの、男子軍団へのチェックがとても厳しくなった。


 危険な事は勿論……

 「とんでもない事をやらかさないよう、しっかり注意するように!」

 と、父親の俺へも厳しい指示が出たのだ。


 まあ嫁ズの言う通り、よほど危ない事でなければ、あまりうるさくは言いたくない。

 果たして、今回はどんな相談だろう?

 俺は興味半分不安半分で、男子部屋へ向かったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 レオと共に男子部屋へ行くと……


 既に、フィリップが待っていた。

 もはやレオとは親友の間柄。

 お互いに、目と目でしっかり合図をしている。


 俺を自分達の部屋まで連れて来て、『作戦の第一段階』が成功ってところだろう。

 

 何だ、フィリップ……凄くニコニコして。

 お前ったら、完全にウチの子だよ。


「兄上、ようこそっ!」


「おう、今度は何だ?」


 と俺が聞けば、レオが首を振った。


「パパ、まだ! イーサンとポールが来るから待ってて」


「お、おう! 分かった」


 メンツが揃ってから、話をするってか?

 凄いな。

 フィリップを入れて計4人、男子組は団結力が強いらしい。


 やがて……

 イーサンとポールが厨房の手伝いから戻って来た。

 ふたりとも、今夜は夕食後の皿洗いを手伝ったのだ。


 これで全員揃ったか……


「じゃあ、聞かせてくれるか?」


 俺が促すと……

 レオが話し始めた。


「パパ、外にも男子部屋を作りたいんだ」


「外にも男子部屋?」


 外に?

 男子部屋?

 一体、どういう事だろう?

 もう少し、レオ達から詳しく話を聞く必要がありそうだ。


「うん! 俺達、夜、外で寝てみたい」


「外で? じゃあ庭で、テントとか使ってか?」


 実は、この異世界にテントはある。

 天幕に近い形状だが……


 しかし、レオは首を振った。

 どうやら、テントを使って『野宿』するのではないらしい。


「ううん、違う」


「じゃあ、なんだ? どこに寝るんだ?」


「パパ、ほら、畑にある、あの家だよ、使わなくなった」


「畑にある、使わなくなった家って……ああ、あそこか」


「うん!」


 レオの話で「ピン!」と来た。

 使わなくなった家って。


 ボヌール村の農地には、いくつか納屋……

 つまり農作業用の物置きを建ててある。

 そのうちの最も古いひとつが、手狭になった。

 なので、新たに納屋を3つほど建てて、農機具や種もみ等一切を移したのだ。


 だから、その納屋は現在空っぽ。

 何も、置いてはいない。

 そして鍵などかけていないから、好奇心から子供達が入り込んだらしい。


 でも汚いし、古くて狭いし……

 と思ったら、


 フィリップ、イーサン、ポールも猛プッシュして来る。


「兄上! OKして」

「そうそう、パパ」

「パパ、いいよね~」


「まあ、待て。じゃあ……とりあえず行ってみようか。明日朝一番、ママ達が寝ているうちに」


 という事で……

 俺は男子組を引き連れ、とりあえず翌朝、その納屋へ行く事になったのである。

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