第11話「謁見」

 従士達に連れられ、町の中を抜けて……

 俺達は、オベール様の城館へ到着した。


 見知った者達から挨拶され、またもお子様軍団は吃驚。

 部下達からは、「可愛い!」という歓声をところどころで受けている。

 

 そんなこんなで、すぐ大広間へ通されると、そこには満面の笑みを浮かべたオベール様、イザベルさん、そしてちょっと緊張気味な感じで、夫婦の一粒種フィリップが待っていた。


 オベール様ったら、嬉しそうに大きく手を振っている。

 直接血がつながらないとはいえ、可愛い『孫』のシャルロットが来たから嬉しいのだろう。


「おお! ケン達、良くぞ来た!」


 イザベルさんも、夫と同じく笑顔だが、ちょっぴり心配している。


「本当に良く来てくれたわ! でも大丈夫? 途中で賊に襲われたそうだけど」


 俺は軽く首を振り、連れて来た家族を振り返る。


「はい! ご覧の通り、全員怪我もなく無事です。魔法で事前に襲撃をキャッチして、迎え撃ちましたから」


「おお、そうか!」


 質問したイザベルさんより先に、オベール様が満足そうに頷く。

 俺との会話中、夫に割り込まれ、苦笑したイザベルさんは更に問う。


「ケンは戦ったの?」


「ええ、俺は商隊の護衛に加勢して戦いました。その間……嫁ズが子供達を守っていましたけど、幸い危険はなかったです」


「じゃあ、子供達は戦いを見たのね?」


「はい! 遠くからですけどね。今後の事もありますから、敢えて戦いを見せました。それにレオとイーサンもママ達と一緒に頑張りました」


「そう! ママ達と一緒に良く頑張ったわね、レオ、イーサン、偉いぞ」


「…………」

「…………」


 あれ?

 レオとイーサンったら、初対面のイザベルさんから褒められ、照れて赤くなってる。


 ああ、分かった!

 イザベルさんは相変わらず若いから。

 

 俺が初めて彼女に会ったのは7年前だけど、当時で30代前半にしか見えなかった。

 今もあまり見た目は変わらず、粋な美人お姉様って感じだから。

 まあ無理もない。

 超が付く綺麗なお姉様に、素敵な笑顔で褒められたら、6歳の男子だって心ときめくもの。


 え?

 じゃあ、イザベルさんは今、何歳かって?

 いや!

 本当の年齢は……絶対に内緒だ。

 

 そのイザベルさん、抜かりがない。

 

「タバサ、シャルロットも頑張ったね。偉いぞ」


 と、女子組も同じく褒めたから、男子だけ贔屓とかいう問題は起きず。

 でも、ここで別の問題が。


「…………」


 さっきから、フィリップが無言なのだ。

 俺の子供達が褒められる様子を見て、ちょっと面白くなさそう。

 大好きな自分のママを、横から取られたような気がするのだろう。


 うん!

 ここは俺がフォローしよう。


「お~い、元気か、フィリップ。会いたかったぞ」


「あ、兄上!」


 厚い雲が切れ、ぱあっと陽がさしたように、フィリップの顔が嬉しそうに輝く。

 俺は手を振って、可愛い弟の笑顔に応えてやったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 雑談は交わしたが……

 改めて、オベール様達への形式的な謁見が始まった。

 

 俺達は身内とはいえ、オベール騎士爵家の領民である。

 しっかりメリハリをつけないと。

 礼を尽くすべき時は、きちんと挨拶をし、言葉遣いを改めなくてはならない。

 今回の旅では、子供達にもそう伝えてある。

 だが、最初の俺とオベール一家のやりとりで、我が子達の緊張は解けていた。


 そんなわけで、まずはタバサから、挨拶だ。


「初めまして、タバサです。オベール様、イザベル様、宜しくお願いします」


 さっきの、門番に対してもそうだったが……

 長女のタバサは本当にしっかりしている。

 とても6歳だとは思えない。


 そんなお姉ちゃんの真似を、少しだけして、


「レオです」


「イーサンです」


「おじいちゃん、おばあちゃん、シャルロットよ」


 レオとイーサンは年相応に、至ってシンプルに。

 シャルロットはオベール家に近い身内らしく、甘えて挨拶をした。


 対してオベール様達は各自に声を掛け、言葉を選びながら、お互いの立場を明確にした。

 幸いイザベルさんも、シャルロットから「おばあちゃん!」と呼ばれても、にこにこしている……

 ああ、良かった!


 更に、フィリップには……

 改めて俺がフォローする。


「みんな、良いか? 次期当主のフィリップ様だ。じゃあフィリップ様、ご挨拶をお願いします」


「…………」


 しかし、俺が紹介しても、フィリップは挨拶をしなかった。

 俺が「ちらっ」と見たら、俯いていた。

 どうやらまた、緊張しているらしい。


「フィリップ、どうした?」


 黙り込んだ息子が気になったらしく、オベール様がフィリップへ声を掛けた。

 全然心配していないらしく、にこにこしている。

 まだ6歳の息子だし、鷹揚且つ寛容な男親は『こんなもの』だろう。


 問題は……イザベルさんだ。

 息子の不甲斐なさを見て、先程の笑顔が消え、苦笑を通り越し、しかめっつらをしていた。

 まあ気持ちは分かる。


 フィリップは将来のオベール家当主。

 いくら身内とはいえ、領民には威厳を示し、しっかりやっていかねばならない。


 幼い領民がきちんと挨拶したのに、次期当主たる同年齢の息子が返せないなんて論外。

 加えて、この場には、自分の娘も含めて子供達の母親が居る。

 このままでは母イザベルさんだけじゃなく、オベール家のメンツもまる潰れになると、考えているのだろう。


 と、その時。

 またも気を利かせてくれたのは、タバサ。

 爽やかな笑顔で、気持ち良く挨拶。


「フィリップ様、タバサです。宜しくお願いします」


 よっし、タバサ、ナイスタイミング。

 ならば俺もフォローをしてやろう。

 フィリップは可愛い『弟』なんだから。


 俺は微笑み、言う。


「フィリップ様、大丈夫。いつものようにやろう」


「い、いつものように? あ、兄上! は、はいっ!」


 俺はフィリップと武道の稽古をする時、一旦深呼吸をするよう教えている。

 魔法使いの呼吸法に倣って、気持ちを落ち着かせる為だ。


 記憶を手繰ったフィリップは、俺の指導を思い出し、『いつものように』大きく息を吸って……吐いた。

 そして、


「フィリップです、宜しく!」


 と、大きな声で、挨拶をする事が出来たのであった。

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