第8話「村祭り」

 カミングアウトから、3日後……

 デュプレ3兄弟は、ボヌール村に居た。


 3兄弟には、ステファニー救出の件も含め、俺の力の厳秘を誓わせた上で固く約束。

 その上で、一緒に転移魔法で移動した。

 ちなみにアンリとエマも、祭りに参加するという理由で一緒である。

 転移魔法初体験の5人は、一瞬にして景色が変わるのを見て、目を白黒させていたっけ。


 さてさて……

 前にも言ったけれど、今回の村祭りは、日本の縁日をイメージしてある。

 企画は、ばっちり立てたし、村では手に入らない資材調達もエモシオンで済ませた。

 後は作業だけ。


 今回の話を聞いたオベール様が、「自分もぜひ遊びに行きたい!」と、子供のように駄々をこねたが……

 グレースとの兼ね合いによる『例の約束』を念押しし、イザベルさんからの厳しいお叱りもあって、ようやく諦めてくれた。

 ちなみに7歳になった息子のフィリップが、不貞腐れた父を面白そうに見つめていたのが、結構可笑しかった。


 だが、俺にもオベール様の気持ちが分かる。

 男は永遠の子供だから。

 先日行われた、エモシオンの祭りを見物し、オベール様は味をしめたのだろう。

 俺達独自で企画した祭りに対し、興味津々となってしまったに違いない。


 でも、イザベルさんはさすが。

 子供のような夫の、操縦法を分かっている。

 結局、「費用はオベール家持ち」という条件で……

 今回の祭りを、いずれはエモシオンでも開かせる事を、俺達へ約束させたのだ。

 こうすれば、オベール様は勿論、息子のフィリップも楽しめる。

 「全員納得!」って事となる。


「宜しくね」


 と言い、にっこり笑うイザベルさん。

 うん、やっぱりこの人は策士だ。


 というわけで、只今俺達は村の祭りの準備真っ最中。

 祭り自体は、週末の土曜日に行う予定である。

 なので準備は平日に少しずつ時間をかけてやって行く。

 さすがに仕事を全部、ほっぽり出すわけにはいかないから。


 ご存知の通り、アンリとエマは、以前にボヌール村へ来た事がある。

 なので、祭りの手伝いと共に、村の仕事も率先して行った。

 村民達とも打ち解けて、全く違和感がない。


 一方、デュプレ3兄弟へ、俺は村の仕事をするよう命じてはいない。

 しかし3兄弟は、アンリ達に負けじとばかり懸命に働く。

 祭りの、手伝いだけにとどまらず……


 慣れない農作業も、俺を始め周囲に聞きながら、汗と泥まみれになって。

 終いには、何となくライバル視していたアンリ、エマとも大の仲良しになった。

 実はお互い城館に勤める身だが、顔見知りという程度だったから、これは良かったと思う。


 以前に、村への移住を表明したアンリとエマは、もう村民みたいなものだけど……

 一緒に3兄弟も大歓迎され、週末の祭りを、自然に楽しむ雰囲気が出来て行ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 週末、土曜日午後……

 幸い、天気は快晴。

 風もなく、穏やか。

 徐々に陽は西へ傾き、今日も美しい夕暮れとなるだろう。


 祭りの準備は万端に整った。

 村に居る全員が、開始を心待ちにしていた。


 ……やがて午後4時が過ぎ、いよいよ祭りが始まった。

 夕焼けに村が染まる中、紙芝居の太鼓の音が鳴り響き、にぎやかさに拍車がかかる。

 先日、エモシオンのお祭りに行けなかったグレースが嬉しそうに笑い、我がお子様軍団も大はしゃぎだ。


 村の中央広場には、俺とクーガー、そしてサキの発案で、ゲームと飲食、様々な屋台が並んでいる。


 まずは……

 縁日には、絶対に欠かせない金魚すくい……

 ……の『金魚』が、残念ながら、この異世界には居なかった。

 代わりに、近くの小川から捕まえて来たメダカを使った……

 名付けて『メダカすくい』、これは俺の提案。

 

 やり方は基本同じ。

 平たい大きな木の桶を作り、水を満たし、メダカを放す。

 前世の仕様に似せ、取っ手を付けた、木製の小さな網を用意。

 木枠には、この世界にある一番薄い紙を、ニカワで張った。

 この紙は、前世の金魚すくいの紙ほど破れやすくはないが、すぐへたってしまう。

 その上、メダカが思ったより素早い。

 なかなか捕まえられない。

 

 結構難しいから、子供だけでなく、大人も意地になって何度も挑戦している。

 ちなみに……

 メダカは祭りの終了後、俺の治癒魔法で受けたストレスと疲れを回復、否、逆にパワーアップ。

 元居た小川へ、全てそっと帰してやった。


 水中コインゲームは、経費がかからず、お手軽に楽しめるので採用。

 これはサキのアイディア。

 ゲーム用の器は、カブトムシを飼育していた、大きなガラスの容器を流用した。

 仕組みも簡単。

 中へ透明な水をたっぷり入れ、水底に皿を一枚置いて、小さな軽めのコインを投入。

 皿に上手く入ったら、景品が貰えるという単純なルール。


 しかし、やってみれば、これもなかなか難しい。


 ひらひら揺れるコインが、ぴたりと着地しないのだ。

 思うように行かない小さなコインの行方に、皆が一喜一憂し、大いに興奮した。

 これは珍しいと、ビー玉みたいなガラス球を、先日エモシオンで買っておいたのも役にたった。

 容器内へディスプレイしたら、綺麗に輝き、単純なゲームに素敵な彩りをそえてくれたのである。


 木で作った輪投げは、子供だけでなく、大人も熱中。

 これも、一定の得点以上をクリアしたら景品が貰える。


 目まぐるしく、マグカップの位置が変わるスリーシェルゲームは、クーガーのアイディア。

 こちらも、予算が殆どかからない。


 皆さんも、スリーシェルゲームはご存じだろうけど、改めて説明しよう。

 

 まず、中が見えない小さなマグカップ3つを用意。

 テーブルの上で、マグカップをさかさまにして蓋をするように置き、さいころをひとつだけに仕込む。

 そして、テーブルに伏せたまま置いて、手で移動させ素早く入れ替える。

 何回も、何回も。

 最後に、さいころの入ったマグカップを当てれば、お客の勝ち。

 シンプルなゲームで、動態視力の勝負なのだが、これまた歓声が沸いた。


 片や、食べ物の屋台も結構充実。


 村中に香るくらいな例の特製ハーブ料理は勿論、いろいろな肉の串焼き、新鮮野菜のスープ、卵料理がズラリ。

 オベール家提供として、エモシオン産鱒の干物、新鮮なフルーツ、珍しいお菓子、そしてエール、ワイン、果汁等々もたっぷり。


 定番の綿菓子は、材料機械、両方無理だったので泣く泣く断念。

 その代わりポップ種、つまり爆裂種のとうもろこしが手に入ったので、ポップコーンを実施。

 塩味と甘い味の両方を用意して、大うけした。


 皆様、驚かないで聞いて欲しい。

 

 太っ腹な事に、これ全部……無料。

 すなわちタダ。

 村から、普段の労働に対する慰労、福利厚生という事にしたのだ。

 

 かかった経費の出どころは、俺が密かに稼いだ金を村の予算だと伝えた。

 加えて、オベール家からも、ある程度の援助をして貰った。

 新たな自己負担なく祭りが出来るとあって、村民達が大喜びしたのは、いうまでもない。

 

 そして、今回は運営側、お客と両方、村民全員で役割を分担していた。

 例えば、紙芝居。

 最初はリゼット、途中からサキが交代って形でやる事になる。

 これはお店をやる、遊ぶ、両方の楽しみを満喫して欲しかったから。


 このローテーションに関し、デュプレ3兄弟はひとつだけ、お願いをして来たのであった。

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