第9話「昔のように……」

 デュプレ3兄弟の望んだ願いは、俺の想定内だったから、即座にOKを出した。

 何故なら、彼等のお願いとは、実にささやかであったから。


 皆さんには、もうお分かりであろう。


 3兄弟は、昔のように……

 ソフィことステファニーと、4人で一緒に村を歩きたい……そう、言って来たのだ。

 手伝いとして呼ばれた、祭りで割り振られた仕事のローテーションを、ステファニーと重ならないよう上手く調整して欲しいと。

 

 ステファニーが幼き子供の頃から、

「エモシオンをパトロールしていた」昔のように、

 主従水入らずで歩きたい。

 つまり、夫の俺は『抜き』でと……

 ただ、それだけなのである。

 

 そこまで言われたら、俺だって、野暮じゃない。

 3兄弟の、昔を懐かしむ気持ちも良く分かる。

 ステファニーも、嬉しそうに頷いていたし。

 

 だから大サービス。

 単に、一緒に歩くだけでは何だから……

 OKしただけではなく、祭りを楽しむようにとも伝えたのである。


 え?

 自分の愛する妻が、赤の他人の男と遊んで嫉妬しないかって?


 いや、大丈夫。

 俺は嫁としてのソフィを信じているし、デュプレ3兄弟の持つ感情は恋ではないから。

 ステファニーに対しては、あくまであるじとしての忠誠心。

 そして、密かに……愛する妹という純粋な想いである、多分……


 でも、やっぱり気になった俺が遠くから、見守れば……

 4人が一緒に過ごした、幼き日とは、隊列が違っていた。

 ……俺が出会った少女の頃、子供の頃から、ず~っとそうだったのだろう……

 颯爽さっそうと、先頭に立っていたステファニーは……

 今や、屈強な3兄弟の背後で、守られるように歩いているのだ。


 ステファニー、否、ソフィは変わったのだ。

 彼女は最早、俺が初めて出会った、気が強い且つ可憐な17歳の少女ではない。

 

 ……あれから7年以上の歳月が過ぎ、落ち着いた美しい大人の女性となり、立派な母にもなっている。

 文字通り慈母……優しく微笑みながら、楽しそうにはしゃぐ愛娘、ララの手をしっかりと引いていた。


 そして、もっと違う事もあった。

 かつての宿敵ヴァネッサが、愛する姉グレースとなり、まだ赤子のベルティーユを胸に抱き、仲良く並んで歩いている事実だ。


 これって、ソフィが望んだ事。

 自分の娘ララと共に、そしてグレース母娘も一緒に、祭りを楽しみたいって。


 異分子が入るというか……

 ララとグレース、ベルティーユが入る事で少し予定変更となり、3兄弟は当初、不満そうであったが……

 一緒に歩き出してみれば、約束が違った事も、全然気にしていないようだ。


 ちなみに……

 グレースことヴァネッサまで、ボヌール村に居る事を聞き、3兄弟は大いに驚いた。

 そして、ソフィが仲良しなのを目の当たりにして、更に超が付く驚愕。

 これは以前、オベール様が見せた反応と、全く同じである。


 俺は見た事がなく、話でしか聞いていないが……

 

 城館で共に暮らしていた頃の、ステファニーとヴァネッサは日々罵り合い、時にはつかみ合いの喧嘩までしたという。

 あまりにも激しくて、果ては殺し合いになるのではと、危惧されたらしい。

 それが今や、実の姉妹のように、仲睦まじく談笑しながら、歩いているのだから。

 3兄弟が信じられないのも、無理はない。


 やがて……子供を入れた総勢7人の一個連隊は、屋台のゲームで遊び始める。

 果たしてあの3兄弟が童心へ帰れるのかと、少し心配したが……杞憂に終わった。


 ステファニーと一緒なら、3兄弟は、遠き子供の日へ帰る事が出来たのだ。


 まずは、メダカすくいに興じる。

 素早く逃げるメダカに大苦戦。

 全員ではしゃぐと……勢いが付いた。

 

 次に輪投げでは、投げた輪の行方に、一喜一憂。

 そしてスルーシェルゲームでクーガーの、これまた素早すぎる動きに翻弄され、白旗を上げて降参。

 最後は水中コインゲームに興じ、揺れながら水中を漂うコインを見て、はらはらどきどき歓声をあげていた……


 あ!

 俺が見守っているのに、ララが気付いたみたいだ。

 小さな手を振っている。


 おお!

 ソフィも手を振っている。

 そして……ひと言、ふた言、3兄弟に囁いた。

 

 俺を入れても良いか?

 そう言っているのだろう。

 

 3兄弟が頷くと、ソフィは、


「旦那様ぁ! 一緒に遊びましょう! 早く来てぇ!」


 と叫び、ララまでもが真剣な顔付きで、


「パパ! はやく!」


 と、またも手をぶんぶん打ち振った。

 更に、グレースもベルを抱いたまま、にっこり笑っている。


 愛する家族が、俺を呼んでいる。

 早く来いって。


 ならばもう、躊躇ためらう事はない。

 俺はダッシュで、ソフィ達の下へ、駆けて行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る