第20話「すもうトーナメント②」

 祭り初日の朝、オベール様の城館中庭。

 抽選会から、1時間後……

 

 午前10時になり、いよいよ女子のすもう大会の開始となった。

 事前に告知していたから、観客も結構来ており、残った男達と合わせて約300人と言ったところ。


 さあ、まずは出場者の呼び出しだ。

 簡略化しているので、『行司』の俺が『呼び出し』も兼ねている。

 

 何事も、最初が肝心という。

 イベントは、インパクトが命であると思う。

 だから、「ここぞ!」とばかりに、俺は大声を張り上げる。


「ひが~しぃ、カルメ~ン、カルメン・コンタドールぅ。冒険者ギルド王都支部所属ぅ!」


 聞き慣れないだろう、俺の口調に観客が少しどよめくが、それを打ち消すかの如く、


「おうっ!!!」


 椅子に座っていたカルメンが、凄く大きなドスの効いた声で返すと、釣られて観客も更なる大声で応える


 おおおお!


 いつもは静かな、オベール家の城内が、むつけき男達の歓声に染まる。

 上級冒険者のカルメンは王都で名が通っている上、大勢の人前へ出る事に慣れているみたい。

 俺の呼び出しの声ではなく、歓声に応えるよう、観客へ手を振りながらゆっくりと立ち上がった。


 さあ!

 次は、いよいよ我が嫁クーガーの登場だ。


「に~しぃ、クーガー、クーガー・ユウキぃ、ボヌール村所属ぅ!」


「はいっ!」


 対して、クーガーは凛とした声で返事をし、これも椅子から立ち上がった。


 カルメンほどではないが、出場者の男達や観客から声援や口笛が飛ぶ。

 

 我が嫁だからという、大きなひいき目を差し引いても、クーガーは超が付く美人である。

 カルメンと比べると、また違うタイプの美人といえるだろう

 だからなのか、結構な数のファンが「裏切った」らしい。

 

 カルメンは凄い目で、クーガーに声援を送った男達を睨んでいる。

 「てめぇら、ふざけた事やってると、ぶっ殺すぞ!」って凄い波動が伝わって来る。


 苦笑した俺が、領主席を「ちらっ」と見やれば……

 やはりオベール様一家は全員、これから始まる展開を予想してなのか、目を輝かせていた。

 あれだけ町へ遊びに行きたがったフィリップでさえ、食い入るようにクーガーとカルメンを見つめている。


 うん! 良かった!

 『すもう』を存分に楽しんでくれそうだ。


 俺が視線を戻すと……

 カルメンは「のしのし」、クーガーは「すたすた」歩き、両者は土俵中央でにらみ合った。

 ふたりとも、全然視線を外さない。

 強烈なガン飛ばしだ。

 

 もしも……不良同士、すなわち「レディスの『ヘッド』同士の決闘だ」と言ったら……

 俺は、このふたりに殺されるだろうか?


 おもむろに腰を落として、手を突き……更に両者はにらみ合う。

 最初の立ち合いは一応『予行演習』なのだが、お約束の脅しとばかりに、カルメンが突っかかろうとした。

 

 しかし!

 何と、クーガーは左手一本で、カルメンの突進を止めてしまった。


「な!」


 驚くカルメンを尻目に……

 クーガーは相手の巨体を「とん!」と押し返し、「にやっ」と不敵に笑ったのである。


 片手で止める?

 それも涼しい顔をして?


「き、貴様ぁ! ゆ、許さぁんんん!」

  

 大勢の観客の前で、自慢のパワーに『ケチ』をつけられ、怒り狂うカルメン。

 対して、クーガーはあくまでも冷静だ。


「おい、冒険者。ルールを聞いていなかったのか? まだ『時間前』だぞ。後でちゃんと相手してやるから焦るな」


 クーガーはそう言うと、「くるり」と背を向けた。

 さっさと自分のコーナーへ戻って行く。


「な、何だとぉ! なめやがってぇ! このクソあま、ぶっ殺すぞぉ!」


「おいおい、だめだめだめ!」


 背後からクーガーへ襲い掛かろうとするカルメンを制止させ、俺は早速『指導』を行う。


「警告するぞ、カルメン・コンタドール。やたら相手を恫喝したり、正式な仕切り以外で戦ったりするな………」


「何ぃ!」


 注意の言葉を聞いたカルメンは、さすがにクーガーを襲おうとするのをやめ、俺の方へ振り返った。


「カルメン、これは競技だ。ルールを守らないと、即、反則負けにする」


「何だと! ルールだぁ?」


 いきり立つカルメンへ、俺は言う。


「聞け、カルメン。お前は冒険者ギルドへ所属しているのだろう?」


「そうだっ! そう書いて書類を送っただろうがぁ!」


「ならば、聞こう。冒険者ギルドに就業規則はないのか? 依頼遂行の際、条件はしっかり守れとか、真っ当な理由もなく勝手に放棄するなとか、お前はその規則を守らないのか?」


 夢経由で行ったとはいえ……

 俺は異世界の冒険者ギルドで、ヴァルヴァラ様と一緒にランクAのライセンスを取った。

 

 その際、ギルドの講習を受け、就業規則の内容も知った。

 多分、この世界のギルドの規則も似たようなものだろう。

 だから、無難なところを言ってみたのだ。


「ギルドが定めた規則を破ったら、当然の如くペナルティがあるだろう? ……違うのか? カルメン」


「う! くうう……」


 俺がそう言ったら、案の定、カルメンは言葉に詰まってしまったのであった。

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