第19話「すもうトーナメント①」

 それから時間が過ぎ……というか、一番最初のくだりに戻るけど……


 今日は、エモシオンで行われる合同就職説明会である。

 否、イザベルさんの主導で、にぎやかな『祭り』と化した初日である。

 

 初日というのは、明日も含め、丸2日間に渡って行われるから。

 準備やお金の問題もあり、たった1日だけの実施じゃあ勿体ないのと、種々のイベント開催の都合によるものだ。


 ところで、前に言ったかもしれないが、今回の俺の仕事は多岐に渡る。

 

 いろいろと順番を考え、相談した結果……

 アンテナショップの、スタッフ募集の仕事は、とりあえずリゼット、クッカ、ソフィ、クラリス、サキの5人に任せ、俺はオベール様の城館中庭に居た。


 セッティングされた領主用の特別席にはオベール様、イザベルさん、そしてフィリップの3人が座っている。

 

 オベールとイザベルさんは、すもう大会開始が待ち遠しいという表情をしているが、息子のフィリップだけは町へ遊びに行きたいという顔付きである。

 

 今回の祭りの内容を知らされた際、年頃の子供らしく、

 フィリップが「祭りで遊びたい!」とねだったのは自然な事。

 愛する息子の願いを、頭からはねつけるのも可哀そうだと、事前にイザベルさんから相談があった。

 

 こちらも考えて相談した末、見物は祭り2日目となる明日の午前中、人が比較的少ない早めの時間を狙う。

 俺とクーガーが護衛し、オベール様一家を連れ出す事となっている。

 領主と宰相が不在中は、従士長とアンリに城館を任せる予定だ。


 ……既に、すもう大会の出場者110人は中庭に居並んでいた。

 内訳は、男が94人、女が16人。

 当然だが、女の中には出場申し込み済みのクーガー、レベッカ、ミシェルも居て、ピースサインを送って来る。


 予定通り、オベール様の挨拶、そして宰相である俺の挨拶&ルール説明が済むと、会場は少しざわついた。

 

 無理もない。

 そもそも、この異世界に『すもう』はなく初めて目にしたのだろうから。

 一応、レスリングに近い格闘技はあるけれどね。


 書面で事前に告知され、加えてこの場で宰相である俺の話を聞いてみたら……

 あまりにもルールの縛りが多いと、嫁ズを除く全員が感じているらしい。


 挨拶等の後は、先日イザベルさんに見せたように、俺とアンリのすもう『デモンストレーション』を行う。

 論より証拠、話すより、見せた方が早いから。

 俺とアンリは腰を落とし蹲踞そんきょ、にらみ合って、普通に3番ほど戦った。

 更に俺とアンリは、お互いにわざと反則をして、NGの具体的な事例を見せたのである。


 反則を見て出場者達の『ざわめき』は更に大きくなった。


 そういえば、イザベルさんが、会議の後に言っていたっけ。

 「すもうが全く未体験の方が、いざという時の対応能力が見られるから良い」って。

 だから俺は敢えて生え抜きの部下達にも、「すもうとは何ぞや」と教えていない。


 但し、ウチの部下でも頭が回る者は、先日俺とアンリが戦った際、しっかりリサーチしていた。

 護衛についた者へ、いろいろと様子を聞いたらしい。


 え?

 ずるい?

 確かに、ど新規で参加する者と比べれば、フェアじゃないかもしれない。


 だが、こういうのって、俺から彼等を部下として見れば、機転や目端が利くとも言う。

 私見だけど、ルール以内、創意工夫の範疇だと思えるのだ。

 

 何故なら、俺やアンリへ、露骨に聞き込みをしたりしていないし、

「一回くらい戦って下さいよ」なんて事もしていない。

 だから、ズルじゃない。

 よって、これぐらいならセーフ。


 ところで、進行の都合上、参加者の少ない女子の大会を先にやる予定となっている。

 そして、対戦の組み合わせはくじ引きとした。

 これも公正な対処方法であり、どこからも文句は出ない。


 ウチの嫁ズ以外に、女子の出場者でやはり目立つのが、例のカルメン・コンタドールという冒険者。

 年齢は、20代半ばを過ぎたくらいだろう。

 

 全体の雰囲気は、何となくだが、あのヴァルヴァラ様に似ている。

 まず、体格が「もの凄い!」のだ。

 本物の、それも素のヴァルヴァラ様に近い。

 

 身長は180㎝を楽に超えているし、筋骨隆々である。

 カルメン当人へ言うと、絶対に殺されるから言わないが、体重も100㎏くらいはある。

 そんなに逞しいカルメンだが、髪はアッシュブロンドで短髪、淡いブルーの瞳を持つ、凛々しい男顔の美人なのである。


 まさか、ヴァルヴァラ様が擬態して、この世界へ降臨したのではと思ったが……どうやら違うようだ。

 魔法で確認し、ヴァルヴァラ様じゃないと分かった時、ホッとしたような、寂しいような複雑な気分になった。

 

 まあ、そんなこんなで、「すぐに組み合わせを決めよう」という事となり、早速抽選を行う。

 最初にカルメンが、そしてレベッカ、続いてどんどん他の出場者が引き、最後にクーガーがくじを引いた。


 すると……

 クーガー対カルメンという組み合わせが、『しょっぱな』に決まってしまった。

 下馬評? では『優勝候補』の2強がいきなり激突。

 いわば事実上の決勝戦?

 会場は否が応でも盛り上がる。


 その後に、男子大会の組み合わせも、『厳正なる抽選』で決定した。

 こちらに、例の『王国の名物男』フェルナン・モラクスも居た。


 俺が「ちらっ」と見た限りだが……

 年齢は25,6歳。

 こちらも身長は高く、2mを少し切るくらい。

 ガチムチと言って良い、凄く逞しい身体をしていた。

 

 栗毛の長髪に鼻筋の通った顔をした、鳶色の瞳を持つイケメンだ。

 イケメン好きのレベッカが「ちら見」して、ちょい赤くなったのは……まあ許しておいてやろう。


 一応、未知のすもうの下見という理由はあったにせよ……

 進行スケジュール的には女子の大会終了後に会場入りすれば良く、出場者の男達はこの場にずっと残る理由などない。


 だが……

 やはり女子の大会に出る女達が、嫁ズやカルメンを始めとして、結構な美人揃いというのが原因であろう。

 男達は誰ひとり、会場を出なかったのであった。

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