第17話「笑われた?」

 オベール様の、中庭で行われるイベントだが……

 やはり経費の問題は大きい。

 オベール家のふところもけして潤沢ではなく、イザベルさんからは、『コスパの良さ』を求められた。

 だから、今回行う催しも、総体的に安上がりなものとした。


 アームレスリングは大きな木製エール樽を数個用意し、ふたりで向かい合い、バトルを行う。

 チープながら、趣きもあって、我ながら良いと思う。

 暗算と書写は机と椅子を並べ、ペンとインク、本と紙を用意するだけだから、準備は簡単で、費用も殆ど掛からない。


 メインのすもう大会だけは、実施するにあたって、ある程度の準備が必要ではあった。

 当然リング、否、まず土俵が必要となる。

 何となくだけど、俺の記憶によると本物の土俵は円形で、直径は4mと少し、高さは1mは全然なかったと思う。

 周囲には俵が埋められていて、神社のような屋根も取り付けられていた。


 まあ、すもうと言い切っているが、所詮すもう風の大会だし、完全に同じにするとか、あまり凝ろうとは思わない。

 昔からの、難しいしきたりも当然なし。


 一応、土俵の形とサイズは、高さと俵以外、本物に近いものとした。

 あまり詳しくないし、記憶が曖昧だったが……

 直径約5m、円形の砂場を、俺が『地の魔法』で作ったのだ。

 だから工事費、つまり経費は、……ゼロである。


 ルールも、ちゃんと設定した。

 一応、本物の『すもう』に準じる。


 まず常識的な規則から。

 

 男女別に行う。

 種族、体重の制限はなし。

 格闘技だから、武器の使用は不可。

 

 まあ、これらは当たり前だろう。


 魔法の使用?

 うん、これも不可。

 攻撃、防御の魔法なんてもってのほかだし、身体強化の魔法も駄目。

 俺も、アームレスリングに参加する際は使わない。


 違うのは……

 裸ではなく、革鎧を着る事。

 だって『まわし』なんて作れないし……

 参加者は結構な人数だし、サイズだってどうするの? って感じ。


 百歩譲って、出場者に説明して理解させた上で、『装着』させるのも凄く難しい。 

 この世界の人にとっては、『まわし姿』も微妙なところだから。

 なので、なし。


 ちなみに、着用する革鎧に関しては、とがった鋲の打たれた鎧とか、変な仕掛けや魔法の効果が付けられたものも禁止とした。

 そうそう、頭部保護の為、革兜の装着も必須にする。

 ボクシングの、ヘッドギアみたいなもの。


 次は、勝ち負けの判定。

 相手を土俵外へ出す、足の裏以外の身体の部分を土につかせれば勝ち。

 加えて、反則したら負けとなる。

 これらは一緒。


 という事で、当然、反則規定も設ける。

 怖ろしい魔物とやりとりする、命を懸けた実際の戦いでは、反則などとは言ってはいられないが、これは一応スポーツ。

 『すもう』の禁じ手は勿論の事、他の格闘技で禁止されている条項も取り入れる事とした。

 結局、打撃&関節系攻撃、急所への攻撃、兜から出ている頭髪を故意につかむ、首や喉をつかむ、指を、折り返す等を全て禁止としたのだ。

 すもうでは問題なく、有効な攻撃手段である張り手もNGなのが、本物と比べた時の大きな違いだろう。


 ああ、そうそう、いわゆる『口撃』も制限する事に……

 気合の入った声ぐらいなら良いけど、相手への侮辱や殺意をあからさまに出した発言も不可とした。 


 以上に違反したら、即座に戦いを中止。

 違反者は反則負けとする。

 

 これはもし、出場者が採用となった場合……

 こちらから下した命令に対し、違反を犯さないという、性格判断の目安にもなるのだ。


 ちなみに、行司役は俺とアンリ。

 微妙な判定が出た場合は、当事者である出場者には聞かず、俺達行事が見て判断する。

 申し訳ないが、何か不服が出ても、抗議等は一切受け付けないとした。

 出場申請をする際、八百長はしないという大前提を含め、全てのルールを列記。

 更に絶対順守するという誓約書にもサインして貰う。


 そして、気になる優勝賞金は……

 多いか、少ないか微妙だが……金貨100枚とした。

 まあ前世の金に換算して約100万円といったところだろうか。

 副賞もエモシオンとボヌール村の特産品をつけて、抜け目なくPRする作戦である。


 更に、10位までは段階的に賞金と副賞が出る。

 なので、オベール家中でも結構な参加者が出たのだ。


 当然、外部の参加者は、更に数多の者が名乗りを上げた。

 結局、すもう大会には、100人を楽に超える参加の申し込みがあったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 お祭りの開催日から1週間前、すもう大会の申し込みは締め切られた。

 アンテナショップのスタッフ募集を始めとして、他の準備は殆ど終わり、後はこの目玉となる大会の詰めの作業だけ残っていた……


 俺、オベール様夫婦、そしてアンリで出場者のチェックをしている。

 ウチの嫁ズもどんな参加者が居るのか、興味深々だったが……

 さすがに越権行為という事で、申込者の情報開示はお断りした。


 その代わり、しっかりアンテナショップの仕事をやるからと言う条件で……

 交代制により、すもう大会の見物をOKしたのである。


 そして紆余曲折あって……

 クーガーとレベッカ、ミシェルが何と!

 女子部門のすもう大会と、アームレスリングに出場する事が決定したのである。

 これは、凄い事になりそう。

 

 さてさて、話を戻すと……

 俺達の目の前には、エモシオンで直接提出、もしくは魔法鳩便で送られて来た申込書の山がある。


「お、凄い人が申し込んで来ましたよ」


 一枚の申込書を見ているアンリが、吃驚している。

 俺が思わず「どうした?」と聞いたら、

 「はい! 超有名人がウチのすもう大会に!」と興奮している。


「実は……ちょっと変わってるというか、この王国では有名な人なんです」


 アンリがそう言うと、オベール様もピンと来たみたい。


「ああ、もしかして、フェルナンか?」


「はい! フェルナン・モラクスさんです」


「オベール様、そのフェルナンさんって、そんなに有名なんですか?」


 俺がつい、オベール様に聞いたら、「そんなの常識だ」という感じで教えてくれた。


「ああ、フェルナンは、モラクス騎士爵家の3男として生まれた。天下無双と言われ、勇猛果敢。だが冷静沈着な男でもある。どんな荒馬も乗りこなし、騎士として凄い腕を持ちながら、どこの家にも仕えず、上級貴族家からの婿入りも断り、ずっとフリーの雇われ騎士をしているんだ」


 おお、「これでもか!」っていうくらいの褒めようだ。

 それほどの逸材なら、俺も一度、会ってみたいとも思う。

 

「へぇ、凄いな。でもその人って、どこにも仕えないなんて、全然欲がないというか、相当変わってますね」


 俺がそう言ったら、オベール様とアンリ、そしてイザベルさんまでが「はぁ?」という感じで俺を見た。

 そして、3人はお互いに顔を見合わせると……

 「ぷっ」と噴き出して、笑ったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る