第15話「就職&査定という名のイベント①」

 それから……

 会議は何回か、順調に行われ、とうとう『祭り』の概要は決定した。

 

 途中から、エモシオンの市場の場長、商店会の会長なども加わり、活発に意見交換が為された。

 結果、いろいろな趣向が盛り込まれたのだ。

 

 予算もオベール様やボヌール村だけではなく、市場と商店会側もいくばくかを負担する事となる。

 これは彼等が企画に関して、認めてくれたという証であり、オベール家は喜んだし、発案者の俺も凄く嬉しい。


 当然ながら、開催告知もしっかりやる。

 オベール様のコネや諸々の手を使い、王都や一番最寄りのジェトレ村へ告知ポスターを掲出した。

 掲出場所は、広場、冒険者ギルド、商業ギルド等々の掲示板へ。

 またエモシオンやボヌール村を訪れた国内外の商隊へ、同じポスターを渡して、『祭り』の開催告知拡散を図ったのだ。


 実は、この告知の内容もいろいろ考えた。

 万が一、人が来ないと、凄く盛り……下がる。

 だから告知は、やらないわけにはいかない。


 しかしこれって、「まともにやり過ぎる」とまずい。

 王家や他の領主に対し、この『祭り』が最初からオベール家の『引き抜き行為』と曲解されるのが、宜しくないから。

 なので、表現には気を付けた。

 あまり大々的に人材募集とは出さず、表向きは、あくまでも『エモシオンの祭り&イベント』という感じにしたのだ。

 

 さてさて、話を戻すと……

 今回の『祭り』の会場は、大きく分けて2か所である。


 ひとつは、オベール様の城館の中庭。

 ここではオベール家の採用、すなわち武官と文官を募集する受付けブースがセッティングされている。

 いわば『公務員』の募集ブースってとこだろう。


 但しこれだけでは「つまらない」と思われ、人が全く来ないとまずい。

 なので、集客イベントを計画した。

 行うのは、すもう大会、アームレスリング大会だ。


 え?

 安直?

 確かにそうかも。

 

 でも……

 何故、すもう大会かというと……

 かつて織田信長が行ったという部下の募集方法であり、イベントにもなるからである。


 俺、実は中二病と共に歴史も好き。

 前に小説で、そういう話を読んだんだ。


 信長は、大のすもう好きだった。

 記録によれば、彼の治める領土で行われたすもう大会は、庶民の見物も多数あって、大いに盛り上がったらしい。

 出場者も最大で1,500人、中には結構な身分の家臣が居たという。


 ああ、何か素敵だなぁ。

 身分も何も関係なく、誰もが身体ひとつですもうをとるんだ。

 想像してみて欲しい。

 観客だって、手に汗握って楽しんで、普段の厳しい現実を忘れただろう……


 ……最終的に、信長と家臣達は成績上位者を、部下として召し抱えたという『おち』がある。

 うん!

 実現は無理だろうけど、夢は大きく。

 力士みたいな、ごっつい体格の部隊なんてカッコイイじゃないか。

 俺は、信長のアイディアをそのまま頂いたのだ。

 

 すもうにしたのは、別の理由もある。

 簡単な事、経費の問題だ。


 一応、この異世界は中世西洋風ではある。

 サムライではなく、騎士の居る世界だ。

 本来は、騎士が行った馬上槍試合ジョストみたいな方がベストかもしれない。

 だが、考えてみて欲しい。

 騎士の武技イベントにしてしまうと、参加者も限られる上、準備も場所もおおがかりになる。

 馬と武器も用意し、会場も凝ったものにしなければならない。

 試算したら、費用も結構かかってしまいそうだった。

 だから、『すもう』にしたのだ。


 同時に行われるアームレスリング、つまり腕相撲も趣旨は同じ。

 こちらは、すもうよりも、気軽に参加出来る随時募集形式。

 1週間前に締め切る『すもう大会』とは違い、飛び込み参加もOKとなっている。


 武道大会って、盛り上がるのは必至だし、見物人は大勢来るだろう。

 当然、出場者にも大きなメリットがある。


 怪我をする可能性もあるが、ふたつの大会に勝ち残った者は賞金が貰え、そして箔が付く。

 箔という方が実は大きくて、採用する際に優勝を含め上位入賞者が断然有利になるのだ。


 反面、問題もある。

 すもうとアームレスリングだけだと、いわゆる武官、つまり武辺者が多くなってしまう可能性が大きい。

 だから、抜かりなく、俺は文官向きの小イベントもちゃんと企画した。

 

 具体的には、暗算と書写のパフォーマンスである。

 希望者を募り、その場で、暗算と書写のパフォーマンスをやって貰う。

 水準をクリア出来たら、低額だが賞金を出し、オベール家への仕官を打診するって事で。

 参考までに言えば、暗算は計算の正確さと速さ、本を写す書写は記載の速さ、文字の綺麗さを競うものだ。

 いわば一次試験みたいなもので、嫌味なく相手の能力を計る事が出来るから。


 ちなみに……

 あまり来ないとは思うが、魔法使いの志願者が居たら、俺が個人面談をする事になっている。


 こうなると、新たに取る人間ばかり、優遇しているって感じになるのは否めない。

   

 でも今回募集する、新規の者だけじゃない。

 俺は、既存の部下達の事もちゃんと考えていたのである。

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