第4話「転生者サキ・ヤマト②」

 「ムッ」として怒っている俺を全然気にせず……

 よせば良いのに、サキは更に余計な『ひと言』を告げる。


『じゃあ、それまで私は、ケンで何とか我慢……ってわけね』


『……まあ……そういう事だな』


 おいおい!

 ふざけるなよ、サキ。

 「何とか我慢した」のは、お前じゃねぇ。

 お前の超が付く『暴言』の数々に対して、俺の方が……何とか我慢したんだよ。


 ……改めて思った。

 管理神様が「サキへ厳しくしろ」と念押ししたのは、彼女の『痛い性格』のせいだったんだ。


 そして、管理神様の思惑も完全に読めた。

 超生意気なサキを、いきなり担当させたら、誇り高いヴァルヴァラ様は確実に激怒する。

 『ぶち切れ』と言って良いくらい、マジで怒るだろう。

 そんな事態に陥らせない為、代理の俺にサキをしっかり『事前教育』させるって事だ。


 はぁ……

 俺は、軽く息を吐く。


 事情がよ~く分かったから、決めた。

 『同じ転生者のサキへ、優しくしてあげよう作戦』は、一旦中止。

 管理神様の言う通り、彼女にはスパルタ教育決定……180度方針転換だ。


 「つらつら」考えながら、俺が黙って見守っていれば……

 左右を「きょろきょろ」見渡したサキは、これから何をすれば良いのか分からず、不安になったらしい。

 早速、俺に「振って」来た。


『ふうん、まあ、仕方ないわ。じゃあ、ケン、早速私をサポートして頂戴』

 

『…………』


 散々酷い言い方をされた、俺が従う必要などなし。

 まずは、無視!


『はぁ? 何、黙ってるのよ! ケン、返事は? 返事をしなさい!』


 相変わらず生意気な態度だから、今度は拒否。


『……断る』


『は? 断るって!? ケン、貴方、な、何言ってるの?』


 思わぬ展開に吃驚して、怒りが湧いたらしいサキ。

 目が真ん丸、顔も真っ赤。


 そんなサキへ、俺は「きっぱり」と言う。


『分からないのか? お前にするべき返事もサポートも、一切断ると言っているんだ』


『ふ、ふざけないでっ!!! 貴方はサポート神でしょうっ!!!』


 サキは激怒した。

 自分の思うがままになる筈の男が、言う事をきかないから。

 大声で、俺を威嚇しようとしている。


 しかし俺は、極めて冷静。

 これくらいの叫び声、ゴブリンがわめく程度では動じない。

 なので、サキへ冷たく言い放つ。


『ほう、サキ……ふざけているのはどっちだ?』


『は!?』


『今迄の傲岸不遜な言動……それが神に向かってお願いする態度か?』


『な、な、な!』


『良く聞け、サキ。この俺だからまだ良いが、正式に女神さまが来てそんな態度をとったら、お前など滅茶苦茶に叱られた上、きっついお仕置きを喰らうぞ』


『え? 叱られる? お仕置きって、どうして?』


 「ポカン」と口を開けて、吃驚するサキ。

 どうして? って……

 おいおい、お前はあまりにも物事を考えなさすぎだ。


 俺は却って心配になる。

 折角、転生したのに、これじゃあ駄目だ……

 サキは、心身とも根本から鍛え直さないと、この厳しい異世界で生き抜く事すら出来ないと。


 だから、ここは俺から折れて……最初のサポートをしてやろう。

 「神とのやりとりはこういうもの、サポートって奴はこうだ」と、サキへ教えてやる。

 転生者の『先輩』として……


『それにサキ、神様からのサポートを勘違いするなよ』


『な、何よ、勘違いってぇ!』


『この世界で生きて行くのは、あくまでもお前だ。お前が主体、すなわち己の意思で行動は決定される。神である俺や女神さまは単なる補助役に過ぎん』


『どうして? 何で聞いちゃいけないのよぉ?』


『とりあえず、神様に対する口の利き方に気を付けろ』


『ひ!』


 あまりにも反抗的だから、俺は『戦慄』のスキルを発動。

 軽く睨むと、さすがにサキは怖がり、全身を硬直させてしまった。


『大サービスで教えてやる。サキ、まずお前がどうしたいのか? それをしっかり考えてから質問しろ。その上でちゃんとアドバイスをしてやるから』


『…………』


『分からないのか? 最初は自分で考えろ、と言っている』


『…………』


 ああ、戦慄のスキルが効きすぎたか。

 俺は回復魔法で、強張ったサキの身体をほぐしてやった。

  

『わ、私の方が? こ、これからどうしたら良いか、まずは考えるの?』


 魔法の効果で、漸く話せるようになったみたい。

 でも、サキの奴、相変わらずため口だ。

 まあ、仕方ない……か。

 苦笑した俺は、改めて教えてやる。


『その通り、まずお前の判断、意思ありきのサポートだよ』


『…………』


 俺から「びしっ」と言われ、サキは再び黙り込んだ。

 

 そして、いきなり首を激しく左右に動かし叫ぶ。


『わ、分からないわよぉっ!』


『分からない?』


『そうよっ! いきなり、学校帰り、事故にあったのよっ! そしたら、こんな! わ、わけのわからない、異世界へ放り込まれてぇっ! わあああああああん!!!』


 己で、行動する判断も出来ぬ幼さ故……

 精神的に追いつめられた? サキは混乱し、大声で泣きだしてしまったのであった。

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