第7話「バトルと誓い」

 ボヌール村の周辺もそうだが……

 この地方の魔物は、オーガ、オーク、ゴブリンがメイン。

 ドラゴンみたいな超大型魔物とか、アンデッドみたいな不気味な死霊タイプが見当たらないのは、まだましである。


「おら、おらぁ!」

「はあっ!」


 クーガーは俺から習得した天界拳の蹴り、クッカは女神時代から能力を引き継いだ水の魔法を使った氷柱飛ばし。


「クッカぁ! あんまり氷柱の先、尖らせて、奴らに穴開けちゃ駄目だよぉ!」

「分かってますって、クーガー! 皮に穴が開くと価値がなくなるから、充分手加減してますよぉ」

 

 ふたりは大声で怒鳴り合いながらも、どんどん敵を倒して行く……

 嫁ふたりだけではなく、俺も負けじと天界拳の『プロレス技』をさく裂させ、人間凶器となり、戦っている。


 今、俺達が相手にしているのはオークの群れである。

 風貌が豚に似た魔物で、身長は約1m~2mくらい。

 数は約50体……

 オーガに比べれば、膂力は劣るが、知能は上。

 人間から奪った武器を使うのは勿論、たまに奇襲や挟み撃ちをするとか、簡単な作戦も立てて戦ったりもする。


 オークは本能が異様に突出した魔物だ。

 特に生殖本能が凄まじく、人間の女性に目がない。

 『女の敵』と呼ばれ、蛇蝎以上に毛嫌いされている外道なのだ。


 それ故、クーガーとクッカも絶対に容赦しない。

 まあ、相手は死ぬまで戦いをやめない魔物だし、俺も割り切って戦える。

 とは言っても、さっきのセリフ通り。

 身体を傷つけないよう、手加減はしている。

 倒した後、解体し、皮をドワーフへ売る為だ。


 ばごぉ!

 ずん!


 クーガーの蹴りが、オークの腹にめり込んだ瞬間、相手は吹っ飛ぶ。

 クッカの氷柱が突進して来たオークを数体、一気になぎ倒す。

 続いて俺も、オークの顔面にパンチ!


 勇者、元魔王、元女神の攻撃は強力。

 あっという間にオークは数を減らし、たった数体に……

 その最後の奴等が奇声をあげ、こっちへ突っ込んで来る。


「旦那様ぁ、任せたぁ」

「お願いしまっす」


「了解っ!!!」


 俺は大きな声で返すと、力を入れ過ぎて相手を破砕しないよう注意し、拳を繰り出したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 今夜の戦いは終わった……

 既に、タイムリミットだから。


 もう時間は午前3時を過ぎている。

 そろそろオベール様の城館へ戻らなければならない。


 倒したオーク共を、さばいている時間はない。

 とりあえず、空間魔法で作った亜空間へ放り込んで行く。

 明日の夜にでも『加工』するつもりだ。


 クッカに聞けば、今夜倒したオークはオーガに比べると価値は落ちるらしい。

 だが、この際贅沢など言わない。

 オークは群れで現れ、女性を容赦なく犯し、むさぼり喰う魔物。

 倒すべき理由が大いにある。

 とはいえ、俺達は奴らの命を奪った。


 だから礼を尽くす。


 これは狩りをする際の精神と一緒。

 魂が抜け、残った身体は、しっかり利用させて貰う。

 それが命に報いる事だと思っている。


 最後のオークを『収納』すると、俺達は3人でハイタッチ。


「旦那様、クーガー、お疲れ様」

「旦那様、クッカ、お疲れ様」


「おお、クッカ、クーガー、ふたりともありがとう」


 俺が、ふたりの労をねぎらうと……


「今夜はいろいろ収穫でしたね」

「うん、クッカの言う通りだね。当初の目的以上に得た物が大きい」


 笑顔を浮かべたクッカとクーガーは、顔を見合わせて、ふたりで再びハイタッチ。


 うん!

 クッカ、クーガーの言う通りだ。

 アンテナショップの資金集め、エモシオンの治安の為という目的以外にも今後に向けて、プラスとなった。


 まず、エモシオン周辺の地形の把握が出来た。

 広大なオベール様の領地を全て巡るのは、今夜だけでは不可能だが、空から眺めて大まかに雰囲気は掴んだ。


 更に、俺達3人の戦闘訓練も出来た。

 考えてみれば、こうやって本格的に3人で戦ったのは初めてかもしれない。

 クッカはリゼットと共に、村で内側から守ってくれていたから。

 外で主に戦うのは俺とクーガー、そしてレベッカだもの。


 しかし、さすがは元女神。

 元魔王のクーガーと共に、やはり能力は抜きんでている。

 冒険者で言えば、ふたり共、軽くランクAくらいはクリア出来ると思う。

 

 え?

 何故、分かるかって?

 

 女神のヴァルヴァラ様が招いた異世界とは言え、俺、冒険者ギルドで一応試験を受けたからね。


「ねぇ、私達って……この世界では異分子ですよね」


 クッカが、いきなり尋ねて来た。

 自分が人間として力を発揮して、改めて実感したらしい。

 女神の時には分からなかった感覚なのだろう。

 表情が……少し暗い。


 俺が答えようとしたら、先にクーガーが返す。


「だね! レベッカやミシェルは確かに強いけど……普通に強いレベルだから」


 クーガーの答えに、敢えて返さず、クッカは言う。


「ねぇ、旦那様、クーガー、……タバサやレオからは私達みたいな、力の波動を感じません。身体能力はいくぶん優れているかもと思いますが、特別な力を感じないのです」


 クッカの疑問というか、突きつけられた厳しい現実に基づいた悩み……

 言いたい事は、俺にも理解出来る。

 そしてクーガーも、


「ああ、クッカ、それ分かるよ。私達の特別な『力』を『継ぐ者』は居ないかもしれない、って事でしょう?」


「うん……」


「仕方がないよ。私達自体がイレギュラー、特別な存在なんだから」


「でも……それじゃあ」


「言いたい事も分かるよ、クッカ。今ある平和で幸せな暮らしが……私達が居なくなったら保てなくなって、壊れるかも、って事でしょう?」


「ええ、旦那様や私達の力がなくなったら……ボヌール村は元の村に戻ってしまうかもって……子供達が心配です」


 それって……

 以前、テレーズが居た時、話した内容だ。

 

 確かに、クッカの不安は分かる。


 だが……

 これから、先の事など分からない。

 未来が見えない俺達は、今やれる事をやるしかない。

 そして子供達の為に、少しでも良い環境を作ってやるしかない。


 俺達が「去った」後は……子供達へ託す、彼等、彼女達に一切を任せるのだ。


「クッカ、この前クーガー達とも話したけど……俺達は今やれる最大の事、ベストを尽くすしかない。後は……子供達の問題さ」


「そうだよ、クッカ。旦那様の言う通り……アンテナショップの事だって、そうじゃない? だから今を頑張ろう、精一杯」


「今を……精一杯か、……ですね! 分かりました!」


 クッカの表情に『明るさ』が戻って来た。

 笑顔も、強い決意と共に……


 俺達は、またもや「グー」でハイタッチをし、未来を託す誓いを立てたのであった。

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