第8話「サプライズ」

 一体、何だろうか?

 もうひとつ面白い話をやるって?

 ……当然、別の話って事だろうけど……


 敢えて心の中を読まない俺が見守る中で、嫁ズは「てきぱき」と準備を進めて行く。

 とはいっても……

 俺が今迄使っていた『靴を履いた猫』の紙芝居絵を、何か違う演目に差し替えただけ。

 

 村民だけではなく、俺にも絵柄が見えないように隠している。

 

 そして、改めて念押し。

 俺に対しては、参加せず見物に徹するように告げたのである。

 自分だけ『のけ者』にされたみたいで、ちょっとだけ寂しいけれど……

 ここは、嫁ズを信じて任せてみよう。


 どうやら、今迄の俺の代わりに、進行役をリゼットがやるみたい。

 他の嫁ズが随時、リゼットと掛け合いをするようだ。


 カン! カン! カ~ン!

 今度はリゼットが拍子木を鋭く打ち鳴らす。


「さあ、始まりますよ~。みなさ~ん、はい、注目~。タイトルはふるさと勇者様の魔王退治でぇ~っす」


 な?

 何?

 ふるさと勇者様ぁ!?

 ま、魔王退治って、何ぃ!?


 想定外のタイトルを聞き、俺は吃驚してしまう。

 嫁ズったら、一体どういうつもりなんだろう?


 しかし、リゼットの口上は止まらない。

 ますます滑らかになって来る。


「むかし、むか~し、地上からとお~く離れた天界にぃ、少年の勇者様とぉ、若い女神様がぁ、住んでいましたぁ」


 おいおいおいおい!

 やっぱり、まずくないかぁ、これ?


 俺の冒険譚は、天界の秘密が相当絡んでいる。

 むやみに言いふらして、良いわけがない。

 下手をすれば天罰が下ってしまう。

 と危惧したら、俺の心配を察して、クッカが念話で呼び掛けて来る。


『大丈夫ですよ、旦那様。管理神様には内容をお伝えして、許可を頂きました。ある程度、脚色するなら村民に教えても問題ないよ~んって』


『ある程度の脚色? ああ……そう……なの?』


『ええ、これからやるお話を、村民が聞いても絶対に大丈夫。だからとりあえず、私達が演ずるふるさと勇者を見て聞いて下さいっ』


『う、うん、了解!』


 というわけで、何と次の紙芝居のモデルは俺。

 少なくともクッカとクーガーくらいは出演するのだろう。

 何せ『ふるさと勇者の魔王退治』というタイトルなのだから。


 俺とクッカが会話をしている間も、リゼットによる、『ふるさと勇者』の口上は続いて行く。


「勇者様と女神様が住むぅ、天界は平和でしたぁ。しか~しっ!」


 どんどんどん!


 おお、リゼット。

 太鼓を叩くのも、凄く様になっている。

 俺以上……かもしれない。


「何とぉ! 地上は平和ではありませんでしたぁ! たくさんの魔物を率いる、怖ろし~い顔をした魔王が出現していたので~っす」


 ここでクッカが、ボケをかました。


「怖ろしい顔? リゼット、それってクーガーくらい?」


 リゼットもしれっと、お澄まし顔で肯定。


「は~い、クッカ姉、そうでっす」


 こうなるとお約束で、クーガー激怒。


「このぉ、クッカぁ! リゼットぉ! 誰が魔王じゃあ」


「あはははははっ」

「わぁ、ドラゴンママってまおうだぁ」

「うん! なっとく~」

「おこったかお、そっくりぃ」


 お澄まし笑顔のクッカ&リゼットと、青筋立てて怒ったクーガーの掛け合いを見たお子様軍団が、お腹を抱えて大笑い。


「くうううう」


 クーガーは、悔しがって犬のように唸っている。

 さすがに、クーガーの息子レオだけはしかめっ面であったが。

 でもクーガーは俺に顔を向けると、ぺろりと舌を出す。

 何だ、良かった、お約束通りって奴か。


「天界の神様はぁ、人々が幸せに暮らせる~、地上の平和を願いました~っ。そこでぇ、勇者様と女神様に命じま~すっ。よいか~、勇者と女神よぉ、怖い魔王を倒し、地上を平和にしなさい~」


 どんどんどん!


「目立たないよう、普通の人間にぃ、へんし~んした勇者様と女神様はぁ、地上に降り立ちましたぁ! やったねぇ~」


 どんどんどん!


「きゃあああっ!」


 いきなり悲鳴をあげるリゼット。

 おいおい、どうしたの?って思ったら。

 これ、演技……だった。


「病気のおばあちゃんの為にぃ、森へ薬草を取りに行った心優し~い村の少女! ああ、突如ぉ、ゴブリンが現れたぁ。このままじゃあ食べられちゃう~よぉ。ああっ! ちょうどぉ、その時ぃ!」


 どんどんどん!


「人間になったぁ勇者様と女神様が現れてぇ、こらぁ、その子に何をするぅ!と言い放ちぃ! ばったばた、ばったばたぁとゴブリンを倒しま~っす! 少女は危ないところで助かったぁ!!!」


 どんどんどん! どんどんど~ん!


 むむ、これって俺とクッカがリゼットを助けた時の再現シーンだ。

 脚色はしてあるけど、さすがに実体験だけあって、真に迫っている。

 当然、ジョエルさん達に対しては、真相は永遠の秘密なんだけど……


「次にぃ、ピンチに陥ったのはぁ、村の美少女狩人! 森で狩りをしていたらぁ、何と! 目の前にオーガが現れたのだぁ~っ」


 どんどんど~ん!


「きゃあああっ! た、助けてぇ!」


 ああ、太鼓が打ち鳴らされる中、悲鳴をあげたのはレベッカだ。

 一生懸命練習したのだろう。

 セリフはちょっち棒読みだけど、怖がる様はこれまた真に迫っている。

 まあ、こちらも実体験だからなぁ。


「しか~しっ! 狩人のピンチに駆け付けた勇者様と女神様は強いっ! オーガなんか、ちょいちょいのちょ~いっと倒してしまったぁ! 狩人も無事、助かったのだぁ」


 どんどんどん! どんどんど~ん!


「だ~がぁ! これで魔王は怒ったぁ、どこかのドラゴンママみたいに、すっごく怒ったぁ!」


 どんどんどん! どんどんど~ん!


「こらぁ、どこの誰が何だってぇ!」


 怒鳴るクーガーに、今度は即座に反応して、大爆笑する村民。


「「「「「あははははっ!!!」」」」」


 嫁ズの熱演もあって……

 『ふるさと勇者様』の演目はとても盛り上がって行ったのである。

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