第20話「男同士の夜①」

 というわけで……今夜は俺とオベロン様、男ふたりだけの飲み会だ。

 

 ちなみに、ふたりとも、夕方から散々飲んでいる。

 だから、これからどれくらい飲めるのか、全然分からないが……

 まあ、成り行きって感じだろう。

 オベロン様の酒の好みも全く分からないので、酒はワイン赤白、エール各種、と一応用意した。


 飲み会の場所は俺の私室だが、隣の部屋には家族が寝ている。

 話の内容によっては、つい興奮して、声が大きくなる可能性もある。

 そんな危惧をする際は、『防音』の魔法が役に立つ。

 実は、たまに女子会の時には嫁ズから頼まれる。

 声や音が漏れないように魔法を掛けといてって。

 ほら、以前に言っていた、嫁ズだけでやってる飲み会の時なんかさ。


 え?

 嫁ズが何を話しているか、お前、気にならないかって?

 いいじゃない、内緒話のひとつやふたつ。

 嫁ズだって、たまには俺や子供達から解放されたいと思うだろう。

 女性オンリーでの息抜きって、絶対に必要だもの。


 閑話休題。


 お好きなものをどうぞって、勧めたら……

 オベロン様は、迷わず冷えた白ワインを選ぶ。

 俺が水属性魔法でキンキンに冷やしたものだ。

 じゃあ、俺もって同じ白ワインにする。


 ふと見れば……


 凄く粋に、白ワインの入ったマグを片手に持つ、オベロン様がヤバイ。

 うん! クールでカッコイイ、そしてダンディ!

 まるで、オシャレ系オヤジ雑誌から抜け出たよう。 

 結構、羨ましい。

 まあ、良いや。

 『持たざる者』は、今迄通り、地道に堅実に生きますから。


 と、いう事で早速、


「乾杯」


「乾杯!」


 カチン!


 俺とオベロン様、マグを合わせて乾いた音が、深夜の室内に響く。

 そして、オベロン様は美味そうに、ワインをひと口含むと、


「……改めて言おう、ケン、いろいろとありがとう!」


 お礼を言うオベロン様、ホント、嬉しそうに笑ってる。

 ああ、感謝の言葉と笑顔って、誰をも幸せにする万能薬だ。


 なので、俺も釣られて、笑顔になる。


「いえいえ、とんでもない。まあ、こんな俺が言うのはおこがましいですが……おふたりは似合いのご夫婦です。末永く幸せに暮らして下さい」


 そう振ると、まるで打てば響くように、オベロン様から返事が戻る。


「分かった!」


 そしてまた、ワインをぐいっと飲む。


 ああ、もう凄い量を飲んでいる筈なのに酒が進む……

 俺とオベロン様、ふたりとも、ワインを3杯あっという間に「きゅっ」と飲んだ。


「ケン、美味いな、このワイン……さぞや良い値がするのだろう?」


「いえいえ、申し訳ないですが手頃な普及品です。でもウチの嫁が宿のお客さん用に選んだだけあって、結構美味いんですよ」


 そんなこんなで、またふたりは飲む。

 やがて頃合いと見たのか、オベロン様が話を切り出して来る。


「ケン、ちょっと良いか? ……とても気になっている事があるのだが」


「何でしょう?」


「他でもない……お前は私へ、行状を改めろ! ……とは言わないのだな?」


 ああ、オベロン様へ浮気するなって、俺が説教する事か……

 テレーズが可愛いなら、他の女なんかに目を向けるなとか?

 ……いや、そんな事、俺は言わない。


「いえ、この俺にオベロン様を、とやかく言う資格なんてありませんから」


「資格って? お前の家庭が……一夫多妻制だからか?」


「ええ、そうです」


 俺が言うと、オベロン様は眉間に皺を寄せる。

 何か、悔しそうな雰囲気だ。


「ううむ……私は、お前との不可思議な違いを感じる。見た目、やっている事は同じなのに……お前は大勢の妻達から愛されて、喧嘩も全くしない。片や私は……たったひとりの妻に酷く怒られ家出される……この差は一体、何なんだ?」


「う~ん、そう言われても俺には分かりませんし、何とも言えません」


「そうか……」


「ただ……」


 俺が言い掛けると、オベロン様ったら、


「ただ? ケン! た、ただ、何だ?」


 凄い喰い付き方だ……まあ、これから言うのは答えじゃないけれど、


「ええ、オベロン様、今回の件がきっかけで、貴方が奥様の素晴らしい価値を再発見出来たのと、ちゃんと向き合うきっかけになったから良かったのでは?」


 当たり前の幸せって、何か特別な事がないと再認識出来ない。

 それが、愛する人の存在なのも良くある事。

 相手のありがたみを再認識して、今迄ぎくしゃくしていた関係が、好転の兆しを見せる。

 オベロン様が、自分を省みる事が出来たのが、今回一番良かった事だと思う。


 俺の話に、漸くオベロン様も納得したみたい。 

 何度も頷いている。


「……確かにそうだ。うん、とりあえず我が妻と向き合い、理解し、もっともっと慈しむ……ケン、それで良いな?」


「ええ、そうです。そう思って、ひたすら精進して下さい」


 本当はこんな決意なんて、他人に同意を求める事じゃあないけど……

 乗りかかった船だし、俺はテレーズの父もしくは兄という立場。

 なので、しっかりフォローしてやろう。

 とりあえずここからは、話題をさりげなく変えるのがベストだろう。


 俺は俺で、結構気になっていた事を、オベロン様へ聞いてみたのである。

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