第17話「お子様軍団の反乱」

 翌朝……


 どこの世界でも朝がバタバタなのは一緒だろうが、ここ異世界のユウキ家も、いつもと同様に慌ただしい。

 しかし、今朝は微妙に雰囲気が違っていた。


 それは……

 今日は、いよいよテレーズが、このボヌール村を去る日だから。

 昨日、東の森奥の湖から戻った後、リゼットを始めとした留守番組の嫁ズには経緯いきさつを話した。


 夫のオベロン様が現れた事、そして妻のテレーズを迎えに来る事を……

 

 嫁ズは全員、テレーズが村を去る事を残念がり、悲しんだ。

 中でも、一番辛そうだったのは、案の定ソフィとグレース。

 『メイン担当』として、付きっ切りでテレーズの世話をしていたから。

 

 しかし!

 同時に、凄く喜んでもいる。

 テレーズが、改心した夫のオベロン様と仲直り出来そうだから。

 壊れていた夫婦関係が、修復されるのを祝ってもいた。


 なので 別離への悲しみ、テレーズに訪れる幸福に対する喜び、両方の意味でソフィとグレースは涙ぐんだ。

 そんなソフィとグレースを見たテレーズは……

 やはり同じ感情を共有し……泣いてしまった。


 一方、お子様軍団には、まだ何も言っていない。

 だからいつもと一緒で、皆、嬉しそうにはしゃいでいる。

 

 テレーズは、今やお子様軍団に大人気。

 子供達にしてみれば、テレーズは大切な『姉』となっているからだ。


 来た当初は、結構距離を置いていたものの……

 子供達とテレーズはすぐ親しくなった。

 仕事の手伝いは勿論、一緒に遊んだのが大きい。


 結果、最近は何かと頼りにするし、とても甘えている。

 秘密の内緒話も、い~っぱいしているらしい。

 大好きなパパやママとは、また『違った存在』なのだろう。


 これまで暮らして来て、テレーズは俺と嫁ズへ、いろいろ身の上話もしてくれた。

 聞けば、テレーズはひとりっ子で生まれた。

 両親も既に居ない……

 またオベロン様との間には、子供が居ないという。

 なので、父母、姉、兄、そして弟と妹、または自分の子供が一度に出来るという素晴らしい体験をしていたのである。


 さて、

 オベロン様が今日の何時に村へ来るのか、はっきりした約束はしていない。

 時間はともかく、村外から馬車か何かで迎えに来るという図式だろう。

 だから家族以外の村民には、オベロン様が来た時に、『別離』を報せれば良いと思っている。


 ……問題は、お子様軍団だ。

 どうやら同じ事を考えたらしく、クッカがそっと耳打ちして来る。


「ねぇ、旦那様」


「何?」


「タバサ達には事前に言っておいた方が……ぎりぎりで言うのは良くないと思いますよ」


 俺とクッカの子、タバサは子供達の中でも特に、テレーズに懐いていた。

 タバサは、一番最初に生まれた長女。

 今迄は、子供達の中できりっとして、真面目な『けん引役』として頑張って来た。

 それがいきなり年上の『お姉ちゃん』が出来てしまった。

 

 最初は戸惑ったものの、すぐにテレーズを『頼り』にするようになった。

 俺や嫁ズへ見せる表情とはまた違う、親し気な表情をテレーズへ向ける。

 テレーズを身近な姉として、自分の事をいろいろと相談したり……

 実は俺達に見えないところで、「でれっ」と甘えたりしているらしいのだ。


 他の子供達も例外ではない。

 レオとイーサンもテレーズの前では甘えん坊。

 イーサンは元々そんな部分もあったが、レオは意外。

 レオは母親のクーガー似で、硬派な男の子。

 それが、テレーズに対しては全然デレているのだ。


 こうして、テレーズとお子様軍団の間にはしっかりした家族の絆が出来ている。 だから、クッカの案ずる事は、俺にも良く分かる。


「だよなぁ……」


「旦那様、私達から言いましょうか?」


「いや、任せてくれ。こういうのは俺の役目さ。リゼット達にも了解を得て、朝飯が終わったら伝えよう」


「……お願いします」


 俺はクッカに頷くと……

 リゼットを含めた嫁ズにも急ぎ『念話』で話を入れ、子供達へ話す事にしたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 朝食後……


 俺はテレーズが「自分の家へ帰る」と発表した。

 あくまでもさりげなく、理由なし、余計な言葉も抜きで淡々と。

 お子様軍団の反応はというと……予想通りであった。


 一瞬の静けさ……そして……


「えええっ!? うそでしょ!」

「しんじられないっ!」

「そうだ、おれ、しんじない」

「パパ、なにいってんだよ!」


「いやだぁ~!」

「おね~ちゃ~ん!」

「だめ~!」


 吹き荒ぶ、絶叫の嵐!


「おいおい、仕方がないだろう? テレーズお姉ちゃんのパパが迎えに来るんだから」


 仕方なく、俺が理由を話したら……


「そんなこという、パパきら~い! だいきら~いっ!」

「ぼくが、テレーズおねぇちゃんのパパに、つれてくの、だめっていう~!」

「ゆるさな~い!」

「いやいやいやぁ!」

「ぎゃあ~ん!」


 今迄で一番の拒否反応かもしれない。

 何故ならば……


「こらぁ! パパの言う事聞かないと、ドラゴンママがお仕置きだよっ」


 お子様軍団から、一番恐れられているクーガーが凄んでも……


「クーガーママ、それっておこるのちがうわ」

「そうそう、おかしいよ」

「ママ、ぼくは、おしおきされない、わるいことしてない、ママとたたかう」

「ぼくも、レオといっしょにたたかう」


「ドラゴンママ、こわくない、だいじょぶ!」

「テレーズおねえちゃんにも、まもってもらうも~ん」

「ぎゃあ~ん!」


「ねぇ、ねぇ、みんな、そんな事言わないで、パパの言う事聞こうよ、ねぇ」


 逆に、一番人気のグレースママが諭しても……


「いくらグレースママでも、いうことなんかきけないわ!」

「そうそう、タバサねぇのいうとおり」

「どうしてそんなこというの、グレースママ」

「ボクもレオとおなじだよ」


「グレースママ、パパのみかた、だめ!」

「きょうのグレースママ、やさしくな~い! きらいっ!」

「ぎゃあ~ん!」


 散々逆襲を喰らって落ち込み、ショックで涙ぐむグレース。

 俺と他の嫁ズに「よしよし」と慰めて貰う……

 

 グレースママの『神通力』が、きかなかったのは初めて。

 まあそれだけ、テレーズがお子様軍団から好かれていたって事だ……

 

 ちょっと早過ぎる感もあるが、これが第一次反抗期って奴か?

 まあ、成長の一端だと思い、喜ぼう。


 一方、ソフィ達の時と同様に子供達の反応を見て、やはり涙ぐんでいたテレーズであったが……

 このままでは、やっぱりまずいと思ったらしい。

 

 慌てて涙を拭き、『荒ぶるお子様軍団』の説得にあたったのである。

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