第7話「テレーズの告白」

 嫁ズの鋭い洞察力に感服し、覚悟を決めたテレーズは、遂に身の上話を始めた。

 

 しかし、相変わらず、リゼットとサシでの会話状態である。

 こうなると脇から余計な物言いはせず、ふたりに任せた方が良い。

 と、いうことで俺達は完全にオブザーバーだ。


「リゼットさんの言う通りよ……実は私、家出して来たの。夫へ手紙を置いて、探さないでって……」


 おお、テレーズは結婚していたのか!

 そして家出……う~む。


 リゼット達、嫁ズの推測はほぼ当たっていたようだ。

 だんだん話が、核心へと入って行く。


 それに、リゼットは昔から超が付く聞き上手。

 爽やかな笑顔と涼やかな声で、相手の心の扉を優しくノックし、あっさり開く。

 さすがとしか言いようがない。


「家出? それは、大変だったわね。貴女はご結婚されているの?」


「そう、私は既婚者、夫がいます。だけど……その夫が女にだらしなくて……何度も何度も浮気ばっかり……だから私、どうにかして仕返ししようと思ったの」


「仕返し?」


「ええ、家出してどこかへ行こうかと思った、夫を心配させようとしてね。でも……私には行く当てもない」


「ふうん、成る程ね」


「やみくもに家を出ても野垂れ死にするだけだし……そのまま家に居ても出来る、具体的な仕返しの方法も全く浮かばない……国から一歩も出た事がない、箱入りの私にはどうして良いか分からなかった」


「な、成る程……」


 ふむ、原因は旦那さんの浮気か?

 それで、それで~、テレーズはどうなった?

 まあ、そこから先の展開は……読めるけれど。


 俺の心の声が聞こえたかのように、テレーズはまた話し始める。


「日々悩んでいたある夜、私は夢を見たの。夢においでになった管理神様の神託を受けたのよ」


「神託?」


「そう、難解ではなく、とても具体的な話だった。今私が居る世界と違う世界へ行け、そこには人間の住む村があって、強く頼れる人が居て、暮らしはこうだって……」 


 やっぱり出たぁ!

 管理神様。

 でも、妖精の相手に何で『俺』なんか指名するんだろう?

 まあ……良いや、細かい事は。


 リゼットも俺同様、納得して確認する。


「神様から教えて頂いた、それが私達のボヌール村で、貴女が頼る人は旦那様だったってわけね」


「ええ、そうなの。人間の世界へ行って生活するなんて吃驚したけれど……覚悟を決めていたから、思い切れた。だから大抵の事には我慢出来ると思った。でも暮らしだけは……とんでもないと思ったわ」


「ボヌール村の暮らしが……今迄の、貴女の暮らしに比べて貧しいから?」


「いいえ、違うわ。ケンひとりに対して、貴女達妻が8人も居るから……一夫多妻制って奴よ」


「一夫多妻制……」


「そうよ! ただでさえ浮気癖のある夫に耐えられないのに、何故真逆な一夫多妻制の暮らしの中へ飛び込まなくてはいけないの? 男に都合の良い世界へなんか行きたくないって、そう思った私は管理神様へお尋ねしたわ、他に選択肢はないのでしょうかって」


 やっぱり……そうだよ。

 そのような考え方の女性なら……絶対嫌だよ、俺の家庭で暮らすなんて。

 今の俺の状態もテレーズから見れば、浮気しまくっているみたいなもの……か。

 

 今更だが、俺達大家族は、一夫多妻制により成立している。

 まず深い愛はあるけれど、国の制度ありきで嫁ズが割り切ってくれている部分も大きいだろうと俺は確信している。

 そうでなければテレーズの見立て通り、俺の今している事って、正妻のリゼット以外は全て浮気と不倫のオンパレードだから。

 

 そんな事を、俺がつらつら考えていたら、リゼットは話を進めたかったらしい。

 テレーズへ、答えを催促する。


「そ、それで? 神様は何と仰ったのですか?」


「他の選択肢なんて、全然ないよ~んって、大笑いされたの」


「へ? な、な、ないよ~んって? …………」


 答えを聞いたリゼット、思わず絶句。

 管理神様の、ウルトララ~イトなノリに……

 俺はもう慣れているから、「ああ、やっぱりな」だけど。


「ええ、確かにそう仰ったわ。そしてボヌール村での暮らしはきっとお前の為になる。ケン達と暮らせば全てが上手く行く……そう断言された」


「…………」


「そこまで管理神様が仰るのなら、私はもう引き下がるしかない。他に道はなかったし……」


「そうか、分かった……それで貴女は『子供の姿』でこの世界へ来たのね」


 やはり、リゼットは鋭い。

 今のテレーズの姿にピンと来たようだ。


 テレーズも、笑って頷く。


「ええ、その通り。だから魔法で変身した。『女』ではなく『子供』でなら……貴女達の家族として暮らす事が……何とか、耐えられると思った……」


「はぁ……何とか耐えられるって……何よ、もう! そこまで嫌なら……無理にこの村へ来なくても良いわよ」


 リゼットは呆れたように言い、苦笑した。

 まあ、本気では怒っていない。


 でもテレーズは、さすがに失言だと思ったらしい。


「ご、御免なさい! でももう大丈夫、安心したわ」


「大丈夫? 安心?」


「ええ、ケンに会っていろいろ話したけれど……父として兄として接してくれるのが心地良い。そして一番心配していた『夫ひとりに妻8人』だけど……さっきまで見ていたら貴女達はきちんとしていたし、何より『温かい』……から」


「きちんと? 温かい?」


「うん! きちんとしていた、決してふしだらじゃない! 妻達の間には暗黙の序列があるのは確かだけど……全員凄く仲が良くてお互いに尊重もしている。子供達も自分の母親だけじゃない、他の妻にも懐いている……そして! とっても温かい雰囲気の家庭だから……」


 ああ、実際に我が家へ来て、そう感じてくれたのか。

 結構嬉しいかもしれない、俺。


 テレーズの気持ちを裏付けるように、リゼットが言う。


「それは旦那様を中心に全員がまとまっているから……子供達も実の母親だけではなく全員で育てている。毎日の仕事はきついし、生活は大変だけど……楽しいし、幸せよ」


「ええ、私も幸せになりたい! ぜひ仲間のひとりにしてくれる? 一生懸命頑張るから」 


「分かったわ。貴女は良い人だし、神様からのお願いだものね。喜んで引き受けます」


「ありがとう!」


 会話を聞いていた俺は勿論、クッカ、クーガー、レベッカ、ミシェルも頷く。

 他の嫁ズにはきちんと説明し、お子様軍団へは「違う家のお姉ちゃんだよ」と言えば問題ないだろう。


 こうして……

 妖精美少女テレーズは、人間の女の子として、俺達の新しい仲間として……

 暫くの間、ボヌール村へ住む事になったのである。

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