第15話「逞しき美少女」

 手放されていた俺の意識が戻った。

 気が付いたら、俺は街道らしき場所に立っている。


 燦々さんさんと太陽の光が降り注ぐ快晴の空の下、北へ真っすぐに伸びる石畳。

 目の前には……

 ひとりの人間族の少女がすっくと立っている。

 濃紺の頑丈そうな革鎧を身に纏い、真っ赤な鞘に納められたショートソードを提げていた。


 成る程……

 この子が、ヴァルヴァラ様の言っていた幼馴染み役の女の子か。

 あのフレデリカを遥かに超える美少女?

 …………う~ん、そうと言えばそうだし、違うと言えば違う。

 だって目の前の少女は、可愛い妹タイプのフレデリカと全く違うタイプだから。


 どちらが美人か? の判断はいわゆる好みって奴だろう。


 ぱっと見、年齢は20歳少し前……18歳くらいだろうか。

 身長は結構高い。

 180㎝近くあり、今の俺とほぼ一緒。

 ただ身体は俺よりも鍛えている雰囲気で、二の腕なんか「むきっ」と逞しい。

 おっぱいも相当で「どん」と挑発的に突き出ていた。


 ウェーブのかかった豊かな金髪が風になびく。

 鼻筋が通った美しい顔立ちで、きりりと引き締っている口元が凛々しい。

 ダークブルーの瞳がじっと俺を見つめている。


 ひと言!

 この子は男装の麗人——そういうタイプ。

 但し、俺はこんなタイプも嫌いじゃない。


 そんな感じでじっくり観察していたら、彼女が口を開く。


「ふん! お前がケンか? 私が勇者になる為、手助けをする役目を負って送られた異世界の勇者だな?」


 おお、活舌かつぜつが良い。

 歯切れが良く朗々と響く台詞セリフは、女子が大好きな某有名劇団の役者みたいな雰囲気。

 そして声は、学園ドラマの「きりっ」とした委員長風爽やか系の声優みたい。


 まるでコミックキャラが、そのまま現実世界へ現れたみたいな子。

 感動して、思わず噛んでしまう俺。


「そ、そうだよ」


『麗人』は俺を頭のてっぺんから足のつま先まで見た後、納得したように頷く。


「ふむ……確かにヴァルヴァラ様から神託があった。では簡単な自己紹介をしたらさっさと行くぞ、悠長に話しているのは性に合わん」


 おお、結構せっかちなタイプなのか。

 じゃあ、にやにやは厳禁。

 生返事やだらだら態度も嫌われる。

 元気良く、打てば響いて即行動を心がけよう。


 俺は真面目な顔をして、しっかり挨拶。


「分かった、改めて挨拶しよう。俺はケン・ユウキ、宜しくな」


「うむ、私はジュリエットだ。期待しているからな、絶対に裏切るなよ」


 ふ~ん

 この子の名はジュリエットっていうんだ……

 確かに美人だけど、何か超が付くほど気が強そうな子だ。

 もしかしたらクーガーに匹敵するかも。

 「裏切るな」とは、期待だけじゃなく仲間としての信義をという意味もあるのだろう。


 俺はついスキルを発動して、ジュリエットのレベルを見た。

 うん、この子は昨夜のフレデリカと同じ50くらい。

 と、なれば結構な実力者だ。

 

 大抵の魔物には負けない。

 みなぎる自信も、そこから来るのだろう。

 でも……今迄どこで、どうやって、誰と修行したんだろう?


 ふとそんな事を考えていたら、ジュリエットは俺に出発を促す。


「さあ、行くぞ。王都まではもうすぐだからな。何か不明な点があったら、歩きながらの質問を許可する、但し簡潔に願いたい」


「りょ、了解!」


 こうして俺は、麗人ジュリエットと共に王都へ赴く事になったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 道すがらジュリエットに聞いたところ……

 今、俺達が居る場所はヴァレンタイン王国王都セントヘレナまで歩いて2時間くらいだという。

 最初はしかめっ面で、とっつきにくそうな雰囲気だと思ったジュリエット。

 話して行くうちに、竹を割ったようなさっぱりした性格だと分かり、結構打ち解けた。


 話題の中心は、やはりジュリエットが目指す誉れ高き勇者に関して。

 彼女によれば、まずは王都の冒険者ギルドで上位ランカーとなるのが目標だという。

 そして評判を聞きつけた王様から呼び出されるというパターンを狙うらしい。


 ジュリエットが実績を積む為のサポート役がこの俺。

 

 了解、ミッションは完全に理解致しました。

 俺はジュリエット様の為に全力を尽くしま~す。


 なんて思い切りふざけて言ったら、怖い目で睨まれた。

 ちゃんと真面目にやれと。


 話していて分かるが、やはりジュリエットの基本的な性格はクーガーに酷似。

 はっきり言えばクーガーを究極の真面目キャラにしたらジュリエットになる。

 普段クーガーと話している俺は、ジュリエットとうまく話すコツを分かっていたのだ。


 話しているうちに思う。

 表向きジュリエットは凄く美人で魅力的な少女なのだが、あまり『女』を感じさせない。

 女として見れない……なんて言えば確実に殺されるから言わないが……

 さっぱりした同性の『親友』という感じだ。

 良くいるでしょ、そんなタイプの子。

 彼女の綺麗な顔と迫力のあり過ぎる胸を見れば、それはやはり錯覚だと現実に引き戻されるが……


 自分の事をいろいろ話してくれたジュリエットであったが、出自に関しては決して教えてくれなかった。

 あまりしつこく聞くと怒りそうなので、俺も深追いはしない。


 でもズルイぞ。

 何故ならば、逆に俺の家族構成や現在の暮らし振りを根掘り葉掘り聞いて来たモノ。

 特にクッカの事を念入りに聞かれた

 ……不思議な事に何となく羨ましそうだ。

 ……まあ、良いけどさ。


 と、その時。

 俺の索敵に反応があった!


 距離はこの先約1㎞。

 荒々しい気配が伝わって来る。

 これは魔物数十体、……結構なオークの群れだ。

 片や襲われているのは馬車が含まれた5,6名の集団。


 これは……

 そうか!

 間違いない!

 どこかの商人か旅人が、奴等に襲われているのだ。


「ジュリエット! 行くぞ」


 俺が声を掛けたら、ジュリエットも敵を察知していたみたい。

 爽やか笑顔で返して来る。


「おう! 早速、私の勇者としての初仕事だな」


 俺とジュリエットは顔を見合わせ頷くと、街道を全速で走り出したのであった。

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