第14話「ヴァルヴァラ様の依頼」
昨夜、ケルトゥリ様への借りを無事に返した俺。
それどころか、アールヴ美少女フレデリカの深い愛も受け止めた。
今夜は、戦いの女神ヴァルヴァラ様の為に働かなくてはいけない。
アールヴの国へ送られて、女神様へ借りを返すという『勝手』は分かったので、しっかり心構えをして寝る事にした。
多分同じようなパターンが予想されるから。
え?
嫁ズへは、夢の世界で妹チックなアールヴ美少女とイチャしたとか言ったのかって?
いや! 当然……内緒です。
だって、考えてもみて下さい。
伝えて良い事など一切ないもの。
第一に話がすっごく長~くなる。
きっかけとなった女神様の話をしても、あまりにも突飛過ぎてクッカもしくはクーガー以外は信じて貰えない。
それにこの世界の女性は信心深いから、下手な言い方をしたら俺が女神を冒とくしたとかになりかねない。
嘘をつかず夢の内容を正直に言っても、日頃の欲求不満から淫夢を見たと決めつけられるのは確実。
何よ? 私達とのエッチじゃあ不満なの? と責められる。
挙句の果てに「危ないロリエッチな夢見てるんじゃないわよ」とか、言われるのは勘弁だから。
で、速攻で「ぐうぐうっ」と眠りに落ちた瞬間。
気が付けば、あの何もない真っ白な異界に俺は立っていたのである。
見れば今夜の俺の出で立ちは、派手な鋲を打った真っ黒な革鎧に、腰から提げられているのは例の剣。
この剣は、やっぱり型が同じで色と素材違い。
ヴァルヴァラ様が捧げていた銀色の魔法剣である。
そして、やっぱり出て来ました、ヴァルヴァラ様。
「ぐわっ」と目の前に仁王様みたいな雰囲気で、がっつり腕組みをして立っている。
改めて見て分かった。
俺も見上げる身長は、190㎝を軽くオーバー。
ムキムキ筋肉が凄い。
ああ、ごっつくて目が痛くなる。
でも髪は綺麗な赤毛。
さっぱりした短髪が『男前』でカッコ良い。
改めて顔を見直してもダークブラウンの綺麗な瞳を持つ、野性的な凛々しい美人である。
俺が美人だと思ったのが伝わったのか、ヴァルヴァラ様はご機嫌だ。
「ふふ、良く来たな、ケン」
「ヴァルヴァラ様、今夜は宜しくお願いしまっす」
俺が元気よく返事をすると、「お?」という表情をする。
「ん? ケルトゥリとの昨夜の経験が生きているのか? やけに前向きだな」
「ノーコメントでっす」
「カッコつけるな、馬鹿者! このスケベが! 私はちゃんと見ていたぞ」
「え?」
ちゃんと?
ちゃんと見ていたって、いやだ、エッチ!
「馬鹿! 何がエッチだ! お前こそ、あのアールヴ少女にしつこくキスばかりしていただろう?」
「…………」
ああ、やっぱり嫁ズに言わなくて良かったぁ!
絶対こんなふうに、こっぴどく怒られてた。
目の前のヴァルヴァラ様が、いつの間にかウチの嫁ズ、姉御タイプのクーガーか、レベッカに見えて来る。
でもちょっち反論。
フレデリカは健気で愛らしい最高の『妹』……だったから。
俺からしつこくキスをしたんじゃない。
あっちから、せがまれたんだも~ん。
「だって、超可愛いし、お兄ちゃわんって、すっごく甘えて来るからつい、ちゅっと」
「ふざけるな! 言い訳するな! ……と言いたいが、お前はケルトゥリの役に立った。良くやったと思う」
「ホントですか?」
「うむ、本当だ。私の方もこれからしっかりと働いて返して貰うが、昨夜以上に頑張ってくれよ」
「了解! と元気よくご返事したいのですが……いきなりわけが分からず放り出されるのは勘弁です。出来れば事前の説明をお願いします」
「ふむ、説明か? まあ……良いだろう」
ヴァルヴァラ様との会話が何かどこかのコンビみたいな、漫才の掛け合いのようになってしまったが……
苦笑したヴァルヴァラ様は渋々、レクチャーしてくれる事になった。
コホンと咳払いしたヴァルヴァラ様は、おもむろに話し始める。
「基本的には昨夜と一緒だ。これからお前が行く世界は、今居る世界と時間軸が若干違う良く似た異世界だから」
「成る程、レベル99とスキルも持ち込みOKですね」
「ああ、持ち込みOKだ。異世界へ送られたお前は、ヴァレンタイン王国王都を目標に旅をしているひとりの少女に出会う」
「少女?」
「ああ、喜べ! 凄く可愛い美少女だ。昨夜のアールヴなど比べ物にならん」
「ほうほう」
「その子はな、王都で誉れ高き女勇者になりたいと願っている。但し全くの他人同士では話が美しくない。お前は幼馴染みと言う触れ込みで同行し、ふたりは王都へ行くのだ」
「成る程! 勇者を目指す幼馴染みの美少女と王都へ……ですか」
「うむ! お前は今夜という限られた時間の中で、彼女の夢を叶えるべく……働け!」
「了解っす……で、装備はこれで、名前は現世と関係ない異世界だからケンのままで行けば良いっすか?」
俺はポーズを取って革鎧をアピールし、提げているシルバーの剣をポンと叩いた。
ヴァルヴァラ様は俺のデモンストレーションを気に入ってくれたみたい。
「うむ! その認識で問題ない。ケルトゥリの時と違って路銀も必要だから用意した……懐を探ってみろ」
路銀?
ああ、旅行用のお金って事か。
ヴァルヴァラ様の言う通り、懐を探ったら財布があった。
中に入っていたのは金貨10枚……
「これが当座の小遣いって事ですね」
「小遣いではない。お前と少女のふたり分の生活費だ。足りない分は依頼を受けて稼げ」
「依頼?」
「そう、依頼だ。お前はこの世界で冒険者をやった事がないのだろう? 少女と一緒に体験してみるが良い」
冒険者?
おお、冒険者か。
そうだよ!
今だから言うけど……
王都で勇者になるのは嫌だが、冒険者ならぜひやりたいって思ったんだ。
「ふふ、顔が輝いているぞ。気合とやる気が満ちて来たようだな……では行って来いっ」
ヴァルヴァラ様が「パチン」と指を鳴らした瞬間。
俺の意識は、またもや手放されたのであった。
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