第14話「どぶ鼠共を退治せよ!」

 翌日午前……


 俺とクーガーは、いかにも悪党面した傭兵達と睨み合っている。

 王都での仕事は終わったが、今度は『ふるさと勇者』としての仕事だ。


 目の前に居るこいつらは、ドラポール伯爵家の馬鹿兄弟テオドールとイジドールが雇った『破壊工作員』である。

 目的はオベール家領地の治安悪化。

 ドラポールの馬鹿兄弟からは「情け容赦なく領民達を殺せ」という極悪な指令が下されていた。

 そんな狂犬共を、絶対に放置など出来ない。

 愚図愚図していたら、こいつらが無差別な殺戮を始めて甚大な被害が出てしまう。

 当然、阻止しなければならない。


 ドラポールの馬鹿兄弟を尋問した時に、雇った傭兵達の素性や年恰好も聞いてある。

 俺とクーガーが、じっくり見直すと人相風体人数……ようし! バッチリ合っていた。


 時間は……少し遡る。


 ヴァネッサを連れて王都からボヌール村自宅へ戻ったら、すぐに夜が明けた。

 俺とクーガーは、クッカを起こして事情を話すと魔法で眠らせたヴァネッサを預けた。

 そして他の嫁ズへの報告役も任せると、急ぎ出張ったのだ。

 

 エモシオンとボヌール村を含むオベール様の領地はそれほど大きくはない。

 だが改めて人の一団を探そうとすると、結構広いものである。

 しかし領民や旅人を襲うのだから、エモシオンの町か、ボヌール村の近く、それも街道沿いに潜むのでは? と予想した俺達の勘はバッチリ当った。


 街道沿いに飛翔して探索したら、2時間も経たないうちにそれらしき集団を発見したのである。

 俺達は空中で転移魔法を使い、眼下にあった雑木林へ現れた。

 丁度、奴等の背後である。

 

 そして……


「おい、お前等! 誰を待っているんだ?」


「おわっ!? あああ、な、何だ!? てめえらは?」


 いきなり声を掛けられた傭兵共は、吃驚して振り返る。

 だが、「何だ?」と、質問を質問で返されても困る。

 

 ちなみに今の俺達は王都の時とはまたまた違う30代の冒険者男女風。

 それでも、エモシオンに入った時とも違う風貌だし、革鎧の色も変えている。

 「後であいつらは誰?」みたいな話になった時に絶対正体が見破られないようにとの用心だ。

 

 当然、どのキャラも俺とクーガーの風貌とは似ても似つかない。

 裏仕事をやる時の俺達は別人物。

 表向きの俺達は平和なボヌール村の地味な住民……それで良い。


「お前等……ドラポールからここで暴れるようにと言われた奴等だろう?」


 多分こいつらで合っているとは思うが、一応確認は必要だ。

 やっつけた後で、「あ、間違えちゃった、ごめんね~!」じゃあ済まないものね。


「ドラポール!? な、な、何故それを!?」


 奴等、雇い主の名をピンポイントで言い当てられて動揺している。

 驚くのも無理もないが、分かり易い。

 本当のプロならば、平然と惚ける筈だ。

 まあ、あの馬鹿兄弟が雇う奴等である。

 こんなものだろう。


 俺の慢心が伝わったのか、クーガーが釘を刺す。


「旦那様、駄目! 獅子は兎を狩るにも全力を尽くすって言うでしょ。まあこいつらは兎みたいに可愛くなくて、小汚いドブネズミだけど」


「おう、了解!」


 クーガーは俺への戒めの声を、わざと大きくしたようだ。

 傭兵どもには筒抜けになり、すかさず罵声が返される。


「何だとぉ、こら!」


「小汚いドブネズミだとぉ! ふざけるな、おい!」


「殺すぞ、てめぇら! こっちは30人だぞ30人!」


 その中でリーダーらしい『またもや髭男』が言い放つ。


「お前等、誰にモノを言っている? 俺達は戦いのプロだ、たかが冒険者風情が舐めるなよ」


 ほぉ、戦いのプロ?

 笑わせるね。


「はぁ、聞こえませんなぁ」


 俺がとぼけると、リーダーは切れた……ようだ。


「……男は殺せ! 女は捕まえて……犯せ」 


「へいっ!」

「行くぜっ!」

「ひゃっは~っ! おんなぁ!」

「おおおおっ!」


 傭兵達が、剣やメイスを抜いて襲い掛かって来た。

 よっし……正当防衛!

 これで心置きなく倒せる!


 ばぐっ!

 どごっ!

 ばきん!


 呆気ない。

 天界拳を極めた俺のパンチで傭兵5、6人が10mくらい吹っ飛ぶ。

 ごろごろと転がって、もう動かない。

 

 多分、即死だろう。

 こんな奴等は、オーガに比べれば全然ぬる~い相手だ。

 これではゴブにも及ばない。


「私も負けないよ~っ」


 クーガーも、俺から教わった天界拳の蹴りを炸裂させて4,5人を纏めてあの世へ送る。

 

 元女魔王の蹴りは強烈!

 すなわち瞬殺!

 俺とクーガーの攻撃で相手はあっと言う間に10人ほど減った。


「うわ!?」

「ひい!」

「ああっ!」


 続いて俺達を襲おうとしていた残りの奴等は、さすがに躊躇ためらった。

 プロだという言葉は、伊達ではない。

 実力の圧倒的な差を、認識するくらいの頭はあるのだ。

 たまりかねた傭兵リーダーが、背後から大声で叫ぶ。


「怯むな! 行け~っ」


 しかし、結果は同じであった。

 瞬殺が繰り返され、またもや人数が減る。

 傭兵共の残りは、もう10人を切った。


 びびるリーダーは最初の威勢はどこへやら、完全に腰が引けていた。

 そして、いきなり叫ぶ。


「ち、畜生! ば、化け物共め! せ、先生、お願いします!」


 先生? お願いします?

 何だ、その時代劇で助っ人(殆どが浪人風)を呼ぶような台詞セリフは?


「ははは、少しは骨のありそうな奴だ。だが私の魔法には勝てんぞ」


 傭兵達の最後方に控えていたのは刀をさした浪人ではなく、法衣ローブを纏う魔法使いらしい中年男。


 魔法使いの男はにやりと笑って、何か魔法を発動させたのであった。

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