第13話「お仕置き」
「起きろよ! おっさん」
時間は、まだ深夜……
俺とクーガー、そして妖精猫ジャンは王都のとある屋敷に居る。
この王都で、まだやる事が残っていたから。
オベール様の従士へ直接指示をした『仲介者』を探し出し、締め上げる事である。
こんな時、ジャンの創り上げた雌猫ネットワークは素晴らしい能力を発揮した。
すぐに謎の仲介者を特定したのだ。
仲介者の正体は表向きは王都では有名な豪商で、裏では汚れ仕事をやっている気障な中年男であった。
ドラポール伯爵家にも、御用商人として出入りしている。
用心深くて裏仕事に関しては滅多に話を持ち掛けない。
加えて、ヴァネッサからも話を聞き全てが判明した。
ヴァネッサは、オベール様がイザベルさんと結婚して幸福になった事に嫉妬&焦燥した。
彼女の愚痴を聞いて、解雇した元従士達を手先に使うように、この男が入れ知恵したのだ。
その対価として、ヴァネッサは結構な金を支払ったらしい。
「何だ、お前達は? ぐわっ!」
俺はいきなり、男の頬を「ぱん」と張った。
軽い音がして、男は仰け反る。
ヴァネッサに同情したように見せかけて、実は金だけが目当て……
こういう奴は、本当にムカつく。
人の弱みに、つけ込む奴なんて最低だ。
だから責任を取って貰い、悪徳息子達の後始末に協力して貰おう。
「偉そうな口を利くんじゃねぇ……この、どぶねずみ野郎が」
「ぐくく……」
苦痛に呻く男を無視して、俺は一方的に言い放つ。
「お前に命じる事がふたつある」
「何……だと」
「まずひとつ! この三人を辺境の地へ兵士として送れ」
俺が指差した先には、ドラポール伯爵家の極悪三兄弟が気を失って倒れていた。
屋敷内で軟禁されていた三男ウジューヌも、兄達同様異界へ放り込んでおいたのだ。
その後、俺達は変身の魔法でこいつら3兄弟を全くの別人に仕立て上げた。
外見、年齢は悉く違うし、記憶は喪失させてある。
その上、出で立ちは冒険者風だ。
「お前は金がない奴と取引して、裏家業で辺境へ赴く志願兵士を募っているのは分かっている。傭兵部隊と結託して随分儲けているようだが、良い金になるんだってな」
ジャンの情報はこの男の身元特定だけでなく、表と裏でやっている事も全て洗い出していた。
さすがである。
「し、知らん!」
「
「ふ、ふざけるな」
「ふざけるなだと? お前……口の利き方がなっていないな? 自分の置かれた状況を考えろよ」
俺はそう言って、また一発男の頬を張ってやる。
「ぐわ!」
俺に殴られた男は、口から血をまき散らして派手にぶっ倒れた。
男の服をひっつかんで、再び起こさせる。
俺が見ると、男は顔面蒼白だが怯え切ってはいない。
さすが、裏街道を歩く男だ。
こういう奴を脅すのは、コツがある。
淡々とやる事。
有無を言わさないように。
そして、こちらが本気だと示す事だ。
「俺はふざけてなどいない。こうして警戒厳重なお前の屋敷へ堂々と入って話している。ちなみに護衛は皆、ぐっすり眠らせたからゆっくりと話せるぜ」
飾ってある大きな壷を、俺は無造作に指差す。
高価そうな壷が、いきなり粉々に砕け散った。
「な、何!?」
「やろうと思えば、お前の命もあのように簡単に砕け散るが……さあ、どうする? やってみるか? お前の顔のない死体が明日の朝に中央広場へ放り出される事になる」
「ううう……わ、分かった」
俺の抑揚のない声に押されて、男は渋々要求を受け入れた。
「ふたつめ……こいつらを兵士として売った金は半分だけこちらへ貰う」
「な、何!? は、半分?」
「残り半分はこいつらに持たせてやれ。長旅にスッカラカンじゃあ可哀想だ」
俺は、部屋の片隅にある金庫を指差した。
施錠の神スキルを持つ俺は、どんな錠前でも開けてしまうのだ。
金庫には、大量の金貨や宝石がうなっていた。
「おお、貯めてるなぁ……じゃあ遠慮なく貰って行くぜ」
「くうう……」
俺がピンと指を鳴らすと、大半の金貨が消え失せた。
転移魔法で異界へ放り込んだのだ。
「念の為に聞こう。お前はある大貴族の女を騙して大金を巻き上げたな? 女が怨みと焦りで正常な判断が出来ないのをいい事に」
「あ、あわわ……な、なんでそれを!」
男は否定しない。
やはりこいつが、ヴァネッサへ入れ知恵したのだ。
「やはりか? 金貨2千枚も巻き上げたらしいが、それはさっき一緒に返して貰った」
「うくく……」
「お前は知らなかったろうが、あいつは俺の女だ」
「な? 何?」
「俺はやられたらやり返す、だから倍以上の利子をつけて返して貰った」
「…………」
「良いか? ……絶対に俺の女から金を取り戻そうとするなよ……もしそんな事をしてみろ……殺すぞ」
「…………」
俺はヴァネッサを、王都から連れて行く。
ボヌール村で、名前と容姿を変え別人となって人生をやり直して貰う。
ヴァネッサは……表向きは王都で謎の失踪を遂げるのだ。
俺に脅されたら、男はヴァネッサの事を確かめるだろう。
ヴァネッサの謎めいた失踪を知り、何か関りがあるらしい俺の『本気』を……知るだろう。
この物言いは、しっかり俺との約束を履行させる念押しの効果がある。
男は……黙り込んでしまった。
沈黙は、肯定の証である。
「さあて……俺達はそろそろ失礼するが……もし俺達の事を口外するとか、探ろうとか、報復しようとかと考えたら……こうだ」
俺は、傍らに立てかけてあった男の剣を指差した。
護身用の鋼鉄製長剣らしい。
壷同様、剣もあっさりと音を立てて砕け散る。
「ひ、ひいいい……」
俺は、怯える男の頭を軽く突いた。
「今、特別な魔法を掛けた……お前はいつも監視されている」
「か、監視!? あううううう」
「そうだ、見張ってるぜ。もし約束を少しでも破ったらすぐ分かる……即座に顔が砕けるぞ……壷や剣と同様になる……どうだ? 面白いだろう?」
「わわわ、分かったぁ! い、い、言う通りにするから命だけは!」
念の為に、俺は時限式忘却の魔法も掛ける。
約束を守って馬鹿兄弟を兵士にしたら、俺達の記憶は一切消える仕様だ。
「じゃあなっ、間違いなくこいつらを辺境へ送れよ。ちゃんと金を持たせてな、約束だからな!」
俺はそう言い捨てると、クーガー、ジャンと共に男の前から消え失せたのであった。
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