第126話 「3度目の奇跡」

「あ!?」


 俺が目を覚ましたのは……

 何と!

 ボヌール村自宅のベッドだった。

 窓から見たら、まだ外は真夜中らしく、漆黒の闇だ。


 俺の魔法で転移させた村は、いつの間にか元の場所に戻されていた。

 多分、村民達も無事だろう。


 俺の立てた作戦は……

 留守にした村を魔王に攻められないよう、ウルトラCの超大型転移魔法で一旦異界へと飛ばすというもの。

 俺にとっては、苦心の末に習得し、何とか発動した大技。

 クッカと綿密に相談して、事前に何度も練習をした。

 

 なのに、管理神様から見れば俺の魔法など児戯に等しかったようである。

 でも、さりげなく村を元に戻しておいてくれて、とってもありがたい。


 それと……

 肝心な事を確認しなければ……

 

 狭いベッドがぎゅうぎゅうだから……

 すぐに分かるけどね。


「ええっと……」


 俺がそっとかたわらを見ると……


 す~す~

 く~く~


 毛布を被って寝ているのは……

 ふたりの美少女、クッカとクーガーである。

 

 ああ!

 実感する。

 夢じゃあなかった。

 管理神様は、俺との約束を守ってくれた。

 

 何と!

 『3度目の奇跡』を、起こしてくれたのだ。

 

 元々、ひとりの人間の女の子クミカ……

 俺を待ちながら、無念のうちに死んだクミカ。

 彼女を、クッカとクーガーという人間の女の子ふたりにして、この世界へ転生させてくれたのだ!


 俺は「そっ」と、寝ているふたりの顔を覗き込んだ。


 うん……

 クッカもクーガーも、可愛い寝顔をしている。

 近くで見ても、やはりふたりはそっくり。

 

 まあ、元々はひとりの人間だし当然か。

 

 唯一の違いは髪の長さ、ヘアスタイルくらいだろうか?

 ちなみにクッカは金髪のロングヘア、クーガーはショートヘアだ。


 そして、何故か俺は素っ裸。

 クッカもクーガーも、同様に素っ裸である。


 そういえば意識を手放す前に、

 管理神様の声で「ばっちり、サービスしとくよ~ん」とか聞こえた気がしたが、こういう事か。


 俺も健康な男子だから、ついクッカ達へ視線が行ってしまう。

 

 ふたりとも、色白ですべすべの肌。

 体型もほぼ同じ。

 豊かで形の良い胸からくびれた腰への曲線が美しい。

 まるで芸術品のようだ。


 ああ、よかった。

 本当によかった。


 俺は、改めて思う。

 絶対に『ふたりのクミカ』を幸せにすると。


 だけど、クッカとクーガーに見とれている場合ではない。

 リゼット達、他の嫁ズへのケアが残っている。

 「やきもき」しながら、魔王軍との戦いに赴いた俺とクッカ、従士達の安否を気にしている筈だから。

 

 魔王襲撃から今迄の経緯説明、完了報告等、

 俺にはやらなくてはいけない事がたくさんあった。


 でも……

 やっぱり、クッカとクーガーの裸身に見とれてしまう。

 だって!

 すっごく綺麗だし、男子としてそそるから。


「う~ん……」


「うううん」


 俺のそんな、よこしまな気配を感じたのだろうか?

 クッカとクーガーは、目を覚ましかけている。

 ふたりとも隣に寝ているのが、かつての宿敵同士だと知ったらどうなるだろうか。

 何か、「やばそう」だったら、俺が止めるしかないけれど。


 やがて、俺が見守る中……

 クッカとクーガーは同時に飛び起きた。

 すぐに、ふたりはお互いを見つめ合う。

 

 ふたりの表情は、微妙だ。

 怒っているような、泣いているような……

 一瞬の沈黙……

 

 そして……

 同時に、俺を見た。

 

 ……ふたりの目には、みるみるうちに涙が溢れて……

 美しく可愛い顔が、「くしゃくしゃ」になった。


「うわあああん、旦那様、助けてくれてありがとうぉ! クッカは帰って来ましたよぉ」


「ケ~ン!!! ありがとう、酷い事した私を助けてくれてぇ」


 クッカとクーガーは、号泣しながら俺へ抱きついて来たのである。


 そして、――30分後


「えへへ」


「うふふ」


 人間の美少女になったクッカとクーガーは、俺に十分甘える事が出来て、満面の笑みを浮かべている。

 ふたりに聞くと、「助けてくれた」と言うのは『合体』を阻止しようとした、俺の行いだとか。

 

 どうやら気を失っている間でも、ふたりの魂の中へは実況中継のように俺が抗うシーンが流れ込んで来たらしい。


 俺はクッカとクーガーを抱きながら、目が遠くなる。

 

 ……真実を知った俺は、人間のクミカに対しての悲しみを、永遠に持ち続けるだろう。

 約束を破った罪を、一生忘れないだろう。

 幼き日の思い出を大切にして、心にしっかりと刻み思い出すだろう。


 故郷を離れた俺が帰るのをずっと待ちながら、亡くなったクミカ。

 とても可哀想だ。

 健気だ。

 

 もしも生前のクミカに会えるのなら、すぐに会いに行って「ぎゅっ」と抱き締めてやりたい。

 

 俺には分かっていた。

 クッカとクーガーが合体しても、元のクミカは戻って来ない。

 どちらかの完全体という、俺の知らない別の人格が生まれるだけだ。

 

 だけど、元のクミカの記憶がベースとなって、女神クッカと魔王クーガーは俺への一途な思いを持っている。

 そのふたりの気持ちこそが、『クミカの思い』そのものじゃないか。

 大事なクミカの、俺への思いを消す事など、絶対に出来やしないんだ。

 

 この異世界でクッカとは助け合い、クーガーとは戦った。

 それもこれも……

 クミカとの思い出の一部だから。

 俺は全部ひっくるめて、心にしまう。

 大切な宝物として。

 

 そして……

 目の前にはもっともっと大切な、ふたつの宝物がある。

 

「合体なんてぜ~ったい駄目さ。だって俺、ふたりとも大好きだもん」


「私も旦那様が大好き! もうどこへも行きませんよぉ」

「私もケンが大好きだ! もうどこへも行かないでくれよ」


 おお、可愛い嫁達よ。

 深い愛が、「バンバン」伝わってくるじゃないか!

 だから俺も、「びしばし」超絶愛を送ってやるぜ。


 俺達は3人で「ひしっ」と抱き合って、またもや「いちゃいちゃ」してしまう。

 リゼット達の事を忘れ、つい至福のひと時を過ごしていたのである。

 

 しかし……


 とんとんとん!

 とんとんとん!


 お!

 聞き慣れた、ノックの音だ。

 俺が、反射的に索敵で気配を探ると……

 

 ああ、リゼットだけではなく、レベッカ、ミシェル、ソフィ、クラリスも一緒。 嫁ズ全員集合だ。

 さて、どう説明しようか?


 クッカが、笑顔で言い放つ。


「旦那様、一切を正直に言いましょう。リゼットちゃん達ならきっと分かってくれる」

「うん! クッカのいう事なら間違い無いよ」


 おお、クッカとクーガー、息が「ぴたり」と合っている。

 もう、喧嘩はしない?

 とりあえず完全に『仲良しさん』だ。

 これでまずは、ひと安心って……

 

 と、その時。

 俺は改めて気付いた。


「ああ、俺達素っ裸のままだったか。そろそろ服着ようぜ、服」


「え? 服って? あれ? きゃ、きゃう!」


 今更ながら自分が裸だと気付き、驚くクッカ。

 慌てて、胸を隠している。

 相変わらず、『どじっ子』だ。


「うわぁ……全部見られたな……でも良いよ、ケンなら、私の夫だから」


 と、堂々と余裕のクーガー。

 

 ああ……

 あのですね、君ったら、奥まで全部見えてるぞ、おい。

 まあ、良いか、結婚するから。


「あは、それぞれ、らしい反応だな」


 速攻で引寄せの魔法を発動し、3人分の服を用意。

 俺達は手早く、身につけたのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る