第120話 「魔王軍総攻撃①」

 俺と嫁ズが相談をしてから、きっちり1ヵ月後……

 遂に……

 クーガー率いる魔王軍が現れた。


 奴らが現れたのは、西の森の中。

 魔王軍幹部バルカンの、最前線基地があった辺りだ。

 先兵として送り出したバルカンからの連絡が、いつまでも無い事に、魔王クーガーも業を煮やしたのだろう。

 

 だが、連絡なんか行くわけがない。

 バルカンは……

 既に俺が冥途へ送ったのだから。


 俺はクッカのアドバイスにより、基地があった場所に『ある仕掛け』をしておいた。

 魔法の掛かった水晶をいくつか仕掛けておき、大きな魔力反応があったら俺達へ即座に報せるという単純な装置だ。

 

 魔王クーガーや魔王軍ナンバーツー悪魔騎士エリゴスは彼等自身が莫大な魔力の塊だ。

 存在自体を、隠しようがないのである。


 その魔法水晶が、とてつもなく大きな魔力をひとつ感知。

 俺とクッカへ報せて来た。

 ここまで大きい反応は確信がある。

 絶対に……魔王クーガーだ。


 それよりずっと落ちる魔力ひとつと、おびただしい数の雑魚っぽい魔力……

 こちらは副将エリゴスと配下のオーガ、ゴブリン共の大群だろう。


 俺は早速、嫁ズへ作戦発動を告知する。

 夜戦でも仕掛けようとしたのか、相手が真夜中に来たのも幸いした。

 

 ボヌール村の村民はというと、深夜のせいもあって丁度皆、寝入っている。

 これなら、いちいち手間を掛けずに済むという事だ。


 今回発動する俺の作戦は、大掛かりだ。

 え?

 どんな作戦かだって?

 ははは、「細工は流々、後は仕上げを御覧じろ」って事さ。


 バルカンの言った通り、敵は総攻撃をかけて来たのだろう。

 想定では、何と想像を絶する11万!

 それに対してこっちは俺、クッカ、ケルベロス、ジャン、ベイヤールのたった5人しかいない。

 

 気分は、まるで戦国時代の武将だ。

 そう!

 歴史が大好きな人は知っているだろう。


 その武将とは……

 上杉景勝軍を追撃する数万の最上義光軍を相手にして、たった8騎だけで殿戦しんがりせんを行った傾奇者かぶきもの、前田慶次だ。

 しかも俺達は11万に対したった5人、かつて慶次が戦った時以上の寡兵なのである。


 常識的に考えれば、俺達は圧倒的に不利だ。

 不利どころか、あっという間に殺され、勝てる見込みすらないだろう。


 しかし……

 その慶次が言ったらしいじゃないか。

 いくさってのは、『決まりきった勝ち戦』より、『絶望的な負け戦』の方が面白い! ってさ。


 だが、ただ「面白い」だけじゃ駄目だ。

 このままでは世界が滅びる。

 だから、俺達は必ず勝つ!

 しかも勝つだけでは駄目なんだ。


『よっし! 出撃だ。俺達は絶対に勝つ! 生きてボヌール村へ帰るぞ』


 俺が気合を入れると、傍らのクッカは「びっ」と親指を立てた。


『頑張って、みんな! 私は旦那様を全力でサポートするから』


『フフフ、アルジヨ、ウデガナルナ』


 ケルベロスは、不敵に笑う。

 一方、「ぶるぶるっ」と身体を大きく震わせたのは、ジャンだ。


『ううう、緊張するなぁ。い、いやけして怖いんじゃないですよ、単なる武者震いでさぁ』


 ぶひひひひ~~ん!


 最後に大きくベイヤールがいなないて、俺達はときの声をあげたのだ。


『よおっし! 行っくぞ~っ! えいえいお~っ!』


『えいえいお~っ』


『エイエイオ~ッ』 


『えいえいお~っ!』


 俺達の気合が入った声は、ゆっくりと闇の中へ溶け込んで行った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 俺とクッカの索敵によれば……

 魔王軍は西の森を抜け、大草原を横切ろうとしている。

 街道沿いに進み、村道からボヌール村へ進撃するつもりなのだろう。


 魔王軍の進撃ルートはおおむね予想していた通り。

 だから俺達は転移魔法で一気に跳び、途中の街道にて待ち受ける。


 ずしゃ、ずしゃ、ずしゃ、ずしゃ、ずしゃ!

 どっ、どっ、どっ、どっ、どっ!


 奴等の着込む簡易な造りの金属鎧が派手に鳴り、大地を重く踏み締めて進む音が響いて来る。

 俺が見やると……

 目の前の大地が、魔物共の群れでぎっしりと埋まっていた。

 

 更に目を凝らすと先陣は10万と聞いたゴブ、その後を進むのが1万のオーガ、そして1頭の竜と馬が中心に居る。

 

 レベル99の俺の視力は遠くまで見渡す事が出来て、夜目も素晴らしく利く。

 猛々しい竜には派手な革鎧をまとった華奢きゃしゃな女がまたがり、逞しい馬には金属鎧をまとった騎士姿の魔人が槍を持ち騎乗しているのが見えた。

 多分、女が魔王クーガー、魔人が悪魔エリゴスなのだろう。


 さあ、いよいよ戦闘開始だ。

 俺は、従士達へ呼び掛ける。


『お前達、命を俺に預けてくれるか!』


『『『おう!』』』


 ぶひひひひ~ん!


 クッカを含めた全員が、気合の入った返事をしてくれた。

 俺は「にやっ」と笑うと作戦の指示をする。

 作戦は、極めてシンプル。

 織田信長が寡兵で今川義元を討ち取った、桶狭間ばりの奇襲攻撃だ。


『いいか、俺はベイヤールに騎乗して先陣を切る、クッカはすぐ後方についてナビ。いわば一騎駆けだ。ケルベロスとジャンは俺から少し離れた場所を追撃して後方から援護するように』


『『『了解!』』』


『良いかっ! 周囲の雑魚共には一切目をくれるな、狙うは魔王クーガーただひとり!』


『『『了解!』』』


 クッカ以下3名がOKだと頷いたので、俺はベイヤールへ出撃の合図を送る。


『ベイヤール! 行くぞぉ!!!』


 ひひひひ~~ん!


 ベイヤールは、俺の声に応えて走り出す。

 クッカも、素晴らしい速さで後方を飛んで着いて来る。

 そしてすぐ後には、咆哮するケルベロスに跨ったジャンが気合の入った表情で続いた。


 迎え撃つゴブ共は、俺達に気付いた。

 しかし警戒する気配も見せず、見て笑っている。

 俺達を馬鹿で、無謀な奴だと笑っている。

 

 しかし、それは……

 とんでもない思い違いだ。


 おらおらおらおらおらぁっ!!!

 てめぇら、知ってるかぁ!!!

 一騎駆けはなぁ、戦場のはななんだっ!!!


 凄まじい速度で疾駆したベイヤールは、あっと言う間に魔王軍の群れに肉薄した。

 大軍の中へなだれ込むと、ゴブ共を容赦なく蹴散らす。

 笑った顔のままベイヤールに蹴られ、ひづめで踏みにじられたゴブは、呆気なく身体をバラバラにされた。


 慌てたゴブ共が、左右からそれぞれの得物を振るって、俺とベイヤールに攻撃をかけようとする。


 くぉら!!!

 お前ら雑魚の抵抗など、レベル99の力の前には、一切無駄だぁ!!!


「おおりゃっ」


 俺の気合と共に、持った大剣が、とてつもない速さで振るわれる。

 

 おおおっ、手応えありぃ! おおありぃ!!!

 この剣、とんでもない攻撃力だぜぇ!!!


 俺達に歯向かおうとするゴブ共の首と胴が次々に泣き別れとなって行く。

 

 この剣こそ……

 決戦に備えて、俺が引寄せの魔法で得た最強の魔法剣だ。

 生体エネルギーである俺の膨大な魔力を、鋭く巨大な刃に変換して、敵をばっさばさと斬りまくる凶悪な剣なのである。


 そして、剣を持たない俺の手からは、強力な爆炎の魔法が何発も何発も炸裂した。

 凄まじい轟音と共に、ゴブ共は粉々に吹っ飛ぶ。

 

 俺は猛スピードで駆けるベイヤールから転げ落ちないよう、両脚でしっかり馬体を締め付けている。


 「しゃにむに」進む俺とベイヤールが通った後は……ゴブの死体だらけの真っすぐに開けた1本の道となった。

 そして背後から俺とベイヤールを襲おうとした不埒者ふらちものは、あっさりとケルベロス&ジャンの餌食になる。


 魔獣ケルベロスは、巨大で真っ赤な口から紅蓮の炎を吐く。

 炭化して塵となるゴブ。

 

 一方、妖精猫ケット・シーのジャンは、馬役を買って出たケルベロスに跨りながら疾走する。

 飛びかかるゴブ共を、猫族特有の鋭い爪でバッサバサと血しぶきをあげながら切り裂いて行く。


 肉を斬る、叩く、潰れる!

 爆炎魔法で、砕け散る。

 灼熱の炎で、生きながら焼かれる。

 

 阿鼻叫喚!

 ゴブ達が発する、断末魔の悲鳴が辺りに響き渡った。


「馬鹿者! たった4人に何をしている! オーガ隊前へっ! 魔王様をお守りしろっ!」


 ゴブの陣形がどんどん崩されて絶叫しているのは……

 ナンバーツー、悪魔騎士エリゴスであろう。

 寡兵の俺達に圧倒されるゴブを見て、相当、苛立いらだっているようだ。


 抜群の視力を誇る俺から、女魔王と鎧姿の悪魔が見える。

 うし!

 あと、もう少しで肉薄出来る。


 しかし、俺とベイヤールの前に、一頭の巨大なオーガが立ちふさがる。

 

 ひと際他のオーガより大きいので、オーガ共のボスかもしれなかった。

 だが、俺達の前では単なる『遮蔽物しゃへいぶつ』に過ぎない。


「とおりゃっ」


 俺は思い切り爆炎の魔法を叩き込み、相手が倒れかけたところを、巨大な魔法剣で真っぷたつに叩き斬っていた。

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