第107話 「小遣い稼ぎも大変だ⑥」

 人間が普通には飲めない、超強力酒。

 スキル『底なし酒』&『解毒』の助けもあって、俺はガンガン飲んだ。

 それも、「この世で最高の幸せだぁ」という雰囲気で、とても美味そうに。

 

 しかし、これが幸いした。

 いわば『飲みにケーション』の威力により、ドワーフ達とすっかり打ち解けたのである。


 え?

 酒を無理やり飲まされて、辛かっただろうって?

 

 いやいや!

 楽しかった!

 嘘だろうって?

 本当だってば!

 何故なら、彼等ドワーフ達のうたげって、楽しみは酒だけではないんだ。

 

 独特な楽器の伴奏で歌ったり、踊ったり。

 凄くおおらかな宴なんだ。


 実は俺……

 密かに練習した『歌』と『ダンス』のスキルがある。

 だから、ハリのある美しい歌声とキレッキレな動きで踊れば拍手喝采。

 

 そして、「いっちょ、勝負!」と力比べを挑んで来たドワーフ戦士達と腕相撲をしたり……

 何と、結果は俺の50連勝。

 戦士中でダントツ。

 アイ、アム、ザ、ドワーフチャンピオ~ン!

 

 あのドワーフに混じって、酒飲んで騒いで遊ぶ。

 ファンタジー好きな俺にとっては夢のような、映画のワンシーン的展開だ。

 

 そうこうしているうちに、ドワーフの女の子がダンスを誘って来た。

 えっと……

 皆さん、ドワーフ女子ってビジュアル的にどうかと思うでしょ?


 それが、結構可愛いんですよ!

 彫りが深くて顔付きはとても濃いけれど、肩までのサラサラ黒髪。

 

 当然髭はないし、肌はすべすべ。

 瞳は漆黒でつぶら。

 鼻筋が通っていて、唇は厚いけど小さい。

 

 そして身長は140㎝くらいしかないけど、バランスが取れていて肉感的。

 ボンキュッボン! のトランジスタグラマー。

 当然、おっぱいは大きい。

 

 俺は、つい調子に乗って、ドワーフ女子とチークダンスを踊ってしまう。

 ドワーフ女子も俺に抱かれて満更でもなさそう。

 

 クッカはといえば、俺がドワーフ女子と「イチャ」するのを見て凄~くぶんむくれていたけれど。

 まあこれも、管理神様が仰っていた『異民族同士の相互理解と親睦』の一環だもの。

 

 それを言ったら、クッカは黙ってくれた。

 けれど、巣籠り前の栗鼠みたいに両頬をぷくっと膨らませてた。

 それだけだったら可愛いけれど、怖ろしい負の波動が伝わって来る。

 

 そう、女は怖い。

 理屈で勝っても、道理が通らない場合がある。

 感情が先に立ってしまうのだ。


 これは、ちょっとヤバイ!

 クッカの怒りオーラが、ビシバシ伝わって来る。

 他の嫁ズに告げ口されて、結託されでもしたら俺はおしまい。

 即座に、孤立無援決定!

 仕方なく俺は、まだ踊りたがっているドワーフ女子を自然にフェードアウトした。


 人間ながら、力も酒も強くて、歌とダンスも凄く上手い。

 それでいて、超イケメンでスタイル抜群な俺。

 

 え?

 思いっ切り、ブン殴りたい?

 ……はい、俺も実際にそんな奴が目の前に現れたら……

 グーで思いっきり殴ります。


 でも、部族長イングヴァルはそんな俺へ敬意を払ってくれているようだ。


「お前は凄い! 強い上に、歌えて、踊れて、その上に酒も美味そうにガンガン飲むし、本当に大した男だ、リュウ!」


 そう、ここテイワズで俺の名はリュウ。

 25歳独身、職業は冒険者、戦士兼魔法使いという触れ込み。

 

 距離が縮まり、仲良くなると物言いもお互いにざっくばらんとなる。


「リュウ、そもそも俺が吃驚したのは、お前が持ち込んだオーガの皮だ」


「そうですか?」


「そうですかだと? ふん、謙遜けんそんだな。皮には刃物の傷がなかったぞ」


「は、はぁ……」


「打撃だけ、それも皮にダメージがないように絶妙な力加減で倒している。完全にプロの仕事だ」


 おいおいプロの仕事って……

 何か、殺し屋みたいだ。

 打撃だけっていうのは当たり。

 剣や魔法を使わず『天界拳』だけで倒したから。

 

 後で分かったが、経緯はこうだ。 


 俺の持参したオーガの皮を見て……

 持ち込んだ奴に興味が湧いたイングヴァル。

 「すぐに呼んで来い!」と部下に指示を出したらしい。

 それを、さっき殴られた部下が、大事な指示遂行をすっかり忘れていたらしいのだ。


 こんな時のケアも、凄く大事。

 俺は、イングヴァルに殴られた部下にも酒を注いでやった。

 部下の方も、俺から許して貰い嬉しそうだ。

 

 逆に彼も、酒をどんどん注いでくれた。

 これで、ノープロブレム。

 ひと安心である。


 さあて本題に入ろう。


「じゃあ、イングヴァルさん、今後とも俺と取引してくれますかね?」


 俺の打診に、イングヴァルは胸をどんどん叩く。

 まるで毛むくじゃらゴリラのパフォ……いや、そんなこと言ったら即座に国交断絶だ。


「おお、リュウなら大歓迎だ!」


「あざ~っす」


「うむ! 最高の武器防具を作る為に必要な上質の素材を、我々は常に求めている」


「良かったです、お役に立てたみたいですね」


「おお、現実的な話をしようか?」


「現実的な話?」


「金さ、金の話だ」


「金? あざ~っす」


「今回のオーガの皮5枚はサービスで通常の買取金額の倍、1枚金貨40枚で買う。掛ける5枚で金貨200枚だな、それにお詫び金がプラス50枚、都合金貨250枚をお前に支払おう。他にも良い素材があったら持ってこい。皮でも金属でも何でも買い取るぞ」


「ご、ごっつあんです!」


 や、やった!

 オーガの皮って……これから1枚金貨20枚で買ってくれるの!?

 それも、今日は倍額の買取りだって?

 

 おお、感激!

 これで俺は、小遣いに苦労しないで済む。

 憎き金欠病よ、永遠にさようならぁ!


 そして……

 またもや話が弾む。

 イングヴァルは酔ったせいもあって、もう俺にぞっこんみたい。


「リュウ! お前は素晴らしい男だぁ! 気に入った! いっそ俺の妹を嫁にするか? そうなれば、お前は俺の弟になる!」


「へ? 俺の妹? って、誰?」


「何言ってる! さっき楽しそうに踊っていただろう?」


 あ、ああ、あの子か!

 チークダンスを踊った女子、トランジスタグラマーちゃんがイングヴァル兄ぃの妹!?

 

 うっわ!

 ちょっとだけ、おっぱい触っちゃったよ。

 ヤバイ!

 まさか、責任取れとか言わないよな?


 ああ!

 妹ちゃんが、俺を見て、にっこり笑っている。

 

 やっぱり小柄だけど、ボンキュッボン!

 ミシェルと良い勝負。

 

 顔も愛嬌があって、例えれば『可愛い子ブタちゃん』って感じ。

 先ほど話して分かったが、性格も素直で優しそうだ。

 こんなドワーフ女子は嫌いじゃない、嫌いじゃないけど……さすがにヤバイ。


 酒はガンガン飲んだけど、これは……


「…………」


「ははは、分かった! 気が変わってあいつがまだ独身だったら嫁にしてやってくれ」


「りょ、了解! じゃあ、俺、そろそろ……」


「何だ? こんな真夜中に帰るのか? 泊っていけ、何なら数日ゆっくりしていけ」


 え?

 真夜中?

 慌てて、時間を聞いたら午前3時!?

 もうすぐ夜が明けるじゃないか!

 ボヌール村へ帰らないとヤバイ!!


 リゼットが起こしに来るし、クッカも、いいかげん帰りたそうだ。


「すんません! やっぱ、帰ります」


 イングヴァルが「泊って行け」というのを固辞し、俺はテイワズを出た。

 テイワズの村民が総出で見送ってくれたので、少し荒野を歩いてから転移魔法で「ほいっ」とボヌール村へ帰った。


 村に着いたのは午前4時。

 ああ、間にあった。

 このまま1時間ちょいほど起きていれば、間もなくリゼットが起こしに来る筈。


 しかし!

 いきなり強烈な睡魔が襲って来た。

 多分、酒と疲れのせいだ。

 

 でもこのまま寝たら、強烈な酒の匂いで、リゼット達嫁ズに怪しまれてしまう。

 何とか証拠隠滅をはかろうとしたが……

 酒の匂いを消す方法とか、ご機嫌ななめのクッカは中々教えてくれない。


 あ~あ、参った!

 今回は苦労した。

 お金を稼ぐってやっぱり大変だよ。


 こうして、なんやかんやあったけれど……

 俺が小遣いに不自由する事は、一切なくなったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る