第49話 「護衛の仕事を請け負った」

 過去の地球、中世西洋では『旅行』は、命がけだったらしい。

 旅行者は武装し、戦いに自信がないものは護衛を雇ったそうだ。

 

 ミシェルが画策し、今回俺達が請ける仕事は商隊の護衛。

 元の護衛役、冒険者クラン大狼ビッグウルフが逃亡して回って来た。

 俺が戦える魔法使い、レベッカが狩人、ミシェルが拳法の達人。

 そうは言っても、冒険者でもない俺達が、未体験の商隊護衛の仕事を受けるには村の責任者達の許可が要る。

 

 まずはレベッカ父、門番兼保安担当のガストンさんにOKを貰った。

 当然ながらリゼットの父、村長ジョエルさんにもOKを貰う必要がある。

 しかし、俺達が直接ジョエルさんへ言うよりも、通し易いやり方はあると思い付いた。

 

 村の戦士役ガストンさんからジョエルさんへ一旦話して貰い、その上でOKを取り付けるのだ。

 

 ここで任せて! 

 と言ったのがリゼットと、ガストンさんの愛娘であるレベッカだ。

 ふたりから頼まれて、ガストンさんは、ジョエルさんへの交渉を否応無くOKした。


 村においては、門番を務める戦いのプロ。

 百戦錬磨のガストンさんの判断なら、ジョエルさんも賛成する確率がぐ~んと上がる。

 絶対、そうだ。

 

 俺は、そう確信したのである。


 案の定……

 ジョエルさんは、あっさりOKを出した。

 後でガストンさんに聞いたら、ミシェルが強硬に主張した、村に必要な物資の枯渇も判断の大きな要因となったそうだ。

 こうなったらもう、商隊の親爺に交渉し、契約を取り交わすだけである。


 俺達は、大空屋に宿泊している商隊の親爺達を訪ねた。

 

 しかし、リーダーである親爺はせこかった。

 クラン大狼ビッグウルフみたいなクランを雇うのは、普通は冒険者ギルドを通して、が基本だという。

 

 そもそも旅の商隊の護衛料金って、結構相場が高いらしい。

 1日では終わらず、命も懸かった仕事だし、冒険者ギルドへの手数料も含まれるから当たり前なんだが……

 そこで親爺は護衛料を少しでも安く上げようと、ギルドを介さず、クラン大狼を直接雇ったのだ。


 まあ、さすがに親爺も、大狼の奴等の身元確認はした。

 ジェトレ村でたむろしていた、クラン大狼に声をかけたらしいが……

 奴らは一応、冒険者ギルドのランクCの認定証を持っていたから、親爺も安心して雇ったらしいのだ。


 が、しかし……奴等はとんでもなかった。

 戦う技術はあったかもしれないが、素行がとんでもなかった。

 あのように、『傍若無人振り』を惜しみなく発揮したのだ。

 傍若無人すぎて、俺にあっさりやられて逃げてしまったが。


「へへへ、奴等へ金を払う前で助かりましたよ」


 親爺は、狡賢そうに笑う。

 さすがは商人。

 結構なしたたかさ。


 だがミシェルには、そんな親爺のズルイ性格も計算済みだったらしい。


「ふうん、それは良かったじゃない。だけど私達への報酬は前払いだよ」


 『前払い』と言い放ったミシェルに親爺は驚いた顔をする。


「へ?」


「へ? じゃないの。前金の現金払いじゃないと護衛はやらないと言っているのよ」


「そ、そんな!」


 最初の「へ?」はお惚けだったらしい。

 今の驚きが、親爺の本音だ。

 たかが、村の小娘と思って舐めていたミシェル。

 実はこんな親爺など、遥かに上回る『したたかさ』なのである。


「前払いじゃなければ、この話は一切無しよ。私達は次の商隊が来るまで待っていても、いっこうに構わないんだもの」


 平然と言うミシェルに、商隊の親爺はギリギリと歯噛みした。


「くくく……」


「唸っていても仕方がないよ。さあ、早く決めて! どうする?」


 ミシェルは『冷血モード』に入っているが、念の為、これは彼女の素ではない。

 本来のミシェルは、優しい美少女の筈……だよね。


 根負けした親爺は、とうとう護衛の条件を提示して来た。


「う~……確かに私達には時間がない。時間をロスしているから、一刻も早く出発したいんだ。分かった、金貨10枚現金で前払いだ、3人ならそれで充分だろう?」


 金貨10枚=換算すると約10万円か……

 でも俺、レベッカ、ミシェルの3人で10万円。

 エモシオンの町まで約半日、あっちで1日過ごして、戻って来て計2日はかかる。

 

 計算したら、ひとりあたり1日2万円いかないじゃないか!

 単なる、バイトならともかく!

 これから2日も拘束されて、魔物や強盗と戦うとか、命も懸ける仕事にしちゃ全然安くね?

 親爺いわく装備は勿論、食べ物や水も持ち込みだって言うし……となると、実質1人1日1万円少し?

 このくそ親爺、すっごいケチ。

 本当にドケチだ。


 ミシェルも、俺と同じ様に感じたのだろう。

 きっぱりと、親爺の提示を拒絶した。


「はぁ? 駄目だね、話にならない」


「だ、駄目?」


「私が知っている限り、この規模の護衛で、報酬の相場は最低でも3倍の金貨30枚……これを、前金で払って貰うわ」


 おお、強気のミシェル。

 一気に提示額は3倍だ。


 というか、元々出して来た親爺の提示額が安すぎるんだけどね。

 こっちは、護衛役として命を張るんだよ。


 しかし案の定、『親爺、超吃驚する』のリアクション。

 

「えええっ、そんなの無茶だ、高すぎるっ!」


「ふうん、だったら良いよ。私達は村での~んびり畑を耕したり、狩りをして過ごすから」


「くう~! 私達が時間がないのにつけ込みおって! わ、分かった! 金貨30枚、前金で払う。だから頼む」


「毎度あり~」


 ミシェルは満面の笑みを浮かべ、Vサインを突き出した。

 こうして、俺達の護衛契約は成立したのである。


 その夜……


 俺とクッカは、自宅でふたりきり。

 予想される、襲撃者への対策を練っていた。

 

 これが結構難しい。

 魔物と獣。

 更に、人間が混在する襲撃者。

 対処する方法も、全く違って来る。


 襲撃者を単純に撃退するのなら、簡単。

 レベル99の俺TUEEEを存分に発揮すれば良い。

 

 でもそれじゃあ、全てがバレテーラ。

 俺は、勇者認定まっしぐら~。

 最悪な王都行き、魔王討伐確定フラグが立ってしまう。


『どうしよう……』


『難しいですね……』


 暫し、考え込むふたり……


 しかし!


 やがてクッカの頭上にパッと明るいLED電灯が輝いた。


『私、良い事を考えました。多分上手く行きますよ』


『おいおい、クッカのナイスアイディア、聞かせてくれよ』


『うっふふふ。こうこうこうです』


 聞けば、クッカは素晴らしい予想以上の名案を出してくれた。

 これなら確かに、行けそうな気がする。


『普通なら考えられない話だけど……それがもし出来るならバッチリだな』


『はいっ! ケン様なら楽にクリア出来ます』


 クッカが、満足そうな笑みを浮かべると、甘えて俺の肩に顔を載せた。

 昼間の失神といい、ホント、こいつは可愛いよ。


 俺は、そんなクッカが愛おしいと思いながら……

 彼女の放つ甘い香りを、思い切り吸い込んでいたのであった。 

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