第11話 「空中散歩を楽しもう!」

 俺は、飛翔魔法で一気に300mほど上昇して空中に静止する。

 熟練度が1の筈なのに、どうやらこの魔法も一発で成功!

 魔法がず~っと成功するなんて、今迄の運の悪さが考えられない。

 もしかして、どこかのゲームの盗賊みたいに運のパラメータもMAXだから?

 まあ、良い。

 今は、この状況を楽しもう!


「おおおっ! 改めて見るとやっぱり凄い!!!」


 ここへ来た時に既に感動していたが、この世界の空には俺が住んでいた都会と違って降るような満天の星がある。

 

 あまりにもたくさん星がありすぎて、目がチカチカするくらいだ。

 星の配置は、地球とは全く違うのだろう。

 しかし単純に星空が綺麗であれば、天文学や星座占いに興味のない俺は全くこだわらない。

 ここで愛しの女神さまへ質問。


『クッカ! 視力をぐ~んとあげるにはどうしたら良い?』


『はいっ! 遠眼鏡のスキルと念じて下さい』


 よおし……はいっ、念じたぞっと。

 うおおっ!

 これまた、凄い。

 調節してと!


『ズームインとズームアウトで、倍率も念じれば自由自在ですよぉ』


 すかさず、クッカのアドバイス。

 ナイス!

 まさに「取り説」要らずだね。


 サンキュー!!!

 よっし、どうだ?

 おお、バッチリだぁ!


 足元には、草原と点在する森という光景が広がっている。

 後を振向くと、柵に囲まれたボヌール村が見えた。


 ズームイン!


 おお、村にある俺の家が見える!

 感動した!!!


 いったんズームアウトして。

 ええと……村を基点として見ると……


 俺は、東西南北をズームインとズームアウトを駆使して、周囲を見渡して行く。


 現在居るのは、村の北西上空。

 村の北東には別の大きな森が広がっており、湖みたいなものが見える。

 西の森より、遥かに大きな森だ。

 何か、探索しがいがありそうである。 


 北には、歩いて来た街道が伸びている。

 こっちは管理神様曰く、いくつかの町を経て行き先は王都。

 南はと言えば、街道をだいぶ歩いて下るとボヌール村よりほんの少しだけ大きな町とその奥の丘に、ちんまりした白い石壁の城館がそびえているのが見えた。


 あそこが多分、領主の館。


 リゼットが、オベール様って言っていた村を治める領主が居るのだろう。

 でも領主には、絶対に目をつけられないようにしないと。

 莫大な報奨金が貰えるなら、俺だって王様へ報せる。

 

 そうしたら、通報された俺は勇者まっしぐら?

 上から目線で王様に命じられて、怖ろしい魔王と戦う?

 うう嫌だ……そんなの、絶対に嫌だ!!!


 ちなみに領主が居る町より先にも、街道はずっと南へも伸びていた。


 それ以外は、街道を挟んで草原を基本に森、もしくは沼という地形が展開されるパターンで、他に人間の町や村などは見当たらなかった。

 

 うむむむ……ここは、やっぱりすっごい田舎なのだ。

 まあざっくりと見ただけだから、もしかしたら見落としているかもしれないが、小さい集落は後でチェックすれば良いだろう。


『よし、探す時間も限られているし早速、薬草採取へGO!』


『はいっ! 飛行訓練をしながら西の森の中ですね、ゴーゴー!』


 お!

 クッカのノリも、良くなって来た。

 相変わらず笑顔が、超可愛い。

 まあ、彼女は美人さんだから何をやってもOKなんだが。


 俺は、西の森を目標に飛翔を開始した。

 速度を急に上げたり、回転したり、急降下したり、空の散歩を存分に楽しみながら。

 

 ところで、皆さんは夢の中で空を飛んだ事があるだろうか?

 ちなみに、俺はある。


 夢の中だと、何故か高所恐怖症も全く感じなかった。

 だけど「思ったように飛べた!」とは言い難い。

 何か身体に制限をかけられたように、重くて自由に飛べなかったのだ。


 それが今や!

 

 すいすい風を切って飛ぶ、この素晴らしさ。

 やろうと思えば、どこまでも限り無く速度が出そうである。

 どのように飛ぶかは、頭の中で思うだけでOKなのだ!


 満天の星の下、夜の大空という海を自由に泳ぐ魚のように俺は飛び回った。

 傍らでは、クッカがぴったりくっついて優しそうに微笑んでいる。


『うふふ、ケン様ったら、飛ぶのに夢中になって! まるで子供みたい』


 良いんだ!

 どうせ、俺は大きな子供。

 楽しいおもちゃを手に入れた気分なんだよ。


『でも、そろそろ行きましょう、西の森へ』


 クッカに促された俺は、速度を少し上げて西の森へ飛んで行った。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 今更だが、基本的に俺は超が付く怖がりである。

 

 お化け屋敷も、滅茶苦茶苦手な男だ。

 だから闇からホラーって不気味なお化けが出たり、血がブーなスプラッタなんかが好きな女の子は一切付き合いNGだった。

 

 ホラー映画に誘われてもすべてお断りだから、どれくらい彼女を作るチャンスを逃がしたか分からない。

 ついでに高所恐怖症だから、高い所もダメ。

 だからジェットコースターや、フリーフォールが売りの遊園地も不可。

 

 こんな遊びにくい男は彼女なんて出来ないよね。

 今から、考えれば至極当然。

 

 え?

 さっきは、どうして空飛んだのに大丈夫だったって?


 『勇気』ってスキルが、あるんだとさ。

 某少年誌の合言葉のような、某ゲームのスペックのような、そんなスキルが今の俺にはある。

 だから今は全く平気だ。

 あ~ははは。

 凄いよ、オールスキルって!


『そういえば飛翔した直後、「高いのは嫌だよぉ」って泣き叫んで手足バタバタ。涙だだ漏れで、鼻水たらしてパニクっていましたものね! もしかして、おしっこも漏らしてませんか?』


 漏らしてね~よ!!!

 て、普通言うか? それ!

 クッカ、こらっ!

 

 俺が怒ると、クッカは「てへぺろ」しやがった。


『えへへ、ごめんなさ~い』


 まあ良い。

 可愛いから許そう。

 男子にとって、女子の可愛さは全てに優先するのだ。


 前置きが長くなったが、俺達は西の森の上空に来ると、降りられる場所を探す。

 ちょうど木々が途切れた原っぱがあったので、そこへ出来るだけ目立たないようにそっと降りる。


 周囲には何も居ないが、無論索敵は欠かさない。

 夜の森だから夜行性らしい生命反応はたくさんあるが、大抵は大人しい草食獣らしく、クッカから危険は殆ど無いと言われる。 


『あ!』

『あ!』


 俺とクッカの声が重なった。

 だいぶ離れているが、この辺りでは最大級な大型肉食獣の気配を察知したからだ。


『おお、熊だ』


『ええ、成獣の熊ですね、この森の中で北西約2km先に居ます。出会った事のない、悪意を持った魔族や魔物そして人間は私の索敵にはアンノウンと出ます。しかし普通の人間は人間は勿論、兎や鹿も含めて動物は90%の確率で索敵出来ます。ケン様も同じ力をお持ちですよ』


『う~ん、どうしようか?』


『その体力吸収の魔剣を使います?』


 俺が腰から下げている、引寄せの魔法で得た黒い刀身の魔剣は体力吸収の効果が付呪エンチャントされていた。

 効果は文字通りダメージを与えた敵の体力を吸収して、奪った体力を逆に持ち主へと渡す反則な剣だ。


『うん、もし遭遇したら戦うよ』


 俺達に、何もしていない熊をむやみに殺したくないが、情けを掛け過ぎてがぶりと喰われるのは嫌だものね。


 ここで俺は、はたと手を叩く。

 ひとつ思い付きをしたからだ。


『そう言えば俺って動物や魔物との意思疎通って出来るの?』


 確か本で読んだソロモンの72柱悪魔にそんな特技を持つ悪魔が居たと思い出したのだ。

 俺の問いにクッカは……


『ええ、出来ますよ』


 は?

 あっさり言うな……全然OKなんだ、それ。

 ここで俺はふと思う。


『じゃあもしかしてあの時、ゴブに平和的な解決……すなわち降伏勧告も出来たんじゃないの?』


 これもクッカはあっさり答えてくれた。


『威圧して大人しく出来たかもしれませんが、情けを掛けても彼等は再び人間を喰う為に襲います、こればかりは食欲=本能ですから仕方がありません。出会ったら排除のみです、悪・即・斬!!!』


 ぶれないっす、女神様。

 何せ、ゴブが大嫌いと来てる。


『それより早く薬草を取りに行きましょう。熊に会う前に』


 確かにその通りだ。


 俺達は足を早めて、昼間リゼットが危険を冒して採りに来たという薬草の繁茂地へ向かったのであった。

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