第60話 インタビュー

通信で生放送インタビューを1本だけ受けることになった。

JASAのスズキ女医と広報部が相談して決めたらしい。

依然として日本では俺のミッション失敗に対するバッシングが止まない。

そこでインタビューなど情報を開示して批判を抑えようとしている。

知れば分かってくれるはず。

俺と豆腐小僧の会話など、ほとんど全てを一般に公開している。

今回のインタビューはNHHの男性アナが代表する。


NHH「困難なミッションお疲れさまでした。」

俺「ありがとうごさいます。」

NHH「現在ステーション滞在で、あと数日で補給船到着だそうですが?」

俺「はい、ステーションでは良くしてもらってます。」

NHH「食事などは、どうでしょうか?」

俺「ロシアの魚の缶詰が美味でした。」

NHH「他には?」

俺「ひさしぶりに誰かと食べる食事は美味いですね。何食べても。」

NHH「体の具合は?」

俺「2日ぐらい体が痛かったですが、もう普通の状態です。」

NHH「それは良かった。周回軌道投入はハードだったということですが。」

俺「はい。気を失っていましたが、JASAから概要は聞いています。」

NHH「爆発があったんですよね。」

俺「ええ、はやふさ9号搭載の人工知能は、まずモジュール6を切り離しました。」

NHH「そこまでは通常のプロトコルですか。」

俺「はい、その時点で速度が足りずに引力で高度が落ち始めました。」

NHH「それは地上の監視班も確認してますね。」

俺「人工知能は緊急事態だと判断して安全装置を解除しました。」

NHH「人工知能が?」

俺「はい、緊急離脱などではマックスパワーを引き出します。そのためです。」

NHH「安全装置はモジュールや搭乗者の生命維持を守るためのモノですね。」

俺「はい、安全装置解除で通常は出来ないあらゆる動作を可能にします。」

NHH「あなたはずっと気を失っていた?」

俺「ええ、ここからは全て人工知能の緊急回避動作の説明です。」

NHH「安全装置を外して、どうなりましたか?」

俺「はい、イオンエンジン以外の電源をカットしました。」

NHH「生命維持も含めて?」

俺「はい、室内照明も落ちていたのでしょう。」

NHH「全ての電力をイオンエンジンに?」

俺「はい、進行方向から見て後部のイオンエンジンひとつに集中しました。」

NHH「その結果があの爆発ですか?」

俺「はい、全電力をイオンエンジンに流してエンジンごと爆破させたようです。」

NHH「通常では、ありえない動作ですね。」

俺「ええ、通常では安全装置が働いて一定以上の電流は流れません。」

NHH「その爆発で加速、上昇できたと。その後の姿勢制御は?」

俺「モジュール室内の空気を放出して制御しました。」

NHH「空気を?大丈夫でしたか?」

俺「はい、意識は無かったですが、生命維持は保たれたようです。」

NHH「ここまでの手順は人工知能が思考した結果ですか?」

俺「はい、人間の思考とは別モノですが。」

NHH「信じられません。」

俺「衝突事故の時も緊急回避していますから、このぐらいやりますよ。ウチのは。」

NHH「最後の質問です、今一番やりたいことは何ですか?」

俺「はい、今すぐにでも探査機に乗って新しい旅に出たいですね。」

NHH「ええーー!!??」

俺「今すぐにでも新しい旅に。」


やってやった。

やってやった。

最後バチッと決まったな。

7年も孤独に宇宙を旅して、奇跡的に宇宙ステーションまで帰ってきて。

そこで一番やりたいことが、地球に戻るより、また宇宙の旅に出たい。

最高の宇宙ジョークじゃあないか。

面白いだろう?


サトウ所長が生放送インタビューの後に通信してきた。

怒られるか?


サトウ所長「インタビューお疲れさん。」

俺「どうも、なんか、すいません。」

サトウ所長「いやいや、ところで君には、これから月面に行ってもらう。」

俺「月面?」

サトウ所長「月面では新しい大型探査船の建造が進んでいる。」

俺「大型探査船・・」

サトウ所長「ちょうど良いから、君には、その乗組員になってもらうよ。」

俺「待って下さい、帰ってきたばかりで、また行けとは、ヒドくないですか?」

サトウ所長「インタビューで、すぐ新しい旅に出たいって言ってただろ?」

俺「いや、それは・・」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る