第22話 微小天体

「はやふさ9号の人工知能の判断は間違っておりません。」


はやふさ9号の衝突事故は日本で報道され大騒ぎになっているらしい。

JASA(日本航空宇宙局)の責任を追及する議論などが盛り上がっている。

無人ならまだしも、有人機の事故に世間は厳しい。

回収した大量の希少物質を失ったことに対する非難もされている。

もしかして俺が乗っていなければ防げたのかもな。

いや、これは誤解をまねく言い方だ。

今回の微小天体の破片の衝突は予想できず避けられなかった。

俺以外の誰が乗っていても事故は起きたはずだ。

搭乗者に操縦をさせないのだから誰が乗っても結果は変わらない。

ただ人間が乗っていなければ、どうなっていたか?という意味だ。

もしも探査機が無人で10個のモジュールで飛べば、かなり離脱できたのでは?

俺の盾となってくれた5個のモジュールも何個かは生き残ったはずだ。


「はやふさ9号の人工知能の判断は間違っておりません。」

JASA本部の見解だ。

今回の人工知能の対応は人命を優先した当然の結果だということだ。

事故に対する人工知能の判断は現場として最善であると俺も思う。

人工知能の主な判断と行動は以下のものが挙げられる。


・爆発した微小天体の破片の軌道計算。

・盾となるBグループのスラスタによる急加速と急停止。

・Aグループを離脱させた後の地球への帰還方法の検討。

・モジュール6と8の緊急離脱とスラスタによる停止。

それら全てを数秒で行うわけだから人間には到底出来なかった。


「はやふさ9号人工知能」は、まず俺の乗るモジュール6を離脱させてくれた。

次いで食糧が全て残っているモジュール8を離脱させた。

俺を離脱させた後の食糧のことまで考えての配慮だ。

このモジュール8は人工知能からの贈り物だと思う。

モジュール8の食糧を使って2年間、生き残れと。

何としても生き残れよと。

地球から5年かかる位置だから2年間分では足りないが。

とにかく時間をかせぐことは可能だ。

モジュール8とドッキングさえ出来れば2年間は生きられるだろう。

2年間は。

寝る前に人工知能に「お礼」を言おうと思ったが恥ずかしくなりやめた。










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