第15話 信天翁②
「対潜ミサイルらしき飛翔体10!接近中!」
ミツが量子レーダーを読み取る。
海の底から航空機やミサイルまで捕捉できるのが量子レーダーの強みでもあった。
「やっぱり来たわね」
ユウの指示ですでにシーキャットは移動を開始していた。
「やはり対潜ミサイルです。分離しました」
そこへサヨリとチエコが駆け込んできた。
「180度回頭!」
サヨリは着水ポイントを一瞥してミサキに命じた。
「サヨリさんまた魚雷に突っ込むの?」
ユウがあわてて確認した。
「もちろんよ。だってそっちへ逃げたら第二波で袋叩きにされるもの」
~~~~~
「60本だと!?俺は100本と言ったはずだ!」
シュウは牌を卓にぶちまけた。
「対潜ミサイル100本だと1億ドル以上、無駄遣いするなとのことです」
副長が直立不動で伝える。
「笑わせるぜ。潜水艦はその10倍の値段だ。そこにサブマリナーを育てる費用とそいつがこれから沈める艦の価格と遺族年金をたすのが正しい計算てもんだ。これのどこが無駄遣いだ」
「艦長のおっしゃるとおりです」
副長は足元に転がってきた牌を戻した。
「で、作戦通り二回に分けて攻撃をしたのだろうな」
「はい、ブルートライアングルをふくむ五つの基地から最初に10本、第二波50本」
「海雀は?」
シュウは山から配牌を持ってくる。
「艦長の考案された雀翼の陣形で索敵中ですが信天翁に向かって来るなどありえません」
雀翼の陣形とは上下左右に波打つ扇のように海雀を送り出し、それぞれを
これにより水平線の果てまで監視することが可能だった。
「これは!」
理牌するシュウがうめいた。
「うっ……」
副長はシュウの手をのぞきこんで息をのんだ。
わかりやすい死亡フラグが二つも立ってしまいシュウの手が震えた。
「ありえないなんて言葉二度と使うなよ」
シュウは麻雀卓をひっくり返した。
「遊びの時間は終わりだ!戦闘配置につけ!」
「チョンボ!」
「チョンボ!」
「罰金払え!」
メンバーは容赦なく艦長を非難した。
~~~~~
「サヨリさん大当り!第二波その数50!」
チエコが愉快そうに手を叩いた。
強い横Gがかかってきた。
潜水艦は低速だと舵のききが悪いのだが、シーキャットの場合は二つの尾びれが急旋回を可能にしていた。
「突っ込みます」
ミサキが静かに宣言した。
「えっと悪い知らせです」
申し訳なさそうにマリが申告した。
「発電ケーブルに海洋連合のドローンがからまってます」
「ひーっ、いい目印じゃない」
「ホーミング魚雷が少ないことを祈りましょ」
ユウが悲鳴を漏らしサヨリがなぐさめを口にした。
シーキャットの探知が難しいことは海洋連合軍に知れているはずなので、あらかじめ爆発深度とポイントをまんべんなく設定してあるとは期待できた。
第一波の魚雷がシーキャット、正確にはシーキャットにへばりついている海雀を追尾しはじめた。
「5本追ってきます!」
「半分か」
サヨリは次なる手を考えはじめた。
衝撃波がシーキャットを揺さぶった。
「味方のドローンぐらい識別しなさいよ」
「そんな高尚なシステム持ってるわけないでしょ」
愚痴るミツにチエコがさとした。
「奴らが自分の魚雷で撃沈されても驚かないわ」
「それ、いただきますわ。確かめてみましょう」
サヨリは微笑んだ。
「第二波着水、半分ほどこちらに向かってきます」
「秦級原潜に最大戦速!」
~~~~~
「正体不明のステルス潜水艦こちらちに針路をとりました!」
信天翁の
「おい、これ見てみろよ」
シュウがモニターを指さした。
そこにはシーキャットの発電ケーブルにからまった海雀からの映像がリアルタイムで映し出されていた。
「この潜水艦、魚みたいな尾ビレが二つもあるぜ」
モニターをのぞきこむ顔、顔、顔そして顔。
「鬱陶しい!てめーら持ち場にもどれ!」
自分で呼んでおいてキレまくる。
「さーて魚雷の準備はできているな。敷設しておいた『臥竜』とタイミングを合わせるぞ」
シュウは指をボキボキと鳴らした。
~~~~~
「秦級から魚雷6!」
「海底からも!カプセル機雷8」
ミツとチエコが続けて危機を告げた。
「マサエさん
『ビリビリのバッチバチよ!』
相変わらず活きのいい声がかえってくる。
「ミサキさん、まんべんなく受けてね」
「まず右へローリングします」
「ええっ、いきなり!?全クルーへ伝達!ミサキサーカス!ミサキサーカス!!」
ユウが青ざめてマイクにしがみついた。
「何ですかミサキサーカスて?」
斗真がサキナにのん気に尋ねた。
「操舵手のミサキさんがアクロバット的な操艦をするのよ。何かに掴まって!」
艦体が大きく右へ傾いた。
「うわっ!」
爆発音とともに揺さぶられ斗真は椅子から投げ出されてしまう。
傾きは止まらずそのまま上下逆さまになり天井に転がった。再び衝撃に突き上げられ、テーブルからぶら下がっていたサキナの豊かなお尻が斗真に降ってきた。
「ぎゃっ!」
そのまま二人は抱き合った状態で転げ回った。
やっと元の状態に戻ったと安心する間もなく今度は艦首が下がり艦尾が持ち上がる。
完全に倒立して腹に臥竜というカプセル機雷、平たく言えば待ち伏せ用の魚雷を受けてとんぼ返りしたのちトリムは水平になった。
その間斗真はサキナの太ももやお尻、バストに顔を埋めたり挟まれたりしながら天国と地獄を味わったのだった。
「からまっていたドローンは見当たりません。おそらく粉々になったのでは」
コンソールにしがみついてマリが確認している。
「torpedo間もなくゲホッ……敵魚雷と接触ぅうー気持ち悪い、吐きそ」
絶叫マシンにすこぶる弱いミツがうめいた。
torpedoは魚雷の英語名だがもう一つ意味があった。
torpedoは魚雷の目前でワイヤーネットを投網のように広げた。
重りにあたる部分が噴射剤を放出して直径100メートルほどの網を張り、魚雷がかかったと感知した瞬間、電撃で電子回路を焼きつくした。
こうして秦級の魚雷ははすべて海の藻屑と化してしまった。
~~~~~
「対抗魚雷か!」
シュウはうなった。残念ながら海洋連合では実用化されていない。命中精度に難があるのだ。
魚雷で魚雷を迎撃するのはしょせんフィクションの世界の話だと思っていた。
「艦長、ステルス潜水艦の後ろから我軍の魚雷が大量に追いかけて来ます!」
「くそったれ!味方がいるのにバカスカ撃ち込みやがって!」
(あんたが要請したんだろうが)
無言の突っこみが降りそそぐがシュウにはかすりもしない。
「左回頭90度、スラスターふかせ!逆鱗砲用意!」
シュウの命令のもと対魚雷用防御兵器が発射準備にはいった。
シーキャットからは信天翁の右側面からおびただしい鱗のようなものが出現する様子が観察できた。
「なんなの、これ?」
ユウが首をひねった。
「やべぇ!」
チエコがミツのヘッドフォンをあわてて外す。
「アップ45!ミサキさん飛び越えましょう」
「了解」
シーキャットが急上昇をかけた。
直後に凄まじい音響がシーキャットを震わせた。
シーキャットの後方に迫っていた魚雷が次々と爆発していく。
逆鱗砲は音響兵器だった。鱗に見えたのは小型スピーカー群でフェイズドアレイ技術を応用した位相砲だ。秒速1500メートルの衝撃波を発生させることができた。
これにより魚雷の信管を誤作動させ爆発させてしまうのだ。
「まさか実戦配備されていたとは驚いたね」
チエコは最新テクノロジーや未知の理論といったものに目がなかった。
『サヨリさん機関室です』
ヒトミだった。
『バッテリーがやばいです。シールドの修復がおそろしく電気を食ってます』
「わかりましたわ。すぐに浮上させましょう」
現在のシーキャットは丸裸だ。シールドが回復するまでステルス効果はほとんどない。
しかしどこに浮上させるというのか?
通常は夜間にシュノーケルだけ海上に出すのだが今はまだ昼間だった。
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