第14話 信天翁①
「
秦級原子力潜水艦『
「絶好調だ。きょうはバカヅキじゃないか」
じゃらじゃらと牌をかき混ぜながらご機嫌だ。
静穏が常識の潜水艦において秦級の原子力エンジンは80デシベル以下の静けさをほこる。
これは掃除機以上目覚まし時計未満である。
したがって麻雀を打つのになんの支障もないとシュウは考えている。
気をつかってちゃんと消音マットも使っていた。
たしかにこの日のシュウはついていた。
ソナーにかからないシーキャットを捕捉する僥倖を手に入れるのだから。
信天翁は索敵用の海中ドローン『海雀』を多数放っていた。
見た目は第二次大戦中の戦闘機P-38に酷似した双胴だ。もっともプロペラならぬスクリューは後部に位置しているが。
最大の特徴はバラストタンクを持たず航空機同様に海中を飛ぶことだ。スクリューが止まれば浮力で浮かび上がっていく。
その場にとどまりたければ逆立ちして浮力を相殺するようにスクリューを回す。武装はないがシンプルな構造のため安価で大量生産がきいた。
海洋調査船により海底の地図は詳細をきわめ、沈底している潜水艦があればデータとつきあわせてたちどころに発見される。
余談ながらかつて尖閣諸島海戦では海洋調査船の侵入を許していたがため沈底警戒中の日本の潜水艦が海雀に発見され撃沈されたこともある。
海雀はシーキャットが上方に伸ばしていた温度差発電ケーブルに接触した。
その場にとどまろうと下をむいた海雀のカメラがかすかにシーキャットの姿をとらえていた。
~~~~~
「つまりスプラッシュ諸島にニンゲンがいると、そういうこと?」
「地球温暖化の影響で棚氷の流出が増えていて一緒に外洋の潮流、寒流にのったみたい。たまたまスプラッシュ諸島に迷いこんだのを海洋連合が捕獲に成功したようです」
「どうやって?アメリカは失敗したのでしょ」
サヨリはもっともな疑問をていした。
「奇門遁甲を使ったと推測されているけど詳細はさっぱり」
斗真は両手をひろげた。
腕がヒトミの巨乳に当たってしまう。
(どうしてこんなところに乳があるんだ)
反射的に斗真は縮こまった。
格言『巨乳は距離感がつかめない』
「でも南極海にいけば他にもいるんでしょ、わざわざこんなところまで大艦隊で押しかけなくても」
ヒトミは意にもかいさずきいてきた。
「氷山が邪魔なのと、あそこでは量子レーダーでさえ捕捉しきれないと聞いています」
信号長のチエコがぴくりと反応した。
「どうも寒いところに強く暖かいところは苦手なようです」
「たしかに氷山は厄介ね」
サヨリは量子レーダーの件には触れなかった。
「で、斗真くんあなたが必要とされた理由は?天才だからってわけじゃないでしょ」
「ぼくは……」
斗真はくちごもった。
「人魚」
チヅルが割りこんできた。
「人魚と関係があるんじゃないの」
当て推量だが斗真は大きくうなずいた。
「はい、ぼくはあいつらとコミュニケーションできるんです!」
斗真は決心したように語気を強めた。
「オッカムの
「仮定や仮説の少ない理論ほど正しいとかいうあれね」
チエコの黒目がちな瞳が好奇心に輝いていた。
「ニンゲンをはじめとするUMA、UFO、幽霊、超能力、妖怪といったオカルトそれぞれを別々に説明するのではなくて、まとめて一つの理論で解明するべきだと考えられます」
「たとえば脳内現象、幻覚とかね」
これは看護長のイクだ。
「地震や津波も地殻変動が原因と考えたほうがシンプルよ」
「昔、分子という架空の設定で熱力学を説明したところ学会で激しく攻撃されたといいます。その後アインシュタインが分子の存在を証明し『削りすぎはよくない』と言いました」
「あらあら斗真くんはダブルスタンダードみたいね」
イクが皮肉った。
「いいから斗真くんの考えを聞かせて」
チエコがじれたようにさえぎった。
「すみません、理屈っぽくて」
斗真は頭をかいた。
「要するに人の意識を読み取ったりして姿や現れようを変える存在がいて、ぼくらはそれをUMAやUFOと呼んでいるだけなんです」
途方もない話で一同コメントのしようもなかった。
「海洋連合もアメリカもあれを兵器ととして利用することしか考えていません。ぼくも最初は協力するつもりだったけど人魚に助けられたとき彼らと約束したんです、ニンゲンを逃がして南極海に帰すと」
警報が鳴った。
『サヨリさんブリッジへ来て!海洋連合に見つかったわ!』
副長ユウの声が流れた。
「戦闘配置について。斗真くんはサキナとここに」
サヨリは命じて食堂を飛び出した。
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