遺跡
遺跡1 『シャラク』
③
「駄目だ、見つからない……」
「ねー」
二週間後、テトラの住む洞窟に私たちは訪れていた。
エアはテーブルに突っ伏して足をパタパタさせている。
隣に座ったフィリーは腕を肩で組んで難しい顔をしているし、リレフは
「私は大丈夫よ。もう
私の向かいに座るテトラが気を使っているのが目に見えて分かる。
それだけ、私たちのツガイ捜索は難航していた。
だってさー。そもそも魔族って自分の家族が大事だから、他の魔族の家庭環境とかそこまで興味を持ってないんだよ。
別に
「今日で十五匹目だったけど、やっぱり違うんだよね?」
リレフがひげを
見つけた
「うん……自分のツガイなら、分かると思う。あの中には居ないかな」
「もうめぼしい
リレフが
「オレらはわかんねーけど、その相手が近くに居るっていう、
「それ、私も気になってたー!」
そうだ。実は私も。
せめて街のどの辺りにいるとか分かれば、少しは状況が変わってくるかもしれない。
けれど、テトラは首を振る。
「私も上手く説明できない感覚なの。
「じゃあ、例えばその魔族が近くで泳いでても防壁の外でゴブリンと戦ってても、テ
トラの感覚はこれ以上変わらないんだね」
「相手が
私の言葉にテトラはうなずく。
「そっかぁ……この前のお母さんみたいに、テトラのツガイも旅行とか行かないかな。それなら、テトラも離れてるって感覚になるんだから、特定しやすいと思う」
温泉に行くとウキウキしてたお母さんを思い出す。
「んな都合よく行くかよ」
「旅行……」
私の発した言葉にリレフが反応し、動きを止める。
目をまんまるに開き、群がる
「……そうか、もしかしたら――」
「どうしたのー? リレフ」
エアの言葉を受け、リレフは立ち上がる。
「もしかしたら、ボクらは大きな勘違いをしていたのかもしれない」
「勘違い?」
リレフは私の言葉には返さず、ぴょんと跳ね、テトラ前に降り立った。
そして、テトラに尋ねる。
「この辺りの地図とかある?」
④
「そもそもだけど、相手が
「でも、テトラが近くまで来てるのに、テトラのことを探そうとしないんだよ」
だからみんな、
「その『テトラが自分の近くまで向かって来ている』って感覚を向こうが持ってなかったとしたら?」
「どういうこと?」
向こうも
「いい、ノエル。向こうも実は、『テトラの近くまで辿り着いた』って考えいるかもしれないんだ」
「あっ! そういうことー!?」
エアは察したらしい。飛び跳ねている。フィリーも頷いている。ピンときてないのは私だけか。
「つまりはこういうことだろ? テトラの相手は“
「え? だって……テトラは相手を探して
「もー、ノエル! 魔族の街は、ブルシャンだけじゃないんだよ!」
「……ブルシャンだけじゃない……あっ!? そういうこと!?」
「そう、テトラの相手も、テトラと同じように彼女を探して、他の街からブルシャンに辿り着いたかもしれないんだ」
リレフは考えついたことを頭の中でまとめる。
そうか、私たちが
なにも魔族の街は一つじゃない。
テトラの探す魔族が、
私は本の知識から、魔族の街の位置関係を思い浮かべる。
テトラは
同じように、テトラの探してる魔族も、
そして丁度中間地点、
「それってつまり……」
エアの言葉をリレフが繋ぐ。
「向こうも、同じように考えたのかもね。『なんで相手は僕を探しにきてくれないんだろう』って」
私たちの推論だけど、もしもそうなら、とても大きなすれ違いだ。
魔族はツガイの感覚を信じきっている。だからこそ、どちらも『近くに辿り着いた』と感じたし、『相手が探しにこない』と感じてしまった。
ツガイの感覚が起こってしまったすれ違いだ。
「じゃあ、向こうも同じように、私が探しに来てくれるのを待っているってこと?」
テトラの結論に、リレフはうなずく。
「その可能性は十分にあると思う。似たような思考のツガイなら似たような行動をしてもおかしくない。ブルシャンのめぼしい
「街の外ってことね……」
私はテーブルに広げられた地図に目を移す。
「この辺りで、ここと同じような洞窟だとか、魔族が安心して住めるような場所を知らない?」
リレフの質問に、私たちはめいめい首を振る。
街の中に住まいを持っているのに、他に住めそうな場所なんて考えたこともないからだ。
「私の場合、水浴びしてる時にこの子と仲良くなって、ここに辿り着いただけだから……他は知らない」
テトラが近くに浮かんでいた一匹の
「街の外って一言でいっても広いからね。ボクも知らないし、どうしようかな……」
「しらみ潰しに探すっきゃねーか」
「そんなの時間かかりすぎるでしょ、馬鹿フィリー」
「じゃあどうすんだよ、単純女」
「うるさい、この脳筋」
「脳までお花畑女に言われたくねーよ」
「だ、だれがお花畑だ!」
「あーはいはい! こんなところで喧嘩しないのー!」
エアの制止を無視してにらみ合う私たち。そしてそれを見て笑うテトラ。
「本当に、あなた達仲がいいのね」
「「良くない!」」
私とフィリーのステレオにも動じない。
「
テトラに抱かれていた
ふわふわと浮かび、テーブルに広げられた地図の一点に降り立つ。
「え、もしかして……」
「に!」
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