幕間  『王子』

【幕間④】


――クラウディアとホルマが対峙する約二日前――


「ねえ、ちゃんと返してよ。傷付けないでよ!? 僕の首が飛んじゃうんだからね」


「鳥一匹で飛ぶ首ならそれまでだったということだ」


「不吉な事言わないでよ!」

 趣味の悪い色に染められた鶏馬ルロに跨がる俺の裾を掴み、懇願するエメット。

 俺の前にはガラハドが跨がっていて、手綱を握っている。


 通信石からのエスタール陥落の報を受け、俺とガラハドは急遽エスタールに戻るため、準備を進めていた。


 そこで問題なのは距離だ。普通に馬車で戻ろうと思ったら五日もかかってしまう。

 斥候からの報告によれば、領主一家が捕らえられ、拷問を受けているとのことだった。五日も悠長にはしていられない。


 そこで考えついたのが、エメットが『美味しそうな太股』と評価していた鶏馬ルロの存在だった。

 折角ターンブルから良い鳥をいただいたんだ。それを利用しない手はない。と、“お願い”したわけだ。


 エメットがしきりに『横暴だ!』『王権乱用だ!』と叫んでいたが気にしない。こっちは人の命がかかっているんだ。『教会』の人間なんだから協力してもバチはあたらないだろう。


「領主殿らも無事だと良いのですが」

 猛スピードで南下を続けながら、ガラハドが言う。


「……攻め込まれた際の策は用意している。帝国がエスタールを陥落するのに時間がかからなかった事こそが、思惑通りに進んでいるということだ。……領主らが捕らえられたのは誤算だったけどな」

 旧王朝家の人間や民衆には有事の際、どうすれば良いのかは伝えてある。


 城塞も無い、城壁も無いじゃ、抵抗したところでたかが知れている。ならばいっそ一旦は国全部を明け渡してしまった方が良い。


 エスタール公国の強みは田舎国家であることだ。

 帝国は碌な抵抗をしないエスタールに何の違和感も覚えないだろう。


 『やはり田舎か。たかが知れている』そう高をくくっているに違いない。

 簡単に見つからないよう壕を作ってあるので、一度はそこに逃げ込み油断したところで様々な策により一網打尽にするという計画だ。


 帝国も田舎を攻めるのに大それた軍は用意しないだろう。精々多くても一レギオン程度の筈だ。ならば事前に用意しておいた策で事足りる筈だ。

 民衆の避難訓練もバッチリ済ませてあるし、個々の力は弱いわけじゃ無い。元々、『働く人』から『戦う人』に変わる能力は持っている。



 策も、民衆も上手く動いてくれるといいが……。


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