新人政治官の楽しい休日1
仕事終わったよー。
今日こそルリ焼きの老舗ムギットでルリ焼き食べるんだ。
観光ガイド片手に私はウキウキ寮を出た。
王宮で暮らしてるのに王都に出るのは就職以来初めてだ。
えーとまずムギットでルリ焼きを食べて……ファレアーノで私服も見たいなぁ……あとはっと……
「やっと、王都に出たよ、観光しよう」
私はうきうきしていた。
就職いらい、忙しすぎて休日は寮の部屋で冬眠しててロバータさんにせめて食事に来なさいと端末で呼び出される日々。
ああ、自分を誉めてあげたい。
「憧れのムギット……うちの地方のルリの実使用だよね」
父さんが端正こめてつくったのかもしれない。
店頭にはしっかりケエラリル産ルリの実使用って書いてあるのぼりがひるがえっていた。
父さん、うちの地方のルリの実が王都の老舗で使われてるよ。
自動ドアから入るとさすが老舗で本店の木造の建物は古色をまといながらも磨き上げられ美しい。
イートインコーナーのテーブルも一枚板のテーブルで迫力がちがう。
カウンターの向こうで店主さん? が鉄板に向かってるのが見えた。
「へい、いらっしゃーい」
ムギットの白抜き文字が入った蒼いルリ染めのバンダナを被った店主さん? が笑った。
「ルリ焼き、チーズソースを一つ」
私はカウンターに近づいて注文した。
ああ、憧れのムギットのルリ焼き。
ルリ焼きは種を抜いたルリの実を丸々1ついれて小麦の皮で包んで焼いた軽食でソースで味の変化をつけます。
かつてのルリ農家の農繁期の食事が伝わって変化したってきいてるしそれに類するモンは農繁期に食べたけど……こんなに凝ってないよ。
「リカちゃんは? 」
店主さんが後ろに視線を向けた。
リカちゃん?
まさか……はは、まさかね。
休日まで残念王子と行動をともにしたくないよ。
「じゃあ、飴がけでお願いします」
聞きなれた声が後ろから聞こえて恐る恐る振り向きかけると銀の髪が見えてすぐにまた前に振り返った。
「相変わらず甘党だね」
店主さんがくぼみのある鉄板に生地を流し込みながら笑った。
ルリ焼きの飴がけなんてきいたことがないよ。
や、やっぱりー休日も一緒か……
「おや、セレさん、奇遇ですね」
白々しく残念王子が言いやがった。
なんかすごく嬉しそうなんですけどね。
「リカ王子……」
「一緒にたべましょう、ルリジュースおごりますよ」
残念王子殿下が微笑んだ。
普段着のシャツにジーンズでさえ麗しいんだけど残念感満載だよね。
銀の長い髪は無造作にひとつ結びだ。
「リカちゃんは、紫だよね、お客さんは? 」
店主さんがルリ焼きの上にチーズソースがかかったのとたっぷり水飴がかかったのを青い紙カップに入れて出した。
「緑がいいです」
私は思わず言った。
ルリジュースはルリの実の果汁のジュースだ。
味に種類があって。
青が甘さと酸味のバランスのとれたスタンダード。
緑が甘さ控えめの爽やか系。
黄色が酸味が多い酸っぱい系
赤が野生の風味の辛い系
紫は甘さが大分まさるスイート系だ。
ブルー・ルリーナ人は案外、それにこだわっている人が多く何をのむかきめている人が多い。
私もいつも緑だ。
リカ王子はやっぱりいつも紫の甘い系らしい。
ハイよ~とジューサーから紙コップにジュースが注がれる。
ルリ焼きと一緒にトレーに置かれたそれを持とうとするとリカ王子がさり気なく持ってテーブルに置いた。
「セレさんここでいいですか? 」
ハイと返事をして座った。
「あとは、真王様が来るのを待つばかりですね」
「そうですね」
麗しい残念王子が私の目を見た。
真王様とは世界が選んだ真なる王という意味で最近は世界が平和になりますように祈る系の人が多いらしい。
領土は持たないけどある意味世界中が領土の真王陛下がもうすぐブルールリーナにやって来るので大変忙しいんだよね。
そんなことを思いながら優雅に残念王子が飲んでるジュースを見て思わず心の中で突っ込んだ。
紫ルリジュースになんでガムシロップがついてるの?
それ普通に入れてるし。
「リカ王子も休日ですか? 」
私は爽やかな緑ルリジュースを飲みながら聞いた。
「……まあ、そうですね、セレさんは観光ですよね、是非案内させてください。
」
リカ王子がガムシロップ入りの激甘だろう紫のジュースを普通に飲んでる。
この激甘党男子〜と思いながらガイドブックを見えるように出した。
るり色スイーツ大特集♥とかパワースポット星見の塔☆とか書かれている。
「ガイドブックがあるので大丈夫です」
「デートしましょう、裏道抜け道バッチリですよ、いつかの約束通り
表面上は麗しい王子がルリ焼き飴がけを楊枝に刺した。
なんで、デートせにゃならないのさ。
でもこの間の
食事の約束なんて忘れてたよ。
ルリ焼きとジュースを飲んだあと逃げようと立ち上がったら残念王子も立ち上がった。
お断りします〜という私を良いんですよ〜と言うリカ王子が手を握って華麗? にエスコートしてくれた。
リカちゃんほどほどにしないとふられるぞとムギットの店主さんが言ってるのを聞きながら店をでて本当に裏道抜け道を通って目的地に来ちまったよ。
緑鷲亭は有名な老舗のホテルだ。
たしかに私なんて外からみるんがせいぜい
だけど……あの看板の上の緑色の鷲の置物とか屋根の緑色の鷲のペイントってすごいです。
エントランスからなれた様子でリカ王子が私をレストランに引っ張っていった。
従業員に声をかけると緑の鷲モチーフの彫刻が施されたインテリアのレストランの個室に案内された。
「何よ、あんた、また職場の子引っ張り回してるの? 」
ゴージャスな美女がアイスティーを飲みながら足組して椅子に座っている。
あのたてロールの銀髪の毛どうなっているんだろう?
ボンキュボンという感じのナイスバディを紺のワンピースで包んでいる。
「なに、いってるんですか、あなたがラズレイタに嫁ぐからこんなことになってるんですよ」
リカ王子が憂いの眼差しらしきものを女性に向けた。
ラズレイタかぁ……確か何年か前から交易港がひらかれたところだよね。
「リカ王子と旦那なら、瞬間で旦那を選ぶわよ」
「ピアリさん、ひどいです」
リカ王子が目元をぬぐった。
わ〜嘘なきくさい……
ピアリさん? は冷ややかな眼差しでリカ王子をみてアイスティーを飲んだ。
「特に今のところ問題はないわ、海賊も出てないし、あなたもリカに振り回されてないで嫌ならいやとはっきり断りなさい」
ピアリさんが私を見た。
断れるもんなら断ってますよ。
仕事だし……そういや今日は違うな……なんで私、断らないんだろう。
「わかりました、全力でセレさんを落として見せます」
何故か、リカ王子が反応して甘やかに笑った。
ええ? 良いよ、職場で見るだけで充分だよ。
鑑賞用残念王子殿下だと思ってるもん。
「嫌そうな顔してるわよ」
ピアリさんが私をみてリカ王子を軽くにらんだ。
「セレさん? 」
リカ王子が優しく私を呼んだ。
わー、こう言う声も出せるんだね。
いい声だなぁ……残念王子殿下ぷり以外が色々ハイスペックなんだよね。
これ以上惑わされちゃいけない。
「お邪魔そうですし帰りますね」
邪魔そうだし……失恋相手ってこの人かな?
私は立ち上がろうとした。
「大空の輝きコース頼んであります」
リカ王子が私の腕をがっしりと捕まえた。
逃がさへんでーって感じですか?
はなしてくださーい〜 見捨てるんですか?
と私とリカ王子がやり取りしているとうふふふっと笑い声がした。
「私、帰るわね」
仲いいようねと笑いながらピアリさんが伝票を持って立ち上がった。
また会いましょうね、リカの恋人さんと手を振ってピアリさんが出ていった。
後で先輩たちに聞いた話によるとピアリさんはリカ王子のハトコでやっぱり失恋した相手らしい。
時々、ラズレイタの交易品の状態とか海賊の様子をピアリさんから聞いて色々手配してるらしい。
まだ新しい交易港だから色々大変らしい。
リカ王子はまたと手をふってた。ピアリさんの事、今でも愛してるのかな?
なんかズキッとしたけど……
「セレさん、食事がきたみたいです」
リカ王子の声に目を向けると三皿の前菜が乗ったワゴンが入ってきた。
「さ、三人分」
「二人で三人前だから大丈夫ですよ」
リカ王子がフォークをわたしてくれた。
緑鷲亭の大空の輝きコース恐ろしいかったです。
ええ、昼から前菜5種にメイン2種にデザート盛り合わせってなに? 量も多いし。
自家製パンまで手が回らないよー。
美味しそうだったのに〜。
もう一人前はほとんどリカ王子に押し付けました。
甘党王子は追加のスイーツが食べられないってぼやいていました。
知りませんよ、帰りなんて、肩ダカレテ連行されたよ。
噂が立ったらどうするのさ。
残念王子でも麗しいから結構ファンとかいるんだよね。
変な手紙来たら怖いよ〜。
父さん……休みまで残念王子にふりまわされたよ。
私の貴重な休み返して~。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます