第80話『隊員100人できるかな?』

 なんだかよくわからんが、ギルドが用意した緊急の高速馬車で俺たちは帝都アメディアへ来ることになった。


 センテオスク帝国の首都だけあって、かなり栄えているな。


 前回SSランク認定の際にここにある冒険者ギルド本部に顔は出したんだったな。


 それ以外あんまり大事な用事がなかったんで、有名なお店を2~3軒回ったぐらいだったか。


 

 一旦駅についた俺たちは、さらに街中を走れる小型の馬車に乗り換える。


 帝城へ行く前に冒険者ギルド本部に寄り、そこで本部ギルドマスターが合流した。


「お初にお目にかかる。ギルドマスターのレオポルドと申す」


 小型馬車に乗り込んできたのは本部ギルドマスターのレオポルドさん。


 この人はもとSランク冒険者で、今は引退している。


 レオポルドさんは年老いた獅子獣人だ。


 老人ではあるんだが、俺なんかよりは全然ガッチリした体格で、たぶん今でも相当強いと思う。


 一応前回も会ってはいるんだが、今回は初対面だな。


「ども、はじめましてショウスケです」


「妻のデルフィーヌです」


 しかし、一体なんだって皇帝に呼び出されにゃならんのだろう?


「あの、今回の呼び出しって……?」


「うむ。未踏破の深淵のダンジョンを攻略したことが大きいな」


「でも、実際に攻略したのは俺じゃなくてエリックのじいさんですよ?」


「おそらくだが、そっちが本命かもしれんな」


「本命?」


「ああ、陛下はエリック・エイタスの大ファンだからな。いろいろ聞かれるかもしれんぞ?」


「あの変人について語ることなんて無いんですけどねぇ」


「まぁ聞かれたことに答えておればいい。礼儀作法については気にすることはないからな」


「あ、そうなんすか? 実はちょっと気にしてたんですよねぇ」


「一応冒険者ギルドは超国家組織だからな……、というのは建前で、実際のところは冒険者などという連中に礼儀作法を求めても無駄だろうといところかな」


「なるほどー」


 とまぁ、そんな感じでグダグダと話している内に帝城に到着した。



**********



「深淵のダンジョン攻略、大儀であった」


 特に問題なく謁見は行われている。


 一応近衛兵やら大臣ぽい人たちやらいろんな人はいるが、皇帝は気安い感じで話しかけてくれている。


 俺とデルフィ、そしてギルドマスターのレオポルドさんは一応跪いている格好だが、あんま堅苦しい雰囲気じゃないのは助かるな。


 玉座に座る皇帝は、見たところ俺と同年代らしく、思ってたより随分若い。


 名前はアルバートとか何とかいったかな。


 正直あんま興味ないんだけどね。


 いろいろ儀礼的なやり取りの後、俺とデルフィのSランク冒険者へのランクアップが行われた。


 これがあるからギルドマスターが呼ばれてたんだな。


「よし、堅苦しいのはここまでだ。楽にしてくれ」


 皇帝がそう宣言すると、ささっと椅子が用意されたのでとりあえず俺とデルフィが皇帝の正面に並んで座り、ギルドマスターは俺たちと皇帝の間ぐらいの、ちょっとずれた辺りに座った。


 いやホント、気安い感じだな。


 まぁ玉座は俺達がいる場所より高い位置にあるし、10m以上離れてるんだけどね。


 それでも普通の声で話せば会話ができるような仕掛けがあるらしい。


「してキョウスケよ。お主本当にあのエリック・エイタスに会ったのか?」


「はい。彼は行方不明になったとされる10年前にはすでに最奥部に到達し、ダンジョンコアの居室に居座っていたようですね」


 ダンジョンコアの居室でのことを簡単に説明する。


「ふむう、つまりかのエリック・エイタスはダンジョンコアの不可解な設備を使いこなしていたというわけだな?」


「まぁ、そんな感じです」


「さすがエリック・エイタス!! その奇特なところが面白いのよなぁ」


 と、皇帝が嬉しそうに手を叩いて喜ぶ。


 この人本当にあのエリックじいさんが好きなんだなぁ。


 なら、もしかすると俺の役に立ってくれるかもしれん。


「陛下、薔薇の戦士連隊をご存知で?」


「おう、もちろんだとも!!」


「実はこの度その薔薇の戦士連隊の連隊長代理を任されまして」


「なんと!? あれは確かエリック・エイタス本人以外は入隊できないはずではないか!!」


「しかしそこはエリック・エイタス。彼の気分次第で規約なんぞはいくらでも変わるとは思いませんか?」


「うーむ、確かに……」


「そしてエリック連隊長より、隊員任命権を与えられました」


「なに?」


 すると皇帝は驚きつつも興味深気な表情で玉座から腰を浮かせる。


 そこで宰相っぽい人がたしなめるように咳払いをすると、皇帝はそちらをチラッと見たあと、少し落ちつきを取り戻し、玉座に座り直した。


「して、新たに任命した者はいるのか?」


「いえ。エリック連隊長から、まずは100名の隊員を集めよと指示を受けたのですが、残念ながら機会がなく……」


 そこでまた皇帝がソワソワし始める。


「つまり、まだ新たな隊員は……連隊長代理以外の隊員第一号は任命されておらぬわけだな?」


 再び皇帝の腰が玉座から浮く。


 顔にはこらえきれない期待の笑みが張り付いている。


 宰相っぽい人も軽く咳払いするが、皇帝はあえて無視したようで、宰相っぽい人は呆れたようにため息を吐いた。


 うん、たぶんいけるな、コレ。


「仰るとおり。そこで陛下、よろしければ我らが薔薇の戦士連隊へ入隊されませんか?」


 皇帝陛下、待ってましたとばかりの笑みを浮かべ、宰相っぽい人は「いらんでええこと言うなや」と言わんばかりの呆れ&怒りの形相でこちらを見てくる。


 ギルドマスターは平静を装ってるけど冷や汗がダラダラ流れてます。


「もちろん陛下を平隊員として迎え、俺やエリックの下につけるわけにはいきませので、名誉隊員という形でいかがかと……?」


 宰相っぽい人の顔から怒りが薄れ、逆に呆れ要素が増える。


 ギルドマスターの冷や汗はちょっと止まったみたいだし、大丈夫かな。


「そうか、名誉隊員か。それはいい考えだ。のう? よいな!?」


 と皇帝が宰相っぽい人に語りかける。


 宰相っぽい人は軽くため息をつき、「ご随意に」とつぶやいた。


「して、どうすれば入隊できるのだ?」


「陛下の手を握らねばなりません」


 そう言いつつ俺は立ち上がり、ギルドマスターと宰相っぽい人に視線を送った後、皇帝に向かってゆっくり歩く。


 ギルドマスターはうなずいて立ち上がり、俺の後ろにピッタリとつく。


 宰相っぽい人は近衛兵に視線で指示をだし、それを受けた近衛兵2人が俺と皇帝の間に立つ。


「おいおい、物々しいな。どかんか」


 と皇帝は近衛兵に命令するも、近衛兵はピクリともせず。


「ああ、握手さえ出来ればいいですから、このままで大丈夫ですよ」


 本来俺みたいな一介の冒険者が神聖不可侵の皇帝陛下に触れるなんぞ不敬の極みなんだろうが、皇帝本人が望んでるんだから、まあいいんだろう。


「ふむう……」


 少し不満気だったが、皇帝は近衛兵の間から手だけを出してきたので、俺はその手を取り<薔薇の戦士連隊・隊員任命権>を発動。


「むっ……?」


 お、皇帝の名前が隊員に追加されたな。


 ちなみに名誉隊員なんてシステムはないので皇帝だろうが平隊員だけどね。


 確認しようもないから別にいいんだけどね。


 任命完了を確認した俺は、皇帝の手を離した。


「手のひらに薔薇の形の痣が出来ておりませんか?」


「……おお! 出来ておるぞ!!」


「それが薔薇の戦士連隊・隊員の証です」


 それだけじゃああれなんで、なんかスキルレベル上げといたろ。


 皇帝っぽいもの……お、<統率>ってのがあるな。


 レベル2? 低すぎやしねぇかい?


 所有SPが意外と多いのは、皇帝の職務でもSPが溜まるってことかな?


 とりあえず<統率>レベル5ぐらいまで上げておこう。


「ん!? なにやらいま天啓が降りてきたような……」


「はい。どうやら薔薇の戦士連隊に入ると、天啓を得られやすくなるようですね」


「うーむ、さすがはエリック・エイタス!!」


 ま、それは俺の……いやお稲荷さんの力だけどね。


 エリックじいさんの能力ってことにしておいたほうが良さそうだ。


「さて、ギルドマスターとそちらのお大臣さまもいかがです?」


 とりあえず偉い人はこっち側につけておきたいからな。


「おう! それはよいぞ!! ただし、2人は平隊員だぞ?」


「もちろんです。名誉隊員は皇帝陛下ただお一人ということになりますかね」


「うむ! うむ!!」


 嬉しそうにしてるけどアンタも平隊員だよ。


 とりあえずギルドマスターと宰相っぽい人も入隊してもらった。


 2人とも<統率>を持ってたけど、宰相っぽい人がLv6でギルドマスターはLv4と、国のトップである皇帝よりレベルが高いんでやんの。


 たぶんこの宰相っぽい人が実質国を動かしてるんだろうな。


 とりあえず2人ともそれぞれLv1ずつアップ。


 あと、案の定というかなんというか<精神耐性>も持ってたので、それぞれLv2ずつ上げておいた。


 少しでもストレスが減りますように……。



 一旦席に戻る。


「ではショウスケよ。余を名誉隊員としてくれた礼に、なにか褒美を取らせてやりたいのだが、望みはあるか?」


「そうですねぇ……。例えばなんですが、陛下が現在稼働中のダンジョンコア停止を命じれば、それは実現しますでしょうか?」


「うーむ……、一応命令を出せなくはないが、それを州牧とダンジョン協会が聞くかどうかは別の話だな。ダンジョンの運営は州牧とダンジョン協会が取り仕切っておるのでな」


「そうですか……」


「ん? もしやそれが望みか? であれば勅命を下せばあるいは……」


「陛下!!」


 宰相っぽい人が皇帝を窘める。


 うん、勅命とかそういう物騒なのはナシだな。


 だったら州牧やダンジョン協会の偉いさんを取り込んだほうが早い。


「ああ、すいません。ちょっと興味本位で聞いてみただけなんで。失礼しました」


「そ、そうか。うむ。で、なにか望みはあるか?」


「そうですね……。では再び帝城を訪れた際、もう一度謁見して頂けますか?」


「ふむ。出来るだけ希望には添おう。しかし余も暇人ではないのでな。場合によっては会えんかもしれぬが良いか?」


「では日時を決めておきましょうか。賢歴572年6月23日、再び帝城を訪れます」


 そこでどよめきが起こる。


 ま、そりゃそうだよな。


「待て待て。賢歴573年の間違いではないか?」


「いいえ、572年であっています」


「572年の6月なんぞはとっくに過ぎておるぞ?」


「そうですね。でも薔薇の戦士連隊らしくて面白くないですか?」


「ふむう、確かに」


「もし572年の6月22日がもう一度来たら、次の日には俺と妻のデルフィーヌが的盧馬のスレイプニルに乗って帝都を訪れますので、上手いこと便宜を図ってくださいよ」


「ふむふむ、なかなかに面白い望みだな。よろしい、もしお主の言うとおりになったら何よりもショウスケとの謁見を優先しようではないか。はっはっは」


 なにやら皇帝は楽しげに笑ってるわ。


「ありがとうございます」


 たぶん皇帝はこれをただの悪ふざけか言葉遊びか何かだと思ってんだろうけど、実際時間が巻き戻ったらどんな顔するんだろうね。



 余談だけど、デルフィがずっと空気だったのは完全に寝てたから。


 俺の幻魔法を使って神妙な表情で話を聞いてるように見せかけてたけどね。


 デルフィは薔薇の戦士連隊にも皇帝にも全く興味が無いとの事だった。


 本人はサボる気満々だったけど、さすがにそれは不味いだろうと思って、寝てていいとう条件で同行してもらった。


 正直いえば皇帝とのやり取りよりデルフィのことがバレないかどうかで緊張してたんだけど、そもそもエルフってのはああいう場所では結構だらしないらしく、「エルフなのに神妙にしてて偉かったね」なんてお褒めの言葉頂いちゃったよ。


 どうやらエルフという種族は”権威”というものに対してものすごく無頓着らしい。


 これならサボらせても良かったのかな……?

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