第二章【ダンジョンへ行こう】

第25話『基礎戦闘訓練』

 翌日、俺はいよいよあれを申し込むことにした。


「お、ショウスケくん。昨日はなんかゆっくりしてたみたいだね」


「ええ。おかげさまでいい休日になりましたよ」


 お稲荷さんのせいでいい気分も台無しだけどな。


「フェデーレさん。あれを受けてみようと思うんですが」


「あれ?」


「基礎戦闘訓練ってやつ」


「おお! その気になってくれた? いやぁ嬉しいよ! こないだは運良く生き延びれたけど、今後も運だよりじゃ怖いもんね」


「そっすね」


 まあ、運だよりっつーか加護だよりなんだけどさ。


「希望武器はどうする? 一通り試すのか、それとも普段使ってる槍を重点的に鍛えるのか、別の武器を試すのか」


「えーっと、できれば剣を……」


 目指せ、魔法剣士!! だからな。


「剣ね。じゃあ、剣の種類はどうする? 希望によって教官がかわるんだよね。剣術全般試すのか、特定の剣を試すのか」


 前にも考えてたけど、そろーっと近づいてブスリと刺すのが向いてると思うんだよね、俺には。


「レイピアで」


「オッケー。じゃあ基礎戦闘訓練の細剣術習得希望ってことで受け付けとくね。えーっと……、教官の都合で明後日になるけど大丈夫?」


「はい」


 じゃあ今日明日でランクアップしとくか。


「支払いは……」


「ローンで」



**********



 その日と翌日は青銅の槍と薬草採取キットを借りて、いつものように依頼をこなした。


 おかげで、ジャイアントラビット狩りはノルマを達成し、Fランク冒険者へ昇格。


 各ギルドへの返済も順調に進んでいる。


 そういや仕事中に何回かデルフィーヌさん見かけたな。


 声はかけなかったけど。



 そして、訓練初日。


 指定された二刻半(午前5時)に冒険者ギルドの訓練場に向かう。


 場所は冒険者ギルドの地下3階。


 はっきり言おう、めちゃくちゃ広い。


 なんでも冒険者ギルドの敷地だけじゃなく、魔術師ギルトと治療士ギルドの敷地にもまたがっているらしい。


 治療士ギルドとは道を挟んでいるので、その街道の下にも訓練場は延びているわけだ。


 朝早い時間だが、何人もの冒険者が訓練に励んでいる。


 俺は『基礎戦闘訓練受講者はこちら』という案内に沿って進んでいった。


 何人かの男女が少し離れて立っている。


 それぞれ持っている武器が違っており、おそらくは彼らが教官なのだろう。


 この日は大剣、長剣、槌、槍、そして細剣の教官がいるみたいだ。


 俺以外にも到着している人がおり、すでに列に並んでいる。


 ほぼ同時に到着したり、後から来た者も各々希望する武器の教官の前に並んでいく。


 さて、持っている武器である程度判別出来るんだが、長剣と細剣は見極めが難しいな。


 1人は男性で1人は女性。


 俺と同じようにどっちに並ぼうかオロオロしてる人が何人かいたんだが、それに気付いた男性の方が手を挙げる。


「えー、長剣術希望の人はこっち、細剣術の人は彼女の方に並んでくれ」


 ってことで俺は女性の方に並んだ。



 紅毛碧眼っていうんですかね?


 いわゆるファンタジー的な赤毛じゃなく、元の世界で言うところのクセのある赤毛を肩の辺りまで伸ばしてて、目は深い青、身長は俺と同じかちょい低いぐらいだから170cm程度かな。


 背筋がピンっと伸びてて、宝塚の男役みたいな感じだな、この教官。


 全身鎧とかが似合いそうだが、この日は胸当てと籠手だけつけてたわ。


 彼女含め教官全員がバインダーみたいなの持ってるけど、あれは名簿か何かかな?


 俺が列の先頭だったんだが、俺の他にあと3人並んでた。



「私は細剣術教官のカーリーだ」


 教官が自己紹介を始める。


 同じタイミングで他の教官も自己紹介を始めたようだ。


 長剣のところは10人ぐらいいるな。


 大剣とか槍でも5人以上はいるみたいだ。


 槌が意外と人気高くて、えーっと8人いるな。


 後で知ったんだが、槌は刃物系の武器と違ってメンテナンスが格段に楽だし、刃こぼれや血糊で威力が落ちるということもないので、意外と人気なんだそうな。


 とはいえ刃物系のその辺りの欠点も魔術でカバー出来るみたいだけどね。


 話はそれたが俺のいる細剣術が一番人気がないってことが言いたかったわけ。


「では点呼を取る」


 そこでカーリー教官は一旦バインダーに目を落とす。


「ショウスケ」


 お、いきなり俺か?


「はい」


 返事だけでいいよな?


「ダリル」


 俺の後ろにいた育ちの良さそうな金髪の青年が一歩踏み出し、胸に手を当てて軽くお辞儀する。


「お初にお目にかかります。私、ラザフォード男爵家の三男、ダリル・ラザフォードと--」


「返事だけでいい。次、アルダベルト」


 口上を途中で遮られた男爵家の坊っちゃんは、一瞬鼻白んだが、すぐに余裕の笑みをたたえたまま、列に戻った。


「あ……えーっと、アルダベルトっす」


 アルダベルトという人は、たぶん犬獣人かな。


 けっこうガッチリした体格で、背は俺より低いかも。


「最後、ジータ」


「はい」


 ジータさんは長身の女性で、この人も獣人だな。


 猫っぽいんだが、なんかちょっと違うような……。


 ギルド受付のエレナさんと比べると、この人のほうが背も高いし、筋肉もなんかしっかりしてる感じがするんだよ。


 あと髪の毛とか、体毛とかは真っ黒で艶があってすげー綺麗。


 もしかすると黒豹とかそんなん?


「よし。この中で細剣術専門はショウスケとジータ、後の2人は剣術全般を希望でいいか」


「ええ」


「うっす」


 返事をしたのはダリルとアルダベルト。


「では早速だが、現在の身体能力を見る。まずは訓練場の壁沿いを全力で走れ」


 その後俺たちは、2時間ぐらい走ったり跳んだりいろいろやらされた。


 俺はダントツで体力なかったよ……。


 獣人の2人はともかく、男爵家の坊っちゃんとかひ弱そうなのに結構体力あんのな。


 最終的に気絶寸前でぶっ倒れたんだが、ちょっと休憩したら元気になったわ。


「この訓練場には回復魔術が施されている。訓練場内の疲労や怪我はすぐに回復するからな」


 マジか……。


 いや、疲労は回復したんだけど、精神的な疲れがさ……。


「さて、君らの基礎体力はなんとなくわかった。では早速だが型をいくつか覚えてもらおう」


 俺たちはカーリー教官から訓練用のレイピアを受け取る。


「あのぉ、ちょっといいっすか?」


 犬獣人のアルダベルトが手を挙げる


「なんだ?」


「型っちゅうのは覚えにゃイカンのっすか? オラとしては実践形式でバシバシやってくれたほうがありがたいんすけど」


「馬鹿か君は?」


 アルダベルトの言葉にダリルが反応する。


「武術は型に始まり型に終わる。型も覚えず何をもって武術の習得とするんだい?」


「いやぁ、実戦で戦えればそれでいいっしょ?」


「あのねぇ、その実戦でまともに戦うために必要な技術が型なんだろうに」


 カーリー教官が片手を上げて2人を制する。


「ふむ。世の中には型を覚える必要はないと思っている者は多くいるようで、私もそういった質問を時々受ける。で、アルダベルトは型など不要というわけだな?」


「へい。強い人と闘って感覚をつかめれば充分だと思うっす」


「では、ダリル。君はなぜ方が必要だと?」


「いえ、そんなの常識でしょう? むしろ何故不要と思えるのか理解できない」


「そうか。ジータ、君はどう思う?」


「……よくわかりません。それを学ぶためにここへ来ているのだと思います」


「なるほど、殊勝な心がけだな。ではショウスケ」


 あ~、流れ的に来ると思ったけど、やっぱ来たな。


 俺的にはとりあえず型でもなんでも教えてくれたら真面目にやりますよ~って感じなんだけど。


 まぁ適当に答えとこう。


「えーっとですね。型ってのは先人の叡智だと思うんですね」


「ほう」


「実戦っつってもいろんなシチュエーションがあると思うんですよ。で、考えられるいろんなシチュエーションに対応するために型ってのがあるんじゃないかなーっと思っています」


「ふむ。なかなかいい答えだ」


 おお、適当に言ったら褒められた。


 いろんな格闘漫画の知識を適当にミックスしただけなんだけどさ。


「型と聞くと、どうしても自由を奪うようなイメージを持たれるが、実際は逆だ。型を覚えずに実戦のみで鍛えていると、自分の思考や体の動きの範囲内で行動が制限される。しかし型というのはそれこそ数百年という歴史とそれに関わる膨大な数の先人が残した知識の宝庫だ。自分からは出てこないような動き、それに伴う思考を身につけることで、より自由に闘うことができるようになる、と私は思っている」


「はぁ……、そんなもんっすかね」


 アルダベルトはまだ納得できてないようだな。


「まあ、君たちが何を望んでいるから知らんが、私の元で学ぶ以上、私のやり方に従ってもらう。嫌なら後日自己流にでも改変してくれたまえ」


 ちょっとした問答はあったが、ようやく型の練習を始められそうだ。


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