第24話『再会』

 休日を堪能して早めに寝た俺だったが、気が付くと真っ白な空間にいた。


(あれ? ここは……)


「久しぶりじゃの」


 狐のお面を被った着物姿の女の子、すなわち”お稲荷さま”がいた。


「あ、ども」


「油揚げのお供えとは殊勝な心がけじゃの」


「ええ、まあ。たまたま見つけたんで」


「ふむ。さて、どうやら調子は良さそうじゃの」


「そっすね。俺ってばやればできる子だったみたいで」


 よくヒキニートが「俺はやれば出来るけどまだ本気出してないだけ」って言い訳するけど、正直俺はそんなこと思ってなかった。


 俺は本気出してもまともに生きられないだろうと思ってたんだよな。


 だからおとなしく引きこもってたわけだが、人間追いつめられるとなんとかなるもんだ。


 そんな俺が今じゃ毎日働き詰めだもんな。


 しかも昨日なんて命がけで人助けしたんだぜ?


「アホは死なねば治らんというが、お主は何べん死んだかのう?」


「う……」


 そっか、俺って何回も死んでるんだった。


 つまり、元の世界でヒキニートやってた俺がいくら一念発起しても、今のようにマトモな生活が送れたかどうか微妙なんだよな。


 なんだかんだチート能力の影響もでかいと思うわ。


「まあ、それでも元気でやっとるならええわい。加護も役に立っとるようじゃしな」


「あー、この加護って呪いじゃねっすか?」


「自分の無能を棚に上げて人に当たるな。何度死んでもやり直せるということがどれほどありがたいことか、ちゃんと理解せんかこのバチ当たりモンが」


「まあ確かに助かってはいますけど、最初はマジで嫌だったんですよ? 心が折れたらどうするんですか?」


「じゃから<恐怖耐性>を覚えたじゃろうが。それで心が多少壊れようとも<精神耐性>を覚えていずれ復活するようになっておる」


「ぎゃー!! なんつー鬼畜仕様!! あきらめたらそこで試合終了にしてくれよぅ」


「ダメじゃ。最初に言うたじゃろ? ワシゃ容赦なぞせんよ。お主が目的を達するまで何度でも繰り返すのじゃ」


 おう……どこぞの死神みたいな台詞じゃねーか。


「……まあお陰で今はそこそこ充実してるけどさ。ところで元の世界の俺の体ってどうなってんの?」


「まだ祠の前に転がっとるわい」


「えー!? もう半月以上たってんのに!?」


「心配するな。そちらとこちらでは時間の流れが異なるでの。まだ何時間もたっとらんわ。そろそろ誰かが見つけて救急車でも呼んでくれるじゃろ」


「なんか扱い悪ーい。そっちの体が死んだらどうすんのさ?」


「心配するな。ワシがちゃんと守ってやるでの。お主は元の世界のことは気にせずそっちで頑張るのじゃ」


「うう……。まあ頑張るけどさ。でもこの先大丈夫かねぇ?」


「ワシの加護とワシが作った身体があるんじゃから、なんとかなるはずじゃよ」


「あ、この体ってやっぱ特別製なの?」


「普通は魂と肉体の間に多少のズレがあるもんじゃがな。その体に関してはシンクロ率100%じゃよ。初期性能は元のままじゃが、成長率は格段に上がっとるはずじゃ」


「え、そうなの? なんかチートっぽい能力なかったけどなぁ」


「アホぬかせ。一晩魔力操作の練習しただけで魔法を習得できるなんぞ、天才レベルじゃわい。魂と肉体のシンクロ率が高いということはじゃな、思ったことを実現する能力が高いということなんじゃ。普通はそうなるまでに相当な鍛錬が必要なんじゃぞ?」


 ああ、そういや一流のアスリートとか音楽家なんかがそんなこと言ってたの、テレビで見たなぁ。


 確かに、思い通りに体が動くなら、蹴飛ばそうとしたものスカして転んで頭打って死にかける、なんてこともないよなぁ……。


「そこに加護による成長補正がついとるんじゃ。努力すればその分、望んだ方向に成長できるんじゃぞ?それがどれだけありがたいことか……」


「成長補正って、SP使って好きなスキル覚えられるやつ?」


「それもあるがの。ステータスに表示されん効果もあるのじゃよ。レベルアップであれスキル習得であれ普通の人よりも成長は早いはずじゃ」


「へええ、そりゃどうもありがとうございます」


 うん、そこはちゃんとお礼言っとこう。


「そういや気になってたんだけど、本来もらえる異世界基本パックって、<言語理解>のほかは<鑑定>と<アイテムボックス>かな?」


「なんかお主、さっきから馴れ馴れしくなっとらんか?」


「そう? 俺とお稲荷さんの仲じゃん!」


「……まあよい。そうじゃな。お主の言うとおりじゃ」


「でもさ、ステータス使ったら所持品とか装備品の詳細が見れるけど、あれって<鑑定>と何が違うの?」


「ぬ……?」


 あら、なんかお稲荷さんから「しまった!」的な雰囲気が出てるんだけど、お面の下はどんな表情なんだろ?


 もしかして、ステータスでの情報閲覧は予定外ってことか?


 これは今外されちゃかなわん!!


「あれっすか? お稲荷さまのせめてもの配慮ってやつっすか!? ですよねー? お稲荷さま、なんやかんやで寛大ですもんねー?」


「う……うむ、そじゃな。ワシの配慮によう気づいた。これからも活用するのじゃぞ」


 ほっ……。


「でもさぁ、実際基本パックマイナス2ぐらいじゃ、甘くね? とは思わんでもないんだけど。成長率もかなりいいみたいだしさ」


「ふむ。ちなみにじゃな、普通にこちらからの依頼で転移や転送を行う場合は<獲得経験値○倍>とか<獲得SP○倍>とか、<所要SP○分の1>とか、人外レベルのオマケがつくぞい」


「え……?」


「ちなみに平均で5倍、多ければ10倍ぐらいつくこともある。あとはそうじゃな、緊急性が高い場合は<状態異常無効>とか<全戦技LvMAX><全魔法LvMAX>みたいなのもあるぞ」


「おおう……」


「そうでもせんと個人の力で世界なんぞ救えるか」


「じゃあ俺はどうなんのさ!?」


「ま、頑張れ。少なくとも通常は死に戻りなんぞ付けんからな。普通は高い能力を与える代わりに死んだらおしまいなんじゃよ。お前さんは苦労する代わりに死んでもやり直せる、と。我ながらいいバチの当て方じゃな」


「ぶー!! 失敗したらどうすんだよ?」


「最終的ににっちもさっちもいかんようになったら強くてニューゲームじゃな」


「最初っからやり直しかよ!!」


「だから最初に言うたじゃろ? お主が世界を救うまでそれは終わらんとな」


「あ、だったら死に戻りの仕様ちょっと変えてくんない?」


「ほう、例えば?」


「そうだなぁ。今のオートセーブな感じはとりあえずありがたいんで、あとはスタート地点を2~3個増やして、手動で更新できるようにとか出来ない?」


「出来るぞい」


「マジで!? いやーこれで随分楽になるわ」


「ステータスを開いてみい」


「ほいほい、それで?」


「習得可能スキルを出してみい」


「あいよ。おー、相変わらず多いな」


「キーワード検索が出来るようになっておるでの。では”スタート地点”で検索かけてみい」


 検索? とりあえず念じてみればいいのかな……。


 お? 出たな。


「えーっと、<スタート地点更新方法切替>が5,000万ptで、<スタート地点追加>が1億ptね」


「ふむ。ちなみに<スタート地点追加>じゃが、2つ目の追加は2億、3つ目の追加が4億と追加するごとに必要ポイントは倍々で増えていくからの。スタート地点ごとに手動更新と自動更新を設定できるゆえ、お主の望み通りの仕様にすることは可能じゃな」


「おおお、すげーな。じゃあとりあえず2つぐらい追加してもらえる?」


「うむ。頑張ってポイントを貯めるんじゃな」


「は……?」


「じゃから、お主の望みを叶えたいんなら、頑張ってSPを貯めることじゃ」


「今すぐ仕様変更してくれるんじゃねーのかよ!?」


「ワシゃ出来るとは言うたがやるとは言うとらんぞ?」


「ぐぬぬ……」


 しょうがない。


 死に戻りがあるだけマシと考えるか……。


 まあそのうちSPインフレみたいなことになるかもしれんし、その時に考えよう。


 あ、そういや一番大事なこと聞いてなかったな。


「あのさ」


「おっと、時間のようじゃな。またそのうち会おう。お供え、忘れるなよ?」


「ちょ、待てよ!!」


「ふふふ、お主のような平凡顔には似合わんセリフじゃな。ではまたの」


「ああああ! チクショウ!!」


 お稲荷さん、消えちまったよ。


 ……結局世界を救うって何やりゃいいのかまだ聞いてねーや。



 その後も暇を見て何回か油揚げ供えてみたけど、お稲荷さんが出てくることはなかったから、お供えはすぐにやめた。


 出てこないくせに、供えた分はちゃっかり持っていくんだよなぁ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る