第4話『初めての街』
とりあえずひたすら小川沿いを歩いた。
理由は簡単、水確保のため。
食べ物は<毒耐性>を信じて時々草になってる実を食った。
木苺とかブルーベリーみたいなのがあり、結構美味かった。
いまのところ腹痛はない。
たまにステータスでHP確認してたけど、特に変化はないから飢え死にの心配はなさそう。
そんなこんなで日暮れ近くまで歩いたところで、やっとこさ見えてきたよ、街が。
たぶん、街だと思う。
まあまあ高い塀に囲まれてる場所があって、塀の向こうに建物の屋根っぽいのがちらほら見えるから、アレ絶対街でしょ。
小川から離れる形になるので、最後に水をがぶ飲みして、街に向かって歩き始めた。
20分ぐらい歩いたかな。
日が落ち始めると暗くなるのは早いね。
塀にたどり着いた時にはもうほとんど真っ暗だったよ。
塀沿いに5分ぐらい歩いたら、ようやく門らしきものが見えてきた。
で、門番らしい人が立ってたよ。
さて、話しかけれるかな、俺。
長いこと引きこもりやってて、コンビニ店員とすら目を合わせられなかったもんなぁ。
あー、なんかドキドキして……こないな。
あれ、意外と平静かも。
門番の人の格好、軽装鎧っていうんだっけ? 胸当てと手甲と金属ブーツだけ、みたいな。
遠目に見ると
俺よりちょい背が高いから、180センチぐらい?
まぁまぁイケメンだね。
「あのー、すいません」
お、ふつーに声かけれたよ。
「なに?」
うわー、なんかこの人ダルそうにしてんな。
「あの、森で迷ってしまって……。なんとか森を抜けてここまでたどり着いたんですが、どこか休めるところはないでしょうか」
「ふーん、森でね。ずいぶんボロボロだね」
「はぁ……」
「身分証は?」
「いえ、無いです……」
「お金は?」
「持ってません……」
「そりゃ参ったね。とりあえず日没後は原則通行禁止だけど……、ギリギリセーフかな。持ち物は……」
「えーっと、このホーンラビットの角だけです」
「へぇ、ホーンラビットの……。とりあえず調べさせてもらうね」
そう言うと門番の人はボディチェックを始める。
あ……! そんなとこ……触られたら、声が……。
「ホント、何も持ってないんだねえ」
「……はい」
門番の人が急に真顔になってこっちを見てる。
やだ……、ちょっと照れる……。
「魔術の方も危険なものは使えなさそうだね」
あ、なんか試されてたのかな?
たぶん魔法に関して何か調べてたんだろうけど、<魔力感知>持ってないから反応できなかった、とかそんな感じだろ。
「よし、じゃあとりあえず門通って街に入って」
「あ、はい」
「おーい、ここ頼むね!」
門番の人、門の反対側にいる相方っぽい人に見張り任せるみたいだな。
俺はそのまま門番の人に言われたとおり、門を通って街に入った。
「そのまま歩いてー」
「あ、はぁ……」
あれ、今なんか通知音がなったような……。
【---を更新】
あ! お知らせ出てたのに見逃した!!
なになに? 何か更新したみたいなのでてたよね? もっかい出ない?
「ちょっとー、なにキョロキョロしてんのー。後ろついていくからとりあえずまっすぐ歩いてー」
ああ、もう! 仕方ない、言われたとおりにするか……。
それにしても、「ついてこい」じゃなくて「前歩け」なんだな。
しかしあれだな、やっぱ昔のヨーロッパ風なんだな。
今歩いてるのが中央の大通りみたいな感じ?
結構いい感じの石畳だわ。
そういやもうほぼ真っ暗なのに、街に入ると結構明るいな。
よく見たら街灯が結構あるわ。
流石に電気ってことはないだろうから、ガス灯ってやつかな?
いや、ガス灯って名前は知ってるけど、あれって燃料ガスなのかね。
原理がわからん。
ああ、でもファンタジー世界で魔法があるのは確定だから、魔道具ってやつかもしれないな。
うん、そっちの方がしっくり来るわ。
「あ、そこ右に曲がってー」
その後も門番の人の指示に従って歩いて行った。
って言っても、そんな複雑な道順じゃないけどね。
基本的には街灯が立ってる広めの通りばかりだったわ。
で辿り着いたのが……冒険者ギルドだって。
キタね!!
異世界に来たからには外せないよな!!
なんでここが冒険者ギルドってわかったかって?
看板が出てるからな!!
よしよし、ちゃんと読めるわ。
<言語理解>さんあざーっす!!
しかし明らかに見たことない文字なのに読めるって、なんか変な感じだなあ。
「はーい、そこ入ってね」
建物の中に入ると、中もちゃんと照明設備があるらしく、かなり明るかった。
で、意外と小綺麗な感じだわ。
まあでもガラの悪そうなのがチラホラいるね。
入ってすぐのところは待ち合わせスペースみたいになってんのかな?
4~6人がけテーブル席が20卓ぐらいあって、半分ぐらい埋まってる感じ。
そのスペースの脇を抜けて受付みたいなところに連れられて行った。
「やっほーエレナちゃん」
うわー! ケモミミだあー!!
門番の人に声をかけられたエレナさん、ケモミミだったよー!!
あれかな、見た感じ、猫獣人かな?
顔もなんか半分猫っぽい感じ。
巨匠が作った名探偵アニメのキャラクターみたいな感じ?
可愛いなぁ……。
受付卓で見えないけど、尻尾も生えてんのかなぁ……。
「どうもアディソンさん……。もうすでに厄介事のにおいがしてるんだけど気のせいかしら」
へえ、このちょいイケメン門番の人、アディソンっていうんだ。
っつか、語尾に『ニャ』はつかないのな……、残念。
「さっすがエレナちゃん! 冴えてるね」
うわ、エレナさん、汚物を見るような目でアディソンさん見てるよ。
んでそれを飄々と受け流すアディソンさん。
メンタルつえーな、おい。
「……で、そちらの方は?」
「この人ね、森で迷子になったんだって。文無し身分証なしだけど、素材持ってるからよろしくねー。じゃ、僕は門閉めなきゃだから、行くねー」
アディソンさんは一気にしゃべり終えた後、さっと身を翻して歩き出した。
「ちょっと! ウチは浮浪者の引き受け所じゃないのよ!!」
エレナさんが怒鳴ったけど、アディソンさんは手をヒラヒラ振っただけでそのままギルドから出て行った。
っつか、浮浪者……。
ちょっとショック。
「はぁ……。じゃあそこに座ってください」
促されるまま、俺は受付卓の前にある丸椅子に座った。
エレナさん……近くで見るとやっぱ可愛い……。
あ、なんか営業スマイルっぽい表情になった。
「お名前は?」
「山岡勝介です」
「ショウケ・ヤマオカさんね」
あ、姓名逆になった。
上手いこと翻訳されて、今後はそう名乗れってことなのかな?
「ご出身は?」
「すいません……、森で何日か遭難してたらしくて、昔のことよく覚えてないんです」
こういう時はとりあえず記憶喪失のフリするのが定番だよな。
なんかあったら「思い出せない」で乗りきれるだろうし。
「そう……、それは大変でしたね」
しかしあれだな、俺普通に話せてんな。
門番の人はともかく、こんな可愛い女の人なんて以前なら目も合わせられなかっただろうに。
もしかして、<恐怖耐性>って対人恐怖症にも効果あったりして。
「ここに来られたということは、冒険者ギルドに登録するということでよろしいですか?」
「えーと、あ、はい。たぶん……」
ここからは簡単な冒険者ギルドの説明だった。
登録することで、冒険者ギルドが身元を保証してくれるらしい。
登録の際に血液(っつっても一滴だけね)を提供する必要があり、もし以前に登録の経緯があればその時の情報が出てくるんだとか。
登録情報は各地のギルドで共有されるらしく、これは冒険者ギルドにかぎらず、商業系ギルドや職人系ギルド他、主要ギルドでも共有されるんだと。
なんか妙にハイテクだな。
まあでもこのハイテクネットワークのおかげで、俺みたいな不審者もとりあえず登録できるんだろう。
万が一問題起こしても、その情報がすぐに共有できるわけだし。
「とりあえず詳しい説明は後にして、仮登録という形を取らせていただいてよろしいですか?」
「あ、はい」
「字は書けますか?」
「えっと、たぶん」
表みたいなのが書かれた紙とペンを出された。
こういうファンタジーものでお馴染みの羊皮紙と羽ペンかと思ったけど、紙はなんか粗い和紙みたいな感じで、ペンは万年筆っぽいな。
インクも内蔵なのかな?
とりあえず書いてみたら普通にインクは出たね。
試しにカタカナで”ショウスケ・ヤマオカ”って書いたら、勝手に違う文字で書かれたわ。
変な感じ……。
あといろいろ項目あったけど、年齢と性別ぐらいしか書けることはなかったわ。
「では次に血液登録しますね」
なんかクレジットカードぐらいの大きさの、透明なカードをはめ込んだ台座みたいのを出される。
その台座に丸い窪みみたいなのがあり、そこに指を押し当てるように指示された。
指を当てると、チクっと軽い痛みが走った後、カードがうっすらと光った。
指を見てみたけど、特に傷痕はなかった。
「採血後に自動で回復魔術がかかるようになってますから、傷の心配はないですよ」
「はぁ」
そういうことは先に言っといてくれ。
「……残念ながら過去にギルド登録した履歴はないようですね」
「そうですか……」
そりゃそーだ。
しかし一応残念そうな雰囲気は出しておく。
「ではこれで仮登録は終了です。お時間よろしければ詳しい説明をさせていただいても?」
「あ、はい、お願いします」
とりあえず俺は仮登録ではあるが、冒険者ギルドに加入した。
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