男女が入れ替わっちゃった?!

@neet

第1話

 俺たちは何のために生きているのだろうか。

 下宿のベッドで俺は頭を抱えていた。明日から社会人生活が始まる。大学に通っていた先月まではいつ起きても誰にも迷惑をかけることはなかった。夜中、終電がなくなっても駅前の居酒屋で飲み明かした翌日は夕方まで泥沼にはまったかの如く惰眠むさぼり、課題が終わらない夜は友人と気晴らしに海までバイクを出したりもした。何をやってもよかった。もちろん、法律に触れない程度でだが。

 しかし、明日からはそんな天国みたいな日常は遠い過去のものとなる。手を触れることすら許されない雲の上の存在となる。美化された過去を思い出すたびに、心がきゅっと締め付けられる思いがする。動悸が激しくなって目もうつろになる。

 明日が憎い。月曜日が憎い。新社会人になんてなりたくなかった。俺は何のために生きているのかわからない。

 大学での生活は充実こそしていたが楽しいと思えたことは一度もなかった。周りのやつらはみんな外面だけで生きているって思っていた。深い交友関係を形成できたためしがない。

 だからだろうか。俺はネットでも悪名高いブラック企業に就職してしまった。

 まだ、内定式にしか出ていないが、そこにいたやつらはどいつもこいつもパッとしなかった。外見は下の下、本当に人間なのかと疑うくらいにぐしゃぐしゃにつぶれた顔面のモンスターだっていた。

 こんな俺に生きる希望なんて見つかるのだろうか。

 

 翌朝、目覚めると女になっていた。

 嘘ではない。女になっていた。

 女とは生物学的には乳房があり、股間には何もついていないという特徴を持つ。

 一番初めに気が付いたのは股間に違和感がなかったことだ。立小便をしようとしてもあるものがない。何度触ってもでっぱりは見当たらない。

 鏡で見て愕然とした。あそこには何もついていなかったのだから。というよりも、完全に女になっていた。股間だけではない。顔も体系もすべてだ。

 俺はどうしていいかわからなかった。

 一人暮らしの部屋には俺を知る者はいないし、誰かと不安を共有することもできなかった。

 それに、部屋の外へ出るにしても、今は男物の部屋着しかない。

 考えた挙句、とりあえず不通に外を歩くことにした。

 

 町並みは昨日と全く変わっていなかった。いつもの車道があってスーパーも見える。コンビニの明かりはついていたし、信号機は狂うことなく動いている。

 だが、何かがおかしい。

 都会の住宅地の朝の通勤時間帯だというのに誰も歩いていない。

 静寂があたりを包み込んでいた。このままでは社会人初日だというのに打つ手がないと思ったその時、


「きゃあああああああああああああああ」


 男の嬌声が聞こえた。隣の部屋だ。

 男の声? 確か隣は女子大生だったはずだが。まさか男と寝てるんじゃないだろうな。それで事件に巻き込まれたってこともあるだろうし。

 考えるより先に足が動いていた。

 玄関口に立ちインターホンを押す。

 くたびれたチャイムの音が部屋の中でなっている。

 男の声はぴたりとやんでいた。

 何かがおかしい。

 そう思った俺は、ただひたすらに扉をたたいた。

 ちょっと大げさかとも思ったが、あまりにも奇妙な朝に不安を感じていたというのもあるだろう。

 扉をたたいても返事がない。こうなったら呼んでみるしかない。


「おはようございまーーーーーーーーーーーーーーーーーす」


 あれ? 俺の声は完全に女になっていた。

 うそだろ。まじかよ。

 と思っていると、扉が開いて、


「あ、あの、」


 目の前にどこかしら面影を残すイケメンの姿があった。

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