悪逆の機獣無法者《アーマーローグ》《KRF優秀作品》

ミレニあん

第一章 破壊編

プロローグ

「見つけた……」 


 深く、暗い世界。

 ここは海の中。生命の起源とも言われる偉大で神秘な場所。その中をあらゆる種類の魚が自由に、そして優雅に泳ぎ回っている。

 だが魚の群れが不意に方向を変えていく。まるで何かから逃げているようであり、一瞬にしてその空間から姿を消してしまう。


 理由は一目瞭然である。さっきまで魚がいた空間に、巨大な影が現れてきたのだ。


 大方、人の姿に酷似しているように見える。だが頭部には大きく裂けた口と青く光る両目、四肢の先端には鋭い鉤爪、後方からは常にくねらせている長い尻尾が生えている。魚にしては巨大、海棲生物にしては異形――言わば怪物である。


 海に潜む未知の生物か――いや違う。何故なら黒い角ばった装甲を身に纏っており、所々に機械の部品が見えている。まるでそれは、人型機械ロボットである。

 ロボットの中にはコックピットとも呼べる空間がある。そこに乗り込んでいるのは、一人の少女だった。


「目標を確認。これより撃破する」


 少女の瞳が、前面モニターを睨み付けている。

 映っている海の中に、巨大な物体が泳いでいた。ロボットとほぼ大きさをしており、人型に近い姿をしているが、一方で白い皮膚に包まれている。

 また手足も長く、頭部には赤く光る目がある。単に怪物の姿をしたロボットとは違い、正真正銘の怪物であったのだ。


「さてと、行きますか」


 少女が、口角を不敵に上げる。

 彼女が操っているだろうロボットが、足首にあるノズルから泡を吹かせた。海の中を急速に泳いでいき、怪物に接近する。


 怪物が気付いた時にはロボットが腕を振るい、その頭部を鷲掴みにしていった。


 怪物の鳴き声と思われる高い音が、コックピットにも聞こえてくる。まるで赤ん坊のような甲高く、不気味な悲鳴。

 それでも少女は意を介さず、操縦桿を前に押し倒す。それに連動して、ロボットが怪物と共に急降下した。

 下には海底がある。二体の怪物が落下すると、細かい砂と泡が舞っていく。


 白い怪物の長い腕が、ロボットを殴打する。頭部に少々のへこみが生じるも、ロボットは仕返しとばかりに長い腕を掴みにいく。

 腕を容赦なく引っ張り、引きちぎっていった。断面から血液と思われる緑の液体が海中を漂う。

 

 悲鳴を上げる怪物。そこにロボットの大きな口が向かい、頭部に喰らい付く。鋭い牙が皮膚を潰していき、頭部をただの肉塊とさせた。

 まさしくそれは獣が獲物を嬲り殺すような、暴力的で無慈悲なやり方。


「死ね……」


 少女の顔に、凶暴な笑みが浮かんでいく。


 両腕の鉤爪を、怪物の胸へと突き刺すロボット。そして開くように力を入れ、怪物の身体を真っ二つに引き裂いていった。

 周りに肉片ともやのような緑色の血が舞う。その中で、異形のロボットがゆっくりと立ち上がった。


 禍々しく光る青い目を持つ、漆黒の荒ぶる獣。そしてそれを操る、不敵な笑みを浮かべる少女。

 その者達の名は……その目的は……。

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