夏祭り~あなたのハートを今夜こそ~
神無月招央
第1話
「いいわね? 次の勝負で決着をつけるわよ!」
「いいですわ! 今度こそひよの、あなたを止めてみせますわ!」
わたしは次の屋台に目をつけると、そこに人差し指を突きつけた。
そちらに顔を向ける彼女。
そして、口の端を吊り上げた。
「なるほど、たこ焼き屋さん………ということは」
「そうよ、たこ焼きの!」
「早食いっ!!」
二人同時にその言葉を発すると、同じく、見つけた1パック400円の中々リーズナブルなたこ焼き屋さんにダッシュをかけた!
「へ? 今夜?」
午後最後の授業が終了した教室。各々の放課後の始まりに、にわかに騒がしくなり始めた。
そんな中で、わたしは窓側最後列という学生にとっての特等席に座っている一人の男子学生に声をかける。
「そうそう! 今夜『
よっし! かなり自然に声掛けれたんじゃない、わたし!?
わたしはシュミレーション通りに会話を始められたことに心の中でガッツポーズを決める。
わたし『
そんな高校生活の第一日目。わたしは出会ってしまった。この『
彼は特に飛びぬけてかっこいいわけじゃない。体格だって中肉中背って言葉がぴったりのどこにでもいそうな感じ。ただ、髪とかは全然染めてなくって、おとなしい印象を受ける。特徴をあげるとするなら、休み時間になると必ずなんかの本を読んでることかな。
そんな彼に心を奪われてしまったのは、廊下に落ちていたバナナの皮に足を滑らせて、見事なしりもちを披露してしまった時の事。彼がわたしを起こしてくれた事がキッカケ。恥ずかしかったけど、その時の彼の笑顔が脳裏に焼きついてしまったのだ。
もうそれからは何をしている時でも彼の事が頭から離れることはなかった。
だからわたしの行動は早かったわ。その翌日から水原君に近づいていって、勉強一緒にしたり、ご飯一緒に食べたりしてよく話すようになった。だけど、友達以上にはなかなかなれる雰囲気にならない。何かキッカケがほしかったのよね。
そんな苦悩の日々が数ヶ月続いたとき、目に入ったのが『祓木神社』の夏祭りのポスター。もう神様がわたしに与えてくださったチャンスだとしか思えない!
祓木神社とはわたしの家の近くにある神社で、どんな神様が祀られてるのかは知らないけど、毎年七月の頭に『祓木祭』という夏祭りが行われてる。大きくはないけど、ちゃんと出店とかも何店かあって、小さい頃から友達と一緒に遊びにいってた。小学校の頃とかは夜出歩くなんて滅多になかったことだから、それだけですごく特別な日に感じて、ワクワクしてたもんだった。
それで今日はちょうどその『祓木祭』の日。話を切り出すには最高の口実ってわけ。
もうこの機を逃したら、また当分苦悩の日々が続くことは間違いない。。学校に来る前から、何度も頭の中でどう話を切り出すかを考えまくってた。
で、なんとかデートの話の切り出しはつまづくことなく成功。
後は水原君がオーケーしてくれるのを祈るのみ!!
わたしは表面平静を装った涼しい顔で彼の返事を待っているけど、その心の中では両手を握り砕くんじゃないかって程にきつく組んでの祈祷を行っていた。
「そんなお祭りあったんだ~。いいね、行こうよ」
彼はニッコリ笑ってそう言った。
やっっっっったあああぁぁぁぁぁ~~~~!!!
心の中で拳を天に突き上げる! 表情も素直にほころんでいる。
あ~、全てがわたしの思ってるように進んでるわ~~。ひょ、ひょっとしたら、今夜のこのデートがうまくいって………つ、付き合うだなんてことにぃ!! きゃぁぁぁぁ~~!!
もうなんていうか彼のオーケーの言葉に心が落ち着かない。
「待ち合わせはいつどこにする?」
そんな中、彼の言葉に舞い上がっていた頭が我に戻る。
そっか、待ち合わせ時間とか考えてなかった。今から行ってもいいけど、浴衣とか着たいし、何より夜の方が雰囲気五割増しってなもんじゃないですか。
「じゃあ、七時に祓木神社の鳥居の前でいい?」
「わかった。じゃあまた後でね。俺ちょっと用事があるから」
「うん! じゃあ七時に~」
わたし達はお互いに手を振って、一時別れた。
さって~、わたしも帰ってシャワー浴びて浴衣着よ~~っと!
自然と鼻歌とか歌いながら、帰りの支度をしだした。その時、わたしの肩にポンと手が乗る感触が。
何気なく振り返るわたし。そこにいたのは………。
ゲ………。
「御堂はるか………」
わたしの目に入ってきたのは、どっからどう見ても隣のクラス1-3の住人『御堂 はるか』だった。
もしかして、今の見られてた………?
ほっぺが引きつるわたしを目の前に彼女は、その腰まで伸びる黒くて長い髪をかき上げると、ビシっとわたしに人差し指をつき付けた。
「見~ま~したわよぉぉぉぉ~~~おおっ!!」
………ううぅぅ、やっぱり見られてた………。
わたしは恐れていた最大の問題に見事に直面してしまった。
彼女、『
それで彼女が自己中のワガママ女で、お金持ちであることを鼻にかけるような人間であるなら、わたしもそれなりの態度で接すればいいんだけど、そういうわけではない。むしろ彼女はその逆、とても礼儀のなっているお嬢様なのだ。
御堂家はかなりの名家だから、礼儀作法はしっかりと仕付けられてきたようで、先生にはもちろん、生徒にもとても礼儀正しい。そしてそういう人にはやっぱりカリスマ性みたいなものがあるのか、彼女もわたし同様今年入学したばかりの一年生なのに多くの生徒が彼女を慕っている。将来の生徒会長だぁぁぁ~! なんて言う人は少なくない。
それで、そんな彼女の何が私の中で問題なのかというと………。
わたしはその問題を頭の中に思い浮かべると、肩を落としながら重い溜め息をついた。
………わたしに思いを寄せているらしい………。
「どういう事ですの、ひよの!? 今日の午後は用事があるんじゃなかったんですのっ!?」
「いや~、ほら、だから、さっきのがその用事なのよ」
わたしよりも背の低い彼女はしかし、鼻の頭がくっつきそうなくらいに顔を近づけて迫る。
「そんな………そんな用事私許せませんわっ!!」
…………いや、あんたに許してもらう事じゃないし………。
「じゃ、じゃあ、はるかとは今度遊ぶからさ、今日はごめんね!」
とにかくこの場を逃げ切りたかったわたしは、適当に約束を作ると、彼女に手を振って背を向けた。しかし、
「そうはいきませんわ!」
はるかの右手がわたしの肩を掴む。
「私も今日の『祓木祭』にひよのをお誘いしようと思ってましたのよ! それをあんな男に取られてなるものですか!」
彼女の言葉にわたしは教室の入り口へと向かう爪先を、もう一度はるかへと向きあわさせた。
「ちょっと、あんな男って水原君の事………?」
「そ、そうですわよ」
急にわたしの態度が変わって、はるかは一瞬ひるんだけど、その言葉を撤回はしなかった。
「どうして、はるかに水原君の事をどうこう言えるのよ!」
わたしの言葉に今度は、はるかが目付きを変える。
「………ひよのが………ひよのがあんなに思ってるのに気付かない男なんて、あんな男で十分ですわ! 私は………私はこんなにもひよのの事を想っていますのに………悔しいじゃないですの!!」
声を荒げるはるか。その声にまだ帰っていない生徒が視線を送る。
わたしも彼女の言葉に一瞬熱くなった頭が冷やされ、今度は恥ずかしくなってきた。
そんなにストレートに言われたら、ねぇ。
でも、だからって水原君との約束を白紙になんか出来ない。
「悪いけど、やっぱり今日は無理。どうしても譲れない」
わたしは唇をかみ締めながら、床に目を落とすはるかにそう言葉をかける。
顔をあげる彼女。あわ、涙まで浮かべちゃってるよ。
「分かりましたわ」
あれ? 意外とあっさり引い、
「どうしても無理というのなら、私と勝負してください!」
たわ………はいっ?!
「え? ちょ、ちょっと、勝負って一体………?」
「その勝負に私が負けたのなら、今日のひよのの行動に一切口出しはしませんわ!」
彼女の言葉にわたしはピクリと眉を動かした。
つまり、その勝負とやらではるかに勝てば後ろ髪を引かれずに、水原君とお祭りを楽しむことが出来るって事?
思考回路が高速回転する。
………よし! まだ七時までには十分時間はあるし、勝負を受けよう! ここで断ったら、はるかがこの後どんな事を仕出かすか分からないもんね。
「分かったわ。はるか、その勝負受けてあげる!」
わたしの返答に彼女の口元がニヤリと動いた。
ところで勝負って一体何で勝負するんだろ? バスケとかテニスとかかな? 運動系勝負だったら自身があるんだけど、頭脳系勝負だとちょっと分が悪いかも………。
ここで、勝負内容を聞かずに勝負を受け入れてしまった自分を少し後悔した。
しかし、はるかの口から出た言葉はわたしの予想を大きく上回ったものだった。
「勝負は、今夜の『祓木祭』の縁日屋台を題材にした勝負ですわ!」
はるかのビシっと突き出した人差し指がわたしを捉える。
は、はめられた~~~!!
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