第119話3.11なのに、なのだから

 甥っ子の一人は三月の十一日生まれである。

 産まれる前は「3.11でないといいね」って妹夫婦は言っていた。

 ……。

 震災で亡くなった方のために黙祷する日、と決めつけるのはよくない。

 AKB48だって、慰問のイベントで空気を読んだつもりでTシャツとジーンズで歌って踊ったら、小学生児童に「いつもみたいにきれいじゃないね」って言われたって言うじゃない。

 いつまでも「とてもお気の毒でした」とばかり言い続ける日ではなく、新たに生まれた命もある日にしようよ。

 甥っ子が生まれたのは、三月十一日。

 だけど、ホッブスみたいに、大砲の音を聞いて生まれてしまったわけじゃない。

 恐怖から這い出ることができたといって喜んで死んでいく命ではありえない。

 3.11にも良いことがあったんだって証拠だよ。

 よかったじゃん!

 いいことがあって、生まれてきたことを祝ってもらえて、よかったじゃん!

 3.11でよかったじゃん!

 この世に花開いた、命なんだからさ!


 そりゃあ、震災はとてつもなかったと思う。

 まきこまれた当事者も、遥かに予想もつかない出来事だった。

 もう、地球にやさしくなんてしなくていいんじゃない? ってくらいの猛威だったでしょう。

 でも。

 誰も予想しなかったことの一部に、新しい命が生まれてきたってことがある。

 亡くなった方への哀悼の念も、これからを生きていく子供たちへのことほぎも、同時にあっていいんじゃないかな?

 どちらか一方を否定する必要はないんじゃないのかな?

 3.11は、私の愛する、かわいい甥っ子の誕生日でもあるんだからさ!

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