第88話アカデミズムな絵

 どうしてだろうか? NHK交響楽団のコンサートのように。アカデミックな手法に基づいた絵画を見るのと同じ感触がするのだ。

 尚 月地さんの『ノスタルヂア』(オリジナルイラストレーションワークス)の表紙が。

 バラやフリルたっぷりのドレスを纏った女性が、飛行船に天空のワンショットを縁取る。一見少女漫画チックでとっつきやすそうに見えるものの、その姿は難解なパズルのようである。

 まず目につくのが、中央にくる女性の下半身。ぴっちりしたオーバーニーソックスを履き、ヒールの高い靴を履き……鳥かごのような(実際鳥もいるからそうなんだろう)台の上で(中で?)ポージングしている。

『おさわり禁止。観るだけよ』と言っているのか、『私は自由なようで籠の鳥』といっているのか、『どこにもいかない。これで満足』という微笑なのかわからない。女性の左腕が鮮やかな青と紫、黄緑、オレンジからなる翼になっているところからは『今は閉じ込められているけれど、本当は飛べるのよ』と言っているのかも……(いずれにしろ不自由そうだ)と、いろいろ考えさせられるのでうっかり意識をなくした。

 はっと気づいたら、それはアカデミックな場でのわたくしの思考停止と同じだった。芸術はわからないもの。

 尚 月地さんのイラストはどうもシュールレアリスムに触れた時と同じ感触がする。ルネ・マグリットかなとも、サルヴァドール・ダリかなとも思った。

 思ったけれどもわからない。わかったらすごいと思う。

 尚 月地さんがきっちり勉強なさってきたのは、マリアの赤い服とラッパを持つ四人の天使たちを見たらなんとなくだけど察することができた。それがさりげなくモブのように画面に配置されてるから、知らなくても神秘的だなあくらいは思える。

 しかもこれらは十年前の画集で、復刻版が出てもおかしくないとも感じられる。

 時代は、ダリなのだろうか……いや、尚 月地さんなのであろうか。

 しつこく悩むことにする。

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