第62話現実を動かす

 輝かしい何かと自分に映る暗黒面が、わたくしは苦手だ。

 トラウマという言葉を思い浮かべるだけで、吐き気がする。


 もっとできるはず。


 そんなこと、自分で思うならまだしも、他人に決められたくない。

 もっとやれるはず。

 そう言って赤ん坊のころから孤独に習い事をさせれば、将来その子は大人物になるのだろうか?

 その子は、心に傷を負って、もっと楽しい何かを夢想するのではないか?


「自分はもっと、できるはず」


 そう思って、何もしないで過ごす人生を送るのではないのか?

 もっとできるはずの自分を思い浮かべるだけの、面白くもない人生を。


 きっと自分はできるはず。でもしない。


 心の奥にしみったれた泣き言をくり返した、薄暗がりが脳裏に宿る。

 

 実際はそうではない。

 自分は泣かなかったし、適当に努力して、嫌なことは見ないふりをした。

 

 もっとやれたか?


 そう思える日もあったろう。所詮そこが限界だと認めたくないがために。

 直視すれば傷つくだけの残酷な日々。泣きたい。泣きたい、本当は。

 だからもう、直視しない。太陽を見つめ、視力は落ちた。涙もようやく心に伴うようになっただけで。意地を張って泣かないのではなく、泣けなくなっていた自分を慰撫することで、カタルシスのなんたるかを憶えた。

 

 心が壊れてたら、ろくなものは書けない。だから直した。


 まだまだまだまだ、治り切ってはいないけれど、それより先に現実をなんとかしなきゃなって思う。


 わたくしには力がある。認めよう。認めなければいけない。

 しかし、気力がない。自信がない。覇気がない。なにもしないから。

 なにかをすることはできるのに、結果に裏切られた経験が無気力を誘う。

 こんな自分が現実を動かせるだろうか?

 また裏切られたら、恨み節になるのではないのか?


 いやだ!!!


 危機回避行動は悪循環を呼び、周囲の暴力はすさまじさを増したっけな。


 やらなきゃいけないんだ。今、できることを。


「おまえのかわりはどこにでもいる」


 そう言われないように。努力するしかない。

 周囲を抹殺するのではなく。回避するのではなく。仲良くやっていこうよと、言えるようになるために。

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